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第1部7話 黄昏都市

「ここはどこだろう?」


 海岸には朝靄(あさもや)がかかっており、視界が悪い。その時、目の前にウインドウが現れた。


黄昏(こうこん)都市ネクロスタシアに到着しました。開拓者ボーナスとしてスキル【空きのない冷蔵庫】が付与されます。』


 開拓者ボーナス? なんだそれ。でも、ボーナスとか心躍る言葉よね。わーい。タダで冷蔵庫が貰えるとか、現実だったら一等賞くらいじゃない!?


 そのあと、深い霧の中を進んでいくと、突如巨大な城門が立ちはだかった。しかし、城門を守る兵士は見当たらないし、門の石垣はツタに覆われてかなりくたびれている。そもそも門扉は開きっぱなしなので、城壁の意味はなしていないようだ。


 城壁の内側に入るとこれまたツタに侵食され、朽ち果てた家屋が並ぶ。不気味なくらい静かだった。


 その時、まるで亡霊のように、ぼんやりと人影が現れた。身体がミイラのように干からびており、紫色の肌をしている。まるでゾンビのようだ。


 そのゾンビは何かをつぶやきながら私に近寄ってくる。とりあえず、私の見た目にはビビっていないようなのでよかった、と思わずゾンビを称えた。


「何か話してるみたいだけど……」


 そう思って近くに寄ってみると、


「水、水をくれ……」


 なんだ、ゾンビかと思ったら、喉が渇いてるだけのおっちゃんか。身体全体がしわくちゃだし、見た目からしてもすっごく喉乾いてそうだよね。


「水はないけど、ソルティ・オーシャンならあるよ。飲む?」

「何だそれは……何でもいいから寄こすんだ……」


 私はソルティ・オーシャンを差し出した。おっちゃんは私の手から小瓶を奪うと、喉を潤し始める。


「!?!? なんだこれは!?」


 渇いたおっちゃんはみるみるうちにただのおっちゃんになっていく。まるで聖水に浄化されていくゾンビのようだ。そういえば、ソルティ・オーシャンに“浄化“の効果があったような……。でも、ゾンビって浄化されると元に戻るんだっけ? いや、アンデットの方だったかな? そもそもゾンビとアンデットって何が違うんだっけ? なんてどうでもいいことを考えてしまった。


「こんなうまい酒は初めて口にした。渇いた体に染み渡るようだ……」

「でしょでしょ? たくさんあるから飲んでってよ」

「おいみんな! 旅の御仁が“すべてーおじゃん“なる酒を分けてくれるそうだ!」

「なんだその飲んだらそこで人生終了しそうな名前。え、てか、みんなって?」


 すると、おっちゃんの声に呼応するように、路地裏から続々とゾンビーーいや、枯れたおっさんか姿を現す。


「水だー水をくれー」

「え、こんなにいるの? 足りるかな……」


 私はありったけのソルティ・オーシャンを片っ端からおっちゃんに与えていく。すると、おっちゃんたちはみるみるうちに浄化されていった。


「うまいっうまいっ」

「ワシはこの時のために生きてきたんじゃー!」

「”すべてーおじゃん”、あっぱれじゃわい」


 すると、あれだけあったソルティ・オーシャンが片っ端から空き瓶と化していく。それにもかかわらず、おっちゃんたちは物足りないらしい。


「んーもうちびっとほしいのう」

「うむうむ。しかし、無理にお願いはできんのじゃ……」


 指をくわえて物欲しそうな瞳で見つめるおっちゃんたち。やめてよ、そういうの。酒が足りんと言われれば、答えはひとつしかない。


「ちょい待ち! 何とかしてみせる!」


 ここは元飲み屋店主である私の腕の見せ所でしょうが。

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