第3部28話 決着
少女が佇むその男をギロリと睨んだ。
「何をしようと私の勝手じゃなくて? この尻はわたくしのものなのだから」
「それは間違っている。姐さんは我のものだ」
「いや、少なくともあんたたちのものではないぞ?」
ツッコミどころ満載だけど、姐さんていう呼称、なんだか久しぶりだな。思わず、くすりと笑ってしまった。
「すぐに姐さんにかけられた言霊魔法を解くのだ」
「なぜわたくしが間男の話を聞かなければならないの? 【ひれ伏せ】」
少女の言霊魔法が発動。しかし、アサシンの男は涼しい顔をして佇んだままだった。
「……どういうこと? 【死ぬまで続く言葉攻め】切り裂けろ・砕けろ・痺れろ――」
アサシンの男に対して言霊が機関銃のように降り注ぐが、男はどこ吹く風だ。
「なぜ効かないの!?」
「ふはははっ! 言霊魔法など我に効くわけなかろうがっ!」
「そんな、まさか……」
少女は目を見開いた。そして、次の瞬間、アサシンの音速の拳により、少女の体が吹き飛んだ。少女が壁に激突した拍子に壁が崩れ落ちる。
「姐さん、けがはないか? 少し見ない間にやせたんじゃないか? 姐さんのことが心配で夜も寝られなかったのだ」
「あいかわらず心配性だなあ、ドラゴン氏! 私は元気だよっ!」
すると、アサシンの男はニカッと笑った。
「それは朗報だ」
アサシンはみるみる形を変え、白銀の両翼を広げた。そして、耳をつんざくような咆哮。
「千年ぶりだな、淫魔族の小娘よ。我の姐さんに不埒なことをして、楽に死ねると思うな?」
少女が砂埃を払いながら立ち上がり、【紅詠みの輪舞】を行使して、深紅の騎士と化す。
「忌々しき老龍が……! 言霊魔法が効かぬからと調子に乗らないことですわね……!」
両者が対峙し、にらみ合う。
「【金剛溶融の吐息】」
「【紅詠みの輪舞】」
両者の放った光線がぶつかり合い、火花を散らしながら拮抗する。
「太古より言霊魔法の効かぬ龍魔族は、淫魔族の天敵として君臨していた。そのことを忘れたか!?」
「言霊魔法のすべてが無効化されるはずがなくってよ!? 具現化した言霊を打ち出す【紅詠みの輪舞】であれば――」
しかし、少女の放った光線は徐々に押し込まれ、ついには耐えきれずに爆散して土煙が舞った。
土煙が晴れると、そこには弱りきった少女の姿があった。
あれだけ苦しめられた言霊魔法をものともせず、一発で少女を仕留めてしまった。ドラゴン氏はやっぱり強い。
「え、Sランクの尻……あ、諦められないですわ……」
虫の息でそうつぶやく少女。その執念には敵ながらあっぱれだ。
「さらばだ、淫魔族の小娘よ」
ドラゴン氏はそういってブレスの追い討ちをかけようとする。
「――ちょっと待った!」
「……どうしたのだ、姐さん? こんな不埒なやつに温情をかけるのか?」
「これから魔王様に頼まれた大仕事が待ってるし、このド変態ロリータを戦力として確保できないかなーなんてね」
「ふむ……。姐さんの元で忠誠をつくして勤労するならそれでもよかろう……」
「……わ、わたくしが忠誠をつくすですって? そんなこと天地がひっくり返ってもありえないことですわ……!」
「うーん、忠誠を尽くせとまではいわないよ? 私の作戦に少し協力してくれればいいの。そして、私の作戦が成功したあかつきには、ご褒美をあげてもいいんだけど、やっぱりダメかな?」
「……ご褒美!? すなわちそれは、わたくしのヘッドレストになるということですの!?」
「いや、そうは言ってないんだけど、無理のない範囲で……」
「わかりましたわあ! わたくしの野望”美尻チェア”完成のためには、野垂れ死んでなんていられないですわあ! その作戦とやらを成功に導き、必ずや姐さんをヘッドレストにしてさしあげますわあ!」
「意外と適応能力高いなあ……。まあ、ほどほどに頼むよ……」
「何!? 給仕の娘よ。それならわしにも褒美に乳を触らせてくれい……!」
「いや、おじいちゃんにはご褒美どころかセクハラに対する処罰が待ってるから」
「ワイもご褒美においしいポテチが食べたいアルー」
「ずるいではないか! 我もご褒美に今夜は姐さんの隣に寝床をこしらえさせてくれ!」
「あーもうっ、みんなよく頑張ったけど、ご褒美は帰ったら考えようね!」
作戦が成功したらヘッドレストにならなきゃいけない件は、まだ先の話と信じて、一旦忘れることにした。
職業:酒場店主からヘッドレストへのジョブチェンジが決定しました。




