夏休めない職業
科学といえば……。
父が理科の教師をやってて、母は図工の教師。そう、うちは両親とも学校の先生。
そうして自分は美術系の道に進み、妹は科学系の道に進んだ。
なんだか面白いよね、スポーツ選手の子どもが同じスポーツの道に進むみたいに、親の進んだ道に進みがちなのって。
『環境』だけであれば自分と妹はほとんど同じだったはずなのに、遺伝ともまた違った何かが作用してるような不思議な感じがする。
学校の先生ならではの思い出といえば、母の夏休みの出勤当番に一緒に連れていってもらったこと。
自分もまだ小学生の頃で、たぶん留守番させておくわけにもいかないから一緒に連れて行ったんじゃないかな。あるいは、自分を楽しませようとしての事だったかもしれない。
初めて入った『ほかの小学校』。
蒸した空気が満ちて、たくさんの人の気配が染みついているのにがらんと無人で、セミの声しか聞こえない。
夜の学校の呑み込まれそうな怖さとはまた違う、真昼にポッカリと口を開けた空洞みたいな、どこか心の端っこを不安にさせる感じがして学校探検をする気にはなれなかった。
だから足を踏み入れたのは、職員室と図工室だけ。
母の職場である図工室で、電ノコやら端材の木片やらを使って工作を楽しんだ。
もちろん母も近くにいる。
メーカーのサンプルで貰ったクレヨンや絵の具なんかも使われないまま溜まってて、母が貸してくれるそれらで作った木工作に色を塗ったり。
今と違って図工室には扇風機しかなかったから、唯一冷房のある職員室に戻ると工作の達成感と涼しさで「ふぅーっ」と息をついた。
同じく当番で来てた他の先生たちも優しくて、たぶんお菓子とか貰ったような気がする。
『小学校』の職員室でジュースやお菓子を食べるっていう、小学生の自分にとってはちょっと特別な体験だった。
こんな経験も、もしかしたら美術系の道を選ぶ一因になっていたのかもしれない。
父も育児に積極的なタイプだったから、先生ならではの思い出もある。
さすがに学校に連れていってもらったことはないけど、勤務先近くの夏祭りの『見回り』に一緒に連れて行ってくれた。
見回りっていっても緩い感じで、屋台でいろいろ買ってもらいながらてくてくと食べ歩き。
父はコンビニ前でたむろしてる輩に注意しちゃうような生真面目な正義漢だから、ケンカでも起これば即座に仲裁に向かったんだろうけど、幸いなんの騒動もなく平和に過ごせた。
途中父の教え子たちに出くわして「◯◯先生の子ども!?似てるぅ〜!」と笑われてズガーンとショックを受けたり。
似るなら母似がよかったのに……。
人見知りの自分は、もごもごと挨拶もろくにしないで父の背に隠れるだけだった。
父はあんまり仕事のものを家に持ち帰らなかったから、妹が科学系に進んだ要因はナゾ。
母にベッタリで、お父さん子だったってこともないしなぁ……。
夏休み中。
生徒たちが羽を伸ばす間にも、先生たちにはいろいろとやることがあるようです……!