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第3部16話 雨と尻(やっこちゃん視点)

~同時刻 砂楼都市アルカディア 商店街にて~


「あのパンダ、どう考えてもブリスフロップを使って生み出された産物だよな……」


 ガウスさんが険しい表情でそう言った。


「うん、間違いないだろうね。ということはブリスフロップは、やっぱりこのアルカディアのどこかにあるっていうことだね。不幸中の幸いってやつだ……」


 ビンセントさんはそう言ってため息をついた。


「でも、唯一の手がかりであるパンダは逃走中。この広いアルカディアを闇雲に探しても、見つからないわよ? どうするの?」


 カルネさんも神妙な面持ちでそう言った。


「さあ、そんな俺たちが今できることはなんだと思う?」

「何よ、ガウス。もったいぶってないで教えなさいよ」

「そうだよ、僕たちにできることなんてあるのかい?」

「それは……屋台の番頭であるカエルさんに、早くブリスフロップが見つかることを祈りつつ、残りの酒を味わうことだ。残したらもったいないからな」

「「同感」」

「ふえええ、みなさん、真面目に店番手伝ってくださいよ〜!!」


 やっこちゃんこと、私はそう言って泣きべそをかいた。こんなこと話している間にも、お客さんは次から次へと来るのだ。そんな私の焦る気持ちをよそに、ガウスさんたちは番頭のカエルさんにお祈りし始めた。


 そんなときに、屋台のトタン屋根にカツンカツンと雨音が鳴り始めた。


「アルカディアで雨? 珍しいな。カルネ、経験あるか?」

「私が知る限り、一回もないなあ。アルカディアは酷暑だから、雨が降るくらいがちょうどいいじゃない?」


 商店街で店を出していた小人たちが慌ただしくなる。急いで店じまいを始めた。


「早く店じまいしないと”甘い闇”に連れ去られる、恐ろしや……」


 小人たちはそうつぶやき、商店街はあっという間に閑散とした。


「なんだってんだ?」

「さあ?」


 そう言ったのも束の間、ポツポツがしとしとになり、しまいにはザアザア降りへと変わった。太陽は厚い雲ですっぽりと覆われ、辺りは夜のように暗い。お客はみんな屋根を探して逃げていってしまった。


「お客もいなくなったことだし、雨宿りしにいこうか?」

「そうですねっ。では、雨が止むまで一旦ギルドハウスへ行きましょうか」


 そんな時だった。


「こんなところにお店ができましたのね。お邪魔してもよろしいかしら?」


 そこに(たたず)んでいたのは、赤いゴスロリ調のドレスで着飾った絶世の美少女だった。まるで、童話の世界から現れたお人形さんのようだな、と思った。


 初めから返事を求めていなかったかのように、その少女は差していた傘を閉じ、屋台のカウンターにちょこんと腰掛けた。


「ご、ご注文をお伺いしましょうか?」

「そうね……」


 少女はお品書きに目を通し、そして顔を上げて唇を舐めた。その妖艶(ようえん)な仕草に、なんだか見てはいけないものを見ている気がして、私は思わず目を背けてしまった。


「それじゃあ、業火酒をくださるかしら?」

「は、はいっ、わかりましたっ」


 私はそう言ってシャレさんが屋台に置いていった出来損ないポーションの中から、業火酒を急いで探し出す。そして、ショットグラスへ移し替えてから、少女の前に差し出した。


「礼を言いますわ」


 少女はそう言うとショットグラスに口をつける。すると、少女の真っ白な頬が次第に朱に染まった。


「生き返りますわあ。たまには出歩いてみるものですわね」

 

 少女は恍惚(ほうこつ)の表情でそう言った。


「あ、ありがとうございますっ。そう言ってもらえると、シャレさんも喜ぶと思いますっ!」

「シャレさん?」

「この屋台の店主さんですっ。ここで提供しているメニューはすべてシャレさんが作ったんですよっ。今は私がたまたま代理で店番をやってるんですっ」

「ふぅん。それはタイミングが良かったわねえ」


 そういって少女は目を細める。タイミングが悪い、の間違いではと思ったけど、特にツッコミはしなかった。というのも、ガウスさんやカルネさん、ビンセントさんが少女に興味津々で近づいていくのが見えたからだ。彼らの悪い癖で、すぐにほかの客のまわりでとぐろを巻くのだ。


「おっ、嬢ちゃんもいける口?」

「ガウスさん! お客さんに失礼ですよ――」


 ガウスがそう言って少女の肩にポンッと手をかけたのをみて私が注意しようとした次の瞬間、少女はまるで鬼のような形相でガウスを(にら)んだ。


「わたくしの体に虫ケラが触るな。【吹き飛べ】」


 少女がそう告げると同時に、ガウスの体が後方へ吹き飛び、壁に激突する。


「「ガウス!?」」


 カルネとビンセントがガウスの元へと駆け寄る。


「あわあわあわ、あ、あなた、どういうつもりですか!?」

「あら、ごめんなさい? わたくし、男に触れられると虫唾(むしず)が走るのですわあ」


 少女はそう告げると同時に、眼前から忽然と消えた。そして、

 

「ふふ、思った通り。あなた、いいお尻してますわね」


 背後からつぶやくような少女の声。思わず鳥肌が立ち、後ろに振り返ろうとすると、突然お尻をわし掴みにされた。


「ふええええええええええええええ!?」

「この真っ白な服でシルエットがわからないようにしていますけれど、わたくしの目は誤魔化されませんわ。形状Aランク、弾力Aランク、バランスAランク、総合Aランク――合格ですわあ」

「ご、合格ってなんですかあああ!?」


 私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。まさか、こんな可憐な少女にお尻を掴まれるなんて思わないし、評価されてるしで、訳が分からなすぎて目が回りそうだ。


「ユイ、大丈夫!?」

「うんっ」


 カルネが助けに入ろうとし、私は手を伸ばしたが、少女がひとこと。


「【動くな】」


 私とカルネはその場で固まり、動けなくなってしまった。


「形状Cランクのゴミ尻には用事はないのですわ。そこでおとなしくしてなさい。わたくしが用があるのはこの子だけですわ」


 少女はそういって私の顔をなでた。まるで愛撫するかのような手つきだった。


「だ、誰がゴミ尻よ、失礼ね! ユイをどうするつもり!?」

「この子はわたくしの家具にすることにしたの」


 少女はそう言って私を抱きかかえた。


「え、玩具ではなくて、家具?」


 思わず冷静にツッコんでしまった。おもちゃにされるのは嫌だけど、私は家具にされるという。家具ってどういうことだろう。


「探しても無駄ですわよ。あなたたちではわたくしを倒すどころか、探し出すこともできはしないですわ。失礼しますわ」


 私のお尻は少女のお眼鏡にかない、どこかに連れ去られて少女の家具になることになった。何を言っているのか、私自身もわからないが、つまりそういうことなのだ。

カルネのお尻は何ランクなんだ……

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