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双子の弟(※ガチムチ)と身体が入れ替わりました。

作者: 砂臥 環

先に投稿したなろラジ参加作品の加筆修正版です。

細かいいくつかは変わっていますが、大筋は同じです。

「1000文字で充分!」な方はなろラジ版を。

「ちゃんと説明して!」な方はこちらを。

「いくつも同じの上げんな!」な方はブラウザバックを推奨致します。

無駄な心配とか言われると恥ずかしいんですが、一応なろラジ版はランキングに反映されないようにポイント非公開にしておくので、何卒ご容赦くださいませ。


⬇なろラジ版⬇

https://ncode.syosetu.com/n8467jv/

 

「わ、私達……」

「入れ替わった……?!」


 それは卒業まで三ヶ月程と迫ったある日のこと。私と双子の弟の身体は入れ替わった。


 シアン子爵家の双子の姉の方──私ビビアンナは、双子の弟、ロンバルトに誘われて森へ散歩に出た。

 入れ替わったのはその時。

 弟が祠のお供えモノに手を出した後すぐのこと。


「これは呪いに違いねぇ……!」

「バカー!! 犬でも躾られてれば拾い食いなんてしないわよ! どうしてくれるの?!」


 私はタウンハウスから通っているからまだいいけれど、騎士科の弟は寮だ。ルームメイトもいる。


「大丈夫、今エディに手紙を書くから」


 手紙には【勉強をし過ぎて体調を崩した為、当面座学のみに専念するからフォローよろしく】と書かれている。


 弟のロンバルト……ロンは、雪がチラつく真冬に外で水浴びしても風邪をひかない身体なだけに、体調を崩す理由がリアル。

 代わりにこの弟が『座学のみに専念』なんて殊勝なことは言う筈もないので、『勉強し過ぎて脳がやられたのか』と心配されそうだけど。


「……っていうか、こんなので大丈夫なの?」

「バッチリ」

「ねえ、彼には事情を話さない?」

「馬鹿、ルームメイトだぜ? 気ィ使うわ」


 馬鹿に馬鹿って言われたわ。


 釈然としないが、確かに無関係の人を巻き込んで頼るのは如何なものか、と言えばそう。

 手紙を紙飛行機にして魔力で寮の部屋まで飛ばすと、私は弟として寮へと戻った。





 ルームメイトは幼馴染みのエディ・シーグローヴ卿。

 私も知ってる相手なだけに、少し安心。


「おかえりロン、身体大丈夫か? なに、困らないように俺がついてるから心配するなよ」

「う、うん」


 魔法騎士である彼は、騎士科なのに成績優秀で優しくスマート。脳ミソまで筋肉の、躾られた犬より劣るロンとは大違いだ。


 幸いなことに、馬鹿だが明るい弟は好かれていた。周囲も楽しい人ばかり。男集団の粗雑なところや乱暴さには困ってしまうこともしばしばあったが、大体エディがさりげなく助けてくれた。事情は伏せてある筈なのに、気遣いが凄い。


(変わらないのね、エディ……)


 エディは私の初恋だったけれど、婚約者ができてからは一切交流をしていない。

 離れて良かった、と思う。

 友人相手の態度でもときめいてしまうくらい、彼は優しいから。

 全身鏡に映る私の姿が見事な腹筋を誇る逞しい弟の姿でなければ、きっと勘違いしてしまったに違いないのだ。


 実際、腹筋の補佐をしてくれたエディと顔が近付いた時も、「ビビ……」と甘く囁くような空耳が聴こえたくらい。

 彼がロンの腹筋の方に目を向けて『ロンの身体はカッコよくて羨ましいよ』などと言わなければ、なにかを期待して目を瞑ってしまったかもしれない。

 ルームメイトって、近くて危険。


 大丈夫、私はロンなのよ。

 筋肉ムキムキの弟、ロンバルト。


 友達でいいから今だけエディの傍に……っていうかまあ、ロンの身体だし安心ね。





「あ、偉い呪術師に診てもらったんだけど、卒業あたりで呪いは解けるってよ」

「そうなの?」


 休日、タウンハウスに戻ったロンの身体の私に、私の身体のロンは思い出したように言う。

 ……『偉い呪術師』って胡散臭くない?


 そう思ったけれど、魔法騎士であるエディに紹介してもらったらしいので信用することにした。

 ひとえにエディへの信頼であって、ロンから言われただけなら信用しなかったと思う。


「あら? でも紹介って……私の姿で?」

「ん? いやその……手紙だよ手紙。 当日はお前の姿だけど、エディはいなかったし……それより、それまで割り切って互いに楽しもーぜ! 騎士科も結構楽しいだろ?」

「う、うんまあ……そっちは大丈夫なの?」

「勉強以外はバッチリだぜ!」


 この際勉強は卒業できればいいけれど、生活に不安しかない。


「ちょっと……そんな言葉使いしてないでしょうね?」

「あらヤダわ、失敬ね!」


 そう言ってロンは「オーホッホッホ!」と高笑う。

 待って、私はそんな笑い方したことないわ。


 弟の振る舞う私が心配だったが、彼が楽しそうなので私も楽しむことにした。

 だって、学園を楽しいと感じたのは初めてなんだもの。



 同級生である私の婚約者のボブ・リマリー伯爵令息は、顔が整っていることと家柄を鼻にかけ、いつも複数の女の子とイチャイチャしていた。

 それでも遊びと割り切っていたのか女子達は徐々に減り、卒業間近な今は『一番のお気に入り』とか吐かしていた男爵令嬢だけになったけれど。

 注意をしても『嫉妬は醜い』などと言われてしまい話にならないくせに、関わらないようにするとわざわざやってきて他の女の子と比べて貶めてくる。

 周囲からは嘲笑され、惨めだった。


 彼は普通科だけど、リマリー伯爵家は代々騎士を輩出している名家。そしてボブの兄君は騎士団長で、ロンの上司になる方。

 シアン家は弟のサイモンが継嗣。本来ならロンなのだが、勉強が嫌いなので『騎士になる』と言った時は皆が諸手を挙げて賛成している。


 我が家の家族仲が良いだけに、ボブとの不仲を知ったら皆心配する。それだけでなく、彼の言動に烈火の如く怒るに違いない。

 そして……きっと、ボブに殴り掛かる。

 私は婚約の白紙や解消ならば別にいいのだが、『穏便に』そうなる気がしない。


 サイモンはともかく、父とロンはリマリー騎士団長と同じくらいムキムキなので、下手すると一発だけでもこっちが慰謝料をとられかねない惨状になるだろう。

 しかも相手は伯爵家だ。


 いずれ騎士になるロンや、家を継ぐサイモン。嫁いで家を出る私が家族の幸せの妨げになるようなことは、とてもじゃないけれど言うことはできなかった。



 幸い弟は相変わらずで、ヘラヘラと締まりのない表情をしている。私の顔だけど。

 私の身体で過ごしても、何も気付いていないみたいで安心した。


「うん、ちゃんと筋トレやってるみたいだな!」

「や、やってるわよぅ……っていうか私の身体でもやってる? なんだか鏡で見ていた時より血色がいいわ」

「ふっふっふ、そうだろう! 全くひ弱な身体過ぎて、最初は筋肉痛が酷かったぜ!」


 なんか健康体にもしてくれたらしい。

 これは戻ったら太らないように、筋トレを続けなくてはいけなくなったわね……まあいいけど。





 卒業の少し前、弟に呼び出された私は普通科の学舎へ向かった。

 心配してくれたエディと共に。


 そこには私の姿の弟と、私の婚約者ボブと彼の腕に引っ付く女の子……

 と、何故か生徒会の方々が潜んでいる。


 生徒会の方と目が合うと、唇に人差し指を当てエディへ目配せ。

 ロン(わたし)の大きな肩にエディの腕が回る。


「ここで見てよう」と小声で言われた私は、薄々なにが行われるかを察しながらも、色々な意味で固まってしまい動くことができない。


 ち、近いわ!……じゃなくて!!

 ロンってばなにを……っていうか、

 いつから(・・・・)?!


 この状況、そして私を呼び出したのは私の身体のロン。

 ロンは気付いていたのだ。

 私の辛い学園生活と、その元凶に。


 いや……身体が入れ替わったのだから普通なら気付かないワケがないのだが、17年双子の姉として過ごしてきた日々が『ロンなら全然有り得る』と処理してしまっていたのだ。


(というか、ロンがこんな──)


 ようやく気付かされた衝撃の事実から、私の思考は巡りだし、これまでの出来事やいくつかの違和感が溢れひしめいてぐるぐると回り出した時だった。



「ビビアンヌ! 貴様との婚約を破棄する!!」



 ──という、ボブの声。



 それに対し、(ロン)は……


 ああっ!? なにか紙を見ているわ!

 さては……カンニングペーパーね?!


「わ、ワタクシにどんなカシがあったというのでしゅ!?」


 噛んだわ……!!


 しかもアレ多分、『瑕疵』って意味わかってないんじゃないかしら?

 っていうかそれくらいの科白覚えなさいよ!


 ああっツッコミどころが多過ぎて思考が逸れていく……!


「フン、そういう生意気なところに決まっているだろう! 女など、馬鹿でも素直で可愛く男に傅いていればいいんだ!」


 チラリと副会長(※女性)を見ると、侮蔑と嫌悪に満ち満ちた視線をボブに向けていた。


「ご自慢の成績も下がったことだし、婚約破棄なんかされては今後の嫁ぎ先が不安か? 素直になれば愛人くらいにはしてやってもいいぜ」

「ボブ様ったら勝手にひどぉい!」

「いいだろ、ミリー。 正妻はお前にするからさぁ……」


 彼女がプンプンしながら胸を押し付けると、チラリと(ロン)の方に視線を向け、見せつけるように口づける。


 きっと、見せつけているんだと思う。

 考えてみたら見せつけるのが好きよね、この方。


(はっ、もしかしてこれが『性癖』ってやつなのかしら……!?)


 再び副会長を見ると……その瞳は『無』。

 多分、侮蔑とか嫌悪とか通り越したんだと思う。

 よく小説で見る『汚物を見るような目』を実際に体現するとこんな感じではないのかしら。汚物をわざわざ見たくはないけれど、見たところで『汚物だ』としか思わないもの。


 暫く黙ってそれを見ていた(ロン)だが、彼等の後方に目をやって小首を傾げる。


(……アイコンタクト?)


 おそらく潜んでいる生徒会のどなたかなのだろうが、こちらからは見えない。

 (ロン)が頷く。


(まさかっ!)


 我に返った弟の身体の私は、肩に乗せられたエディの腕を振り払って足を踏み出す──


「せいやー!!!!」

「ほぶゥッ!?」


 ──も、時既に遅し。


「ああっやっぱりー!?」


 殴られたボブは吹っ飛んだ。

 ビックリする程。

 私の拳にそんな威力はない筈だ。


(あっ、まさかこの為に──)


 私の身体の弟の暴挙に駆け寄ったところで、急に視界は暗転。意識が途切れた。





「──お嬢様ッ……」


 目覚めると自室のベッド。

 侍女のベルが何故か一瞬喉を詰まらせたあとで、私に背を向けてカーテンを開ける。


「さあ今日は卒業式ですよ。 このベルが誰よりも美しくして差し上げますわ!」


 弾んだ口調でありながら、声が震えている。

 ぼんやりした頭のまま、身体を起こすと長い髪が膨らんだ胸に流れるのが目に入り、息を呑む。


「……戻ってる……!」


 私は元の姿に戻っていた。


「お嬢様っ?!」


 はしたなくも寝間着のまま、ロンの部屋へと走る。

 脚に絡み付くスカートに気を取られながらも、頭の中にはあの日と同様に、これまでの出来事やいくつかの違和感が溢れひしめいてぐるぐると回り出していた。



 ロンに誘われて行った森への散歩。

 祠のお供え物をロンが食べてからの入れ替わり。


(あんなところに祠なんてあったかしら? そもそもあれは本当に祠(・・・・)なの?)


 ロンに呼び出されて向かった普通科の学舎。

 ボブと女の子。告げられた婚約破棄。

 そこに潜む生徒会の方々。

 辛い状況に気付いていたにせよ、ロンには有り得ない手際の良さ……


 事情を伏せての手紙にも関わらず、物凄く気遣ってくれたエディ。

 彼は成績優秀な魔法(・・)騎士で、私達の幼馴染み。

 私は距離を置いていたけれど、ロンとは親友でルームメイト。


 初めての楽しい学園生活。


 私のパンチ(・・・・・)で吹っ飛んだボブ。


 ──卒業までの、三ヶ月という期間は。


 

「ロン!!」


 ロンの部屋の扉をノックもなしに開ける。

 早起きなロンは、既に鍛錬どころか着替えも終えていた。


 騎士科の彼は、滅多に着用しない正装。

 我が弟ながらとても凛々しい。


 沢山言いたいことや聞きたいことがあったのに、私はみっともなくボロボロと泣いてしまい、一言しか出なかった。


「……婚約はどうなったの」

「なにそれ、寝言?」


 およそ三ヶ月にも及ぶ入れ替わりの話も『悪夢でも見たんじゃない?』と弟は半笑い。

 

「それよりホラ、ベルが待ってる」

「──」


 戸惑う私を湯浴みさせた後、ベルはドレスや小物で私を飾り付けていく。

 おそらくベルはなにもかも知っているのだが、なにを聞いても躱されてしまい、私は聞くのを諦めて目を瞑り思考に耽った。


 確かにベルは私の侍女で信頼もしているけれど、家ではこうして特別な日以外に着替えや湯浴みの世話はしない。ベルが知っているのは私の身体であることを慮ったロンが、彼女にだけ打ち明けて世話をさせたからなのだろう。

 入れ替わったのが双子の弟とはいえ、本来当然の羞恥心だ。自分の身体なのに、大した心配もしていなかったことに今更気付く。

 明らかな視野狭窄。


 ──『女など、馬鹿でも素直で可愛く男に傅いていればいいんだ!』


 その言葉を聞いて、侮蔑と嫌悪に満ち満ちた視線をボブに向けていた副会長になんだか感動したことを、不意に思い出す。


 ボブの言ったような考えが古いから共学になったのに、勉強を疎かにして出会いを求める女子はまだそれなりにいる。

 散々私を嘲笑っていた人達とか。

 悪意に晒され続けたせいで、自分の方がおかしいのかも……と、感じてしまう瞬間がどうしてもあった。その度考えては『私は間違ってない』と思い直したけれど、それは孤独で辛い作業だった。

 

 もっと誰かに上手く頼ることができたら、私が私のままでも学園生活は違ったのかもしれない。


(……きっと、自分で思っていた以上に追い詰められていたのね)


 覚悟しているフリをして、卒業後に待ち受ける結婚に絶望していた私に気付いたのは、私じゃなかった。

 いつ頃、どういう流れでかはわからないが、ロンはエディに相談したのだろう。


 入れ替わりは呪いなんかじゃなく、魔法。

 祠に見えた物は魔道具だったに違いない。


 それに私は魔力が多少使える。

 紙飛行機を届けるくらいでしか活用したことはないが、ボブが吹っ飛ぶくらいのパンチを繰り出す『一瞬の身体強化』くらいは教わればできたのだろう。

 リマリー家は武芸の名家。息子が殴られ酷い怪我を負わされたとしても、相手が単なる女子学生の私では、それを訴えるなんてみっともない真似はできない。


「……できましたよ!」


 ベルの自信に満ちた声に瞼を開けると、そこには今まで見たことのない私がいた。



 耳に入れたくないのに聞こえてきて、ずっと私のどこかに残っていた陰口が靄のように湧き上がり、一気に消えていくように感じる。


 代わりに耳に入ってきたのは、新鮮さを伴った色々な音。


 廊下から、こちらへ近付いてくる少し乱暴な足音。

 窓の外の木々のさざめき。

 馬の蹄と馬車の車輪音。


 そして扉のノック音と共にロンが入ってきた。


「ノックしながら入ったら、ノックの意味ないじゃないですか!」

「ごめ~ん。 おっ、ビビってば流石俺の姉! いいじゃん綺麗じゃん」


 先程『悪夢』で全ての事象を強引に片付けた弟が褒める。

 その語彙の少なさに不満を漏らすベルをよそに、ロンは窓の外を見て言う。


「来てるよ、婚約者」


ザンテイ(・・・・)? だけどね」と小さく付け加えた弟の言葉。


 馬車の止まる音に、窓から外を見る。


 柔らかな日差しの下。

 馬車から降りたエディが眩しそうに目を細め、こちらへ手を振っていた。




※パンチの説明を入れ忘れたので加筆しました。

※サイモン(弟)の説明を入れ忘れたので加筆しました。

いくつも抜けがあってすみません!!

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― 新着の感想 ―
いい!\(^o^)/ エドとロン(私)のルームメイト関係のところが特にいい! そりゃーときめく!笑 長い版の方が好きだな~♡ コメディ要素が増えてて楽しい笑 面白かったです!!
ファンタジー設定を上手く活かされてますね! お見事です( ˘ω˘ )
己の読解力と妄想の翼が衰えていなかったと知って小躍りしておりますが、まさか、加筆前の御作へ送らせて頂いた感想が原因でしょうか? 微塵も悪気はなかったのですが、なにか御気に障る事があったのならば申し訳な…
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