第3部20話 再会(酒守視点)
ボクはクラン連合が拠点とする遊戯都市和樂を離れ、砂楼都市アルカディアにいた。無論、洒落店員を探すためである。
ボクが約束をすっぽかしてからというもの、てっきり洒落店員はこのゲームにはいないと思っていた。しかし、先日の無限回廊攻略時にボスと共にクラン連合の前に立ちはだかった”シャレ”というプレイヤーは、髪や肌の色は異なるものの洒落店員と瓜二つ。”シャレ”は薬使いとして、ボスを支援し、クラン連合を全滅させたという。
プレイヤー”シャレ”が洒落店員ということなどあるのであろうか。もしそうだとしても、どうしてそんな状況に陥ったのかは全くもってわからない。ボクがバレンタイン・オンラインに誘ったあの日から、短い時間で何があったのか。そして、クラン連合と彼女が敵対しているという状況をなんとかしないと――いや、今そんなことを考えてもしようがない。まずは一刻も早くプレイヤー”シャレ”にコンタクトを取り、真偽のほどを問うことが喫緊の課題だろう。
ボクが足を運んだのは、アルカディアのギルドハウス。多くのプレイヤーが集まるこの場所は、情報収集には格好の場所である。ギルドハウスに足を踏み入れると、周囲がざわつき始める。ボクの身の上を知っているものも多いようだ。羨望、嫉妬、奇異、好意など様々な感情の視線がボクを貫く。
普段は、装備を換装してまで正体を隠すのだが、今回そうしなかったのはギルドハウスにおいては、目立った方が情報収集しやすい点にある。好意的な視線を向けるプレイヤーに聞き取りすれば、知っていることを根掘り葉掘り教えてくれるだろう。
プレイヤーのひとりに声をかけようとしたその時、唐突に「シャレさん」というワードが僕の耳に飛び込んできて、ボクは反射的に振り返った。するとそこには彼女がいた。
あの鷹のような鋭い目つき。ドギツイ見た目。やはり洒落店員に似ている。しかも、どういうわけかかなりご立腹のようだ。ああ、この視線、久方ぶりだ。この視線に耐えられるのは洒落耐性をレベル99まで上げていないと無理だろう。すなわちレベル99のボクには通用しない。むしろ心地いいくらいだ。そして、ボクは確信した。このプレイヤーは間違いなく彼女だと――
「あ、ああ、しゅら――」
そこまで言いかけてボクは躊躇した。こんな公共の場でリアルの名前を公表するのはどうなのかと。洒落店員はただでさえ注目を浴びているプレイヤー。その真偽はプライベートの場で確認した方がいい。ボクは咳で誤魔化し、
「いや、シャレさん、元気かね?」
とはにかんでみせた。すると洒落店員はどういうわけかさらに立腹したようだ。視線がさらに鋭さを増す。ここまでくると洒落耐性レベル99のボクでも厳しくなってくる。
「あんた、私のことを探してるってホント?」
「あ、ああ、間違いない。ずっと探していたんだ」
「取引をしよう。私が出来損ないポーションに関する情報を教えるから、あんたはエクストラクエストのクリアに協力しなさい」
「エ、エクストラクエスト?」
まさか洒落店員からそんな言葉が口から出てくるとは思わなかった。いや、そんなことをしに来たのではない。まずはボクが酒守であることを告げなければ。そのためにはなんとかふたりきりになる状況を作らなければならない。
「ほ、ほう、それは興味深いな。奥でふたりきりで話を聞こうじゃないか?」
「嫌だね。今すぐ、ここで、答えなさいよ」
ぬぐうううううう。ボクとしたことがしまった。相手は想像の斜め上をいく女、洒落店員だ。これまで正攻法で挑んで何度辛酸をなめたことか……。しかし、ここは粘るしかない。何としてでも、ふたりきりになるチャンスをこの手に掴むのだ。
「それには少し時期尚早じゃないかい? もしボクが取引に応じるとしても、報酬の諸条件をすり合わせる必要があるだろう? 報酬を選択する上で、出来損ないポーションにはどのような種類があるのか事前情報の開示は可能なのかどうか、出来損ないポーションの生成方法をどこまで開示できるのか、エクストラクエストをクリアできなかった場合の報酬はどうなるのかどうするのかなど――」
ボクが話している間にも、洒落店員の視線が次第に険しいものになっていくのがわかる。もはや切れ味鋭い刃物みたいだ。ああ、もうヤダ、失敗したっぽい。
「ああ、もう、まどろっこしいな! 細かいことは好きにしてよ! 受ける? 受けない? どっち!?」
「受けます」
ボクには引き下がるしか手が残されていなかった。
洒落耐性レベルの上限は999なので、まだまだ上には上がいるという言い伝え




