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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人魚の呪いを掛けられた王女様

人魚の呪いを掛けられた王女様 〜見つめ合わないと出れない部屋〜

作者: 天恋 水蓮

前作、『人魚の呪いを掛られた王女様 〜王女様の想い人は呪いを掛けた魔女様です〜』の番外編となります。




見つめ合わないと出れない部屋



 ふっと意識が浮上する。

 回らない頭を起こすように何度か瞬きを繰り返して、ティレーネは慌てて飛び起きた。

 さっきまで豪華な調度品が並んだ自室に居たはずなのに、今は何も無い真っ白な空間にいる。

 辺りを見渡すと、ティレーネの大好きな魔女がうつ伏せで倒れていた。

 

「魔女様!」


 ティレーネは慌てて魔女に駆け寄る。

 

「んん……。ふわぁ。気持ちよく寝ていたのに、一体何なの?」


 魔女は一つあくびをすると、起き上がる。

 

「何?この真っ白な空間は。」


 魔女が怪訝な顔をして問いかける。


「私にも分かりません。気づいたらここに居たのです。」

「そう。それより、ティレーネ怪我は?」


 魔女が優しく微笑みながら尋ねる。

 

「大丈夫です。魔女様は?」

「フッ。私も平気よ。」


 魔女はスクッと立ち上がり、何かを確かめるように歩き回る。

 

「何か見つかりましたか?」

「いいえ、何も無いわ。出入口になりそうな扉すらないわね。」


 扉がないという言葉にティレーネは唖然とする。

 普通の人だったら、魔法の使える魔女の仕業ではないかと疑うところだが、ティレーネは魔女のことを一切疑っていない。

 それだけ、魔女のことを信頼している。

 

「魔法で壁を吹き飛ばそうと思ったけれど、魔法も使えないわ。」

「そんなことってあるのですか?」

「現に使えないわ。まあ、こんなのとになったのは初めてのことだけれどねぇ?」


 どこか楽しそうに魔女が呟く。

 魔女は不敵に笑ったあと、ポンポンとティレーネの頭を撫でた。


「そんなに不安そうな顔をしなくても平気よ。

 だってあなたには、この偉大な海の魔女様がついているのよ。

 魔法が使えなくても、不安に思う必要なんてないわ。」

「魔女様……。」


 魔女の言葉に安心して、ティレーネが柔らかい笑みを浮かべると、上からひらひらと一枚の紙が降ってきた。


「魔女様!何か落ちてきました!」


 ティレーネが紙を拾い上げようと手を伸ばす。

 しかし、ティレーネより先に魔女が紙を手にする。

 

「危ないから、迂闊に手を出してはダメよ?」

「魔女様だって危ないですよ。」

「私は平気よ。だって魔女だもの。」


 魔女は恐なんかないというように、平然と紙を確かめ始めた。

 紙を触ったり、匂いを嗅いだり。

 害がないと分かったのか、魔女は二つ折りの紙を丁寧に開く。

 

「一分間 見つめ合わないと出られない部屋。」


 魔女がポツリと呟く。

 害がないと分かり、ティレーネも紙を覗き込む。

 

「一分間、見つめたら出れるということでしょうか?」

「きっとそうね。」

「小さい文字で甘い言葉もと書いてあるのですが、これは一体なんでしょう?」

 

 甘い言葉というのが分からずティーネは首を傾げる。

 

「ティレーネがいつもやっていることよ。」


 魔女が呆れたように言う。

 

「魔女様を口説くことですか?」


 ティレーネがいつもやってることと言えばそれくらいしかなかった。

 

「ええ。」


 パァーっとティレーネは満面の笑みを浮かべる。

 

「お任せ下さい!魔女様を口説くのは得意です!

 さぁ、魔女様!さっそく始めましょう?」


 さっきまで不安そうな顔を浮かべていたとは思えないほど、ティレーネは一瞬で元気になる。

 床に座り、わくわくと待っているティレーネの正面に魔女も腰を下ろす。


 それからジィーッとお互いを見つめ合う。


 目は口ほどに物を言うとはこの事かと魔女は納得する。

 見つめあってるだけで、ティレーネの瞳からは魔女が大好きだという想いが溢れている。

 気恥ずかしくてティレーネから目を逸らしたくなるが、出れないのは困ると魔女は必死に見つめ返す。


「魔女様の真っ赤な瞳はいつ見ても美しいですね。」


 ティレーネがうっとりとした顔を浮かべる。


「あなたはずっと私のことが好きだという瞳をしているわね。」

「だって、魔女様のことが大好きですから。」


 ガチャリと鍵が開くような音がする。

 音のした方を見ると、扉が現れていた。


「どうやら開いたようね。」


「はい。……魔女様。」


「なに……」


 ティレーネは魔女の頬に触れるだけのキスを落とした。

 魔女は顔を真っ赤に染めてぷいっと横を向いてしまう。


「不意打ちはやめなさいと言っているでしょう……!」


 ティレーネは満面の笑みを浮かべる。

 しかし、その表情はイタズラが成功したような子供のようだった。


「ふふふっ。ごめんさい。魔女様の可愛らしい姿が見たかったのです。」


「フフっ。ティレーネには敵わないわね。」


 魔女は優雅に立ち上がると、ティレーネにすっと手を差し出す。


「行きましょう。ティレーネ。」


「はい!アウラ様!」


 ティレーネは魔女の手を取り立ち上がる。


 そして、仲良く手を繋いで出口へと向かうのだった。

 



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