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第3部22話 ブリスフロップ

 私たちはピラミアックスの入口までやってきた。大きな石造りの支柱で支えられたその入口は、まるで怪物が口を開けて私たちを待ち構えているかのようだった。


「なるほどね、その手があったか」

「うん、それは盲点だったね」

「さすが、教授(プロフェッサー)……すてき♡」

「半裸の旦那、なかなかやるアルね」


 華麗なる聖宴+パンダが口々にシュシュへの称賛を述べた。


「でも本当にそんなことできるの?」


 私はシュシュに《命を吹き込む大綱ブリスフロップ》を手渡す。


「ものは試しさ」


 シュシュはそう断って、早速ブリスフロップを使用。すると、大綱から白い湯気のようなものが立ち昇り、揺らめく白い炎――まるで浮遊する魂のようなものを形成した。


「《命を吹き込む大綱ブリスフロップ》よ。|命を吹き込む大綱ブリスフロップ《・・・・・・・・・・・・・・・》《》へ命を吹き込め!」


 シュシュの号令に応じた魂が、大綱へ吸い込まれていく。すると、大綱は形を変え、小人を形成した。


「「おおー!」」


 小人は、白装束に身を包んでいて、白いあごひげを蓄えていた。腰が90度くらい曲がったおじいちゃんで、言ってはなんだが、命を吹き込めるような生命力は残ってはいなさそうにみえる。


「成功だな……《命を吹き込む大綱ブリスフロップ》よ! ボクが命を吹き込んだ主人、シュシュだ! ボクの元で賢人として仕えたまえ!」

「……はて? どちらさまじゃ?」

「ん? 聞こえなかったか……? それでは、もう一度告げよう! ボクはキミの主人、シュシュだ!」

「……はて? どちらさまじゃ?」


 シュシュは助けを求めるようにして、私たちを見た。うん、このおじいちゃん、何かボケてる気がするー。今度はカルネがチャレンジ。


「おじいちゃん! 自分が誰かわかる?」

「はて?」

「耳が遠いのかな。じゃあ、耳元で……――きゃあっ! 胸触られたんですけど!」


 しかもスケベなおじいちゃんだったー。こういうおじいちゃん、リアルの酒場で何度も相手にしてきたなー。「ブランデーおじいさん」ていうこれまたスケベなじいさんがいて、普段はよぼよぼしてて会話が成り立たないんだけど、ブランデー飲んでるときだけ人が変わったように下ネタを語りだすんだよね。だからこういうおじいちゃんて、なんかスイッチが入ると急に元気になったりするんだよな……。


「おじいちゃん、なんか飲む?」


 私のひとことに、おじいさんがぴくりと反応した。


「わし、甘党なんじゃ……」


 なんだ、聞こえてるじゃん……。甘いもの、甘いもの……。お品書きにはないけど、前に激アマなミルクティーっぽい出来損ないポーションを作ったような……。あ、あった、《出来損ないポーションκ(カッパ)》だ!


「よしっ、”駄洒落”の臨時営業だっ!」


 私は屋台を出してそこにおじいさんを座らせ、ポーションを振舞った。


「激アマミルクティー、おまたせ!」


 おじいちゃんはそれを口に含み、そしてすぐに首を横に振った。


「甘すぎじゃ……」


 甘党っていったやん……。でもおじいちゃんがそういうならしょうがない。何か手はないかと考えていると、そこでシュシュがひと言。


「このじいさんがクエストの一部であるとしたら、これまでの過程で手に入るアイテムなどが鍵となっている可能性が高い。出来損ないポーションなどのグランドクエストと関係ないアイテムを飲ませても、有益な応答が返ってくるとは考えづらいな」


 呆然としてたやつが、偉そうに言うんじゃない。とはいっても、シュシュの言うことにも一理ある。アルカディアで得た液体……そういや、さっき降った雨をアイテム化しておいたっけ。


「これはどう!?」


 私はおちょこに《アルカディアの雨》を注ぎ、おじいさんに差し出した。おじいさんはくいっと飲み干すと、糸みたいだった目がカッと開いた。


「うまいっ! これこそわしが求めていたものじゃ!」

「なるほど、《アルカディアの雨》か……。その発想はなかった。しかし、よく持っていたな」

「どんなものが出来損ないポーションの材料になるかわからないから、一応なんでも確保するようにしてるんだっ!」

「何をしておる!? おかわりじゃ!」

「はいはい、ちょっと待っててね~」


 5杯目を飲み干すと、おじいちゃんは一息ついた。


「ふう~、生き返ったぞい! わしはブリスフロップ。給仕の娘よ、何用でわしに命を吹き込んだんじゃ?」

「おじいちゃんに聞きたいことがあってね。淫魔族の残党に仲間がさらわれちゃって、居場所に心当たりはないかな?」

「淫魔族の残党とな? どんなやつじゃ?」

「お人形みたいな美少女らしいね。そして、ものすごくお尻にこだわりがあるみたい」

「ははーん、わかったぞい。アイリッヒの仕業じゃな」

「アイリッヒ?」

「左様。淫魔の王女アイリッヒ。女の尻ばかり追ってるド変態じゃ。乳派のわしとは昔からそりが合わんかった」


 お前もド変態だろうが、とツッコミを入れたかったが、かろうじて踏みとどまった。


「私たちの仲間はどこに囚われてると思う?」

「ふむ、考えられるのは、”深淵(しんえん)の間”じゃろう。”深淵(しんえん)の間”はわしが囚われていたピラミアックスの最下層”魔王の間”よりもさらに下層の深淵(しんえん)。そこで行われるアイリッヒによる調教は目を覆いたくなる惨状じゃ……。おぬしらの仲間も今はどうなっているか……」

「”深淵(しんえん)の間”に入るにはどうすればいいの?」

「”魔王の間”で淫魔族が使用する言霊魔法を発動することで扉が現れる仕組みじゃ」

「言霊魔法ってド変態ロリータが【吹き飛べ】って言った瞬間に、ガウスが壁まで吹き飛んだやつじゃない?」

「ああ、カルネが【ゴミ尻】と言われて、ゴミ尻になったやつと一緒だろう」

「それは言霊魔法じゃない――って、失礼しちゃうわね!」


 カルネはゴミ尻かどうかは置いておいて、一通りおじいちゃんの話を聞いたところで、シュシュが口を開いた。


「このエクストラクエストをクリアするには2つ問題がある。ひとつ目は、クエストの制限時間は残り3時間を切っている点だ。最下層まではどんなに早く行っても4時間はかかるだろう。すでに絶望的な制限時間ということになる。ふたつ目は、言霊魔法を使用できるメンバーが一人もいない点だ。これから言霊魔法の使い手を探したところで、間に合いはしない。その点を冷静に考慮すれば、今回のクリアは諦めるしかないだろう」

「……そうだな。ここまで真相にたどり着いただけでも俺らにしては上出来だろう」

「うん、あとでユイにはごめんなさいするしかないよね……」


 シュシュの言葉に皆、諦めモード。でも、私はこのおじいちゃんの話に少し疑念を抱いていた。


「ねえ、おじいちゃん。どうやって”深淵の間”に入ったの?」


 おじいちゃんはびくっとして恐る恐る私を見た。


「な、なんのことじゃ? 入ってなどおらんぞ?」

「だって変じゃない。”魔王の間”で言霊魔法を使わないと入れないんでしょ? なのに、なんで”深淵の間”で目を覆いたくなるような調教が行われてることを知ってるの?」

「は、はて?」

「実は、こっそり入って調教を見物してたんじゃないの?」

「な、な、なにをいうかっ! わしを変態扱いしおってっ!」

「別に見物してたことを責めてるんじゃないよ。いい乳があれば、誰だって見てみたいよね、わかるわかる。ただ、”深淵の間”にどうやって入ったのか教えてくれればいいのよ?」

「……本当? 変態扱いしない?」

「しないしない! それに、誰にも言わないから安心して!」

「……よろしい! それならわしを”魔王の間”へ連れていくがよい!」


 この変態じじいはクエストが終わったらちゃんと更生の道をたどるように調教しないとな。こうして変態じじいを連れて、ピラミアックスへ潜入することになったのだった。

過去最高のどすけべキャラ、ここに爆誕。

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