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第一話 はじめまして、ちゃーはん


 俺は富田花郎。どこにでもいる普通の根暗オタク高校生だ。部活動には所属せず、オタク友達とインキャライフを満喫している。家に帰れば自分の部屋に籠もり、お気に入りのVtuberの配信を見ながら、趣味のイラストを描くのが日課だった。


 その日も、いつも通りペンタブレットを握りしめ、キャラクターを描いていた。外は雨が降り始め、窓を打つ雨音が心地よい?しかし、その静けさが突然破られた。階下のリビングから大きな物音が聞こえ、俺は思わずペンを落とした。いや、ペンを落とすというよりも、放り投げたというのが正鵠を得ているかもしれない


「またあいつか……?」


 両親は海外出張中で、家には自分しかいないはずだ。クソビッチギャル(以下、クソビ。生物学上の妹)しか考えられない。確かに彼女は生理のたびにゴジラをも真っ青にさせるけれど、さすがに今回はさすがに酷い。今も何かの破壊音が断続的に聞こえてくる。


 恐る恐る階下に降りていくと、リビングから物が倒れる音が聞こえてきた。さすがにクソビでもここまでの大暴れはしないだろうと確信に変わっていた。震える手で携帯電話を握りしめながら、そっとリビングのドアを開けると……。


「どこに行った! あの勇者め、八つ裂きだ! いや、六四つ裂きにしてくれる!」


 そこには、赤い長髪をなびかせた幼女が、まるで竜巻のように家具を吹き飛ばしていた。テレビが宙を舞い、こたつがバラバラに砕け散る。彼女の周りには不思議な赤い光が渦を巻き、明らかにこりゃ人間技じゃない。


「な、な、な……」


 俺は思わずスマートフォンを取り落としてしまった。家具や家電が派手な音を立てて壊れていく中、スマホがフローリングの床とぶつかる短い瞬間、幼女は急に動きを止めた。くるりと振り返る彼女の瞳は、まるで炎のように赤く燃えていた。


「ただの人間? バカな、吾輩の魔力の前にただの人間など意識を保てるわけが……」


幼女はそう呟いたが、どうやら俺に話しかけているわけではないようだ。周囲の様子に気を配っているようだ。


 まあいい。それは好都合だ。今のうちに警察を呼んでしまおう。俺は体育の成績が2とは思えないスピードでスマホを拾い上げた。


「もしもし、お巡りさんですか?怪力の幼女がうちで暴れているんです。パトカー100台、いえ、200台呼んでください。」


そう言おうとした瞬間、スマホは爆発した。


「おおっと、余計な真似をするなよ、人間。吾輩は魔王リアス。貴様からはちっとも強者のオーラは感じないが、吾輩の魔力に耐えうるということはただの凡人ではないだろう。」


は? は? は? スマホが爆発した!? しかもこいつ、見間違いじゃなく本当に幼女が暴れてる。いや、まて、これは夢か?手が! 手が痛い! 嘘だろ!?


「……くだらん。その反応の悪さ、やはりただの虫けらか。喜べ。吾輩直々に……ぐぅ~」


ツラツラと語り始めた幼女の途中、彼女のお腹が大きな音を立てた。彼女は顔を真っ赤にして、急に幼い表情を見せる。


「……何か食べますか?」


俺の口が勝手にそう動いた。普段はクラスの女子にすら話しかけられない俺が、である。はは、最後に自分の可能性を見た気分だ。こんなことならクラスのマドンナに告白とまではいかなくても、せめて朝の挨拶くらいすればよかったなぁ……。後悔ばかりの人生だった……。


「……うむ」


意外なことに、幼女はこくりと頷いた。今さらになって体が震えてくるが、なんとか慎重にキッチンへと向かう。幸い、キッチンの方は被害はそれほどではなかった。


「す、少し待っていてください。俺の得意料理、チャーハンを作りますので!」


「ちゃーはん……? それは美味いのか?」


幼女は首を傾げながら、興味深そうに俺の後を追ってキッチンへと入ってくる。これが、平凡な高校生と異世界から来た魔王の奇妙な共同生活の始まりだった。誰も、このチャーハンが二人の運命を大きく変えることになるとは、まだ知る由もなかった。さて、まず倒れた冷蔵庫をどうやって起こそうか。

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