表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

ーー神殺樹の木の下でーー

 ーーあまねく星が光りし時、聖戦が開かれし終焉へと向かうだろうーー

 ーーこれは神無き人が神へと臨む物語

 安寧を、《心休まらぬ者》へ。

 救いなき道に《救い》を見出す災厄は、儚くも

 ーー永き眠りの底、遠き刻へと沈む。


 遥か南方、瘴気渦巻く森の深奥。

 そこに名を知らぬ者なき存在が根を張る。


 ーー“神殺樹”(シンサツジュ)


 神すら穿つと語られる、伝説の樹木。

 崩壊と再生を幾度も繰り返し、己が意志を抱くかのように伸び広がる。

 近づく者をことごとく拒絶し、そのすべてを帰さぬ異形。


 それは怨霊の巣か、戦士の墓場か。

 伝承はまちまちで、真実は未だ靄の中。


 幾重にも縒れ、絡み合い、螺旋を描く枝々は、空を拒むように天空へ突き立つ。

 

 深緑の樹海の底、その影に

 ――微かに、微笑む気配があった。


 *


 風そよぐ森の奥、木漏れ日を抜けるように一陣の影が駆ける。

 視界を遮る落葉に風情を見出す間もなく、少女は躍動する。


 小さな崖を滑り降り、垂れ下がる枝を抜けた先。

 そこには、草一本すら生えぬ広場。

 天すら穿つ巨木が、大地を突き刺すように立っていた。


 「……よし、今日もあったな」


 息を整えながら、少女は地に転がる赤い実を見下ろす。

 一体どこから落ちたのか。

 見上げれば、枝々は雲の彼方へ消え、輪郭さえ掴めぬほど高く伸びている。


 あの高さから落ちたのに、なぜ実は砕けぬのか。

 疑問は浮かんでも、答えを探す気はない。

 少女は迷うことなく、ひとつ実を拾い上げ、口へ運んだ。


 *


 気づけば日は傾き、空は夕焼けに染まっている。

 淡い朱が、虚ろな目を照らす。

 少女は体を起こし、ぼさぼさの青い髪を振る。

 だらしなく垂れたスカーフ、巻かれたバンダナ。

 その姿は、遠目には少年のようにも見える。


 少女はいつも、決まってこの時間に現れる。

 水をやり、周囲を見回り、赤い実を頬張っては眠る。


 神殺樹は、彼女にとって昔からの「ともだち」だった。


 (昔は、こんなに小さかったのにな……)


 再び実をかじりながら、少女はまた、微睡みに沈む。


 *


『不沈なる強欲の樹よ! 天の裁きにてその身を焦がせッ!!』


 突如、天より神々の軍勢が舞い降りる。

 清き火を携え、天空を灼く光と共に神殺樹を取り囲む。


 『神殺しの樹…… 所詮は伝説に過ぎぬ。神域を侵す罪、その身に刻め!』


 怒りの咆哮が森を震わせ、光が世界を焼こうとした、その時。


 少女は、静かに目を開ける。

 眠そうに、あくびをひとつ。


(……ん? 今、なにか見えたような……?)


 視界に燃え盛る炎が映っているのに、彼女の目は別の遠くを見つめていた。


 その刹那。


 『!? なっ、何だ!? なぜ……やられている!?』

 『意識が……遠のく……なぜ……?』


 神々の姿が揺れ、霞み、薄れゆく。

 燃え盛るはずの炎は音もなく消え、静寂が世界を覆う。


 崩れゆく神の軍勢の背後で、森に響いたのはーー


 ただ一つ。


 少女の、豪快なイビキだった。

 『セウォルツ...... やっぱりここにいたんだね......』

 どこか憂げな表情を見せる謎の存在。

 寝るはずもない神を回収して姿を消す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ