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第3部27話 魔王様の再来

「子分て誰のこと?」

「誰って不死のジン・ヘルナンデスとアイソレートドラゴンのことに決まっているじゃないか!」


 ジンさんとドラゴン氏? ますます訳が分からない。


「え、連れ戻してってどういうこと? みんな、ネクロスタシアにいるんじゃないの!?」

「はあ……。君は状況を理解していないんだな。彼らは軍勢を引き連れてネクロスタシアを離脱。君のことを探して各地を渡り歩いているんだよ」

「ええ、私を!?」


 魔王様は深く頷いた。


「マジで困ってるんだよ。彼らがいないから黄昏城は丸裸。今、ネクロスタシアにプレイヤーが辿り着いたら、俺のところまでフリーアクセスなんだ。それはマジでやばい。お先真っ暗さ」

「……ふたりは無事なの?」

「もちろんっ! ふたりを撃破できるプレイヤーは今はまだいないんじゃないか? そう思ってあぐらをかいていたのに……」

「そりゃ、油断してた魔王様の責任でしょ……」


 そうは言いつつも、私は魔王様の言葉に胸を撫でおろした。ふたりとも無事という情報は、私にとってなによりも朗報だった。他のおっちゃんたちも元気にしてるかなあ。ああ、すぐにでもみんなに会いたいなあ。華麗なる聖宴のメンバーも紹介したい。絶対、気が合うはずだ。だからこそ、魔王様の言葉を鵜呑(うの)みにするつもりはなかった。


「ふたりをネクロスタシアへ連れ戻すことはできないよ」

「え、どうして!?」

「だって、またクラン連合が攻めてきたら、みんなが危ない目に会っちゃうじゃない。そんなの嫌だね」


 魔王様は唖然(あぜん)とした表情で固まってしまった。魔王様も時が止まってしまったのかとお腹をつついてみると、(せき)を切ったようにしゃべり出した。


「あああああ、もうっ! ジン・ヘルナンデスとアイソレートドラゴンに会ったら、姐さんを見つけるまでは帰らん、て(かたく)なに言うし、その姐さんをようやく見つけたと思ったら、ネクロスタシアへ連れ戻したくないだってえええ!? どうすりゃいいんだあああ!?」


 魔王様は自らのオールバックの髪をぐしゃぐしゃにして発狂し始めた。


「要はクラン連合の攻略を阻止したいってこと?もし、阻止しないとどうなるの?」

「あん!? もし、黄昏城で俺を倒したとなるとーー無だ」

「無駄?」

「無! だから“無“なの! 何もないの! 前にも後ろにも何も進まないんだよおおお!」

「はあ? そんなことあるの?」

「あるったらあるの! 俺が言うんだから間違いないの!」


 私は思わずため息をついた。もはや駄々っ子の域だなあ。あと、魔王様とここまで話していて気づいたことがある。前から変だな、とは思ってたけど、この魔王様ってそういうこと(・・・・・・)だよね? であればいい取引ができるかもしれない。


「……他の誰かに頼めばいいんじゃない?」

「それはそうだが、あのふたり無しで誰が黄昏城への進行を阻止できるのさ!?」

「私が阻止すればいいんでしょ?」

「え、君が?」

「そっ! 私が!」


 私の言葉で正気を取り戻した魔王様が、急に考え込んだ。


「……確かに、彼らを指揮できる君であれば、攻略の阻止も可能かもしれない……」

「ただし、条件があるよ。ひとつ目はジンさんとドラゴン氏の居場所を教えること。そして、ふたつ目は、ジンさんたちネクロスタシア守護兵団とドラゴン氏の身の安全を保証すること!」

「……ひとつ目は問題ないが、ふたつ目は俺にどうしろっていうんだ? 君には彼らを指揮してネクロスタシアへの進行を阻止してほしいんだが……」

「だから、私が阻止するっていってんでしょ?」

「はあ!? それは彼らを指揮してにネクロスタシアの守護をさせるということじゃないのか!? 正気か? 何か策があるというのか!?」

「うっさいわねえ。信じないなら断ってもいいのよ?」

「わ、わかったっ! き、君を信じよう。で、どうすればいい?」

「ジンさんとドラゴン氏の討伐がグランドクエストの攻略ルートに含まれるのなら、外してほしいの」

「……俺、時の魔王だよ? そんなことできるわけ――ま、まさか、俺の正体に気づいてるの?」


 私はため息をついた。


「当たり前でしょ? そんだけやりたい放題しておいて、よく言うわよ、運営(・・)の魔王様」

「なあああ、マジかっ! なぜばれたあああ! プレイヤーのプレイにこっそり介入してたなんて知れたら、大目玉なんだが……」


 あからさまに顔色を青くする魔王様。以前から魔王様はこれ以上シナリオが進むと困るような様子だった。しかもシナリオの進んだ先のことまで知ってるなんて、運営側くらいしか考えられない。それに、出来損ないポーションの体系についても異常なほどに詳しかった。それらから推察するに、魔王様をもしかして運営の人ではないかと思ったのだ。


「大丈夫! 私は酒場経営してるんだっ。口は堅いよ?」

「ご配慮感謝します……」

「それで、グランドクエストの改変、できるの? できないの?」

「……君がネクロスタシアをかき回してくれたおかげで、グランドクエストのシナリオは既に白紙化してる。ゼロベースで検討してるところだから、できなくはない……。だが、ネクロスタシアの攻略の足止め、本当にできるのか?」

「くどいわねえ。できる!」

「そこまで言い切られたら、信じるしかないな……。1か月だ。1か月間、攻略を足止めしてくれ。その間になんとかしてみせよう」

「1か月……。わかったわ、私も魔王様を信じるっ! 交渉成立ねっ」


 私は魔王様に手を差し出し、魔王様はその手を握り返した。


「それで、ジンさんとドラゴン氏の居場所は?」

「ジン・ヘルナンデスは氷牢都市フルイゼンの永久凍土フラシアスにいる……」


 フルイゼン? アルカディアの隣町だっけ?


「そしてアイソレートドラゴンだけどーーおっと、そろそろ、時を止めるのも限界みたいだから、お先に失礼するよ?」

「え、ちょっと、ドラゴン氏は!?」

「すぐにわかるよ」


 すると次の瞬間には、魔王様は立ち消えて時が動き出したのだった。


「――何が起こったの!?」


 眼前から消えた私に驚き、少女は声を荒げた。


「初めての感覚だ……。まるで映像が早送りされたみたいだった。どういうことだい!?」


 シュシュがそうつぶやいた……。え、シュシュまで時間が止まってたの? どんな仕組みよ、このゲーム。


「……まあ、いいわ。気を取り直して、触診の時間よ。さあ、わたくしにあなたのお尻を差し出しなさい!」


 少女はそう言って、私へと歩み寄る。そうだ、魔王様とのやり取りですっかり忘れてたけど、私のお尻が犠牲になるかどうかの瀬戸際だったんだ。


「おい、小娘。何をしているのだ?」


 そのときだった。深淵の間の入口から男の声が聞こえたのは。


「折角、いいところだでしたのに、邪魔ものだなんてついてないですわあ…」

「何をしているのだと聞いている!」


 軽鎧(けいがい)をまとったアサシンの風貌(ふうぼう)の男が声を荒げた。どこかで見た覚えがある姿だったが記憶が定かではない。


「――ハンゾウ?」


 そのとき、シュシュがそうつぶやいた。


時を止めて時間を作ったはずなのに時間に追われる魔王様の矛盾……。

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