第3部14話 横取り
長期休載してしまい申し訳ありませんでした。
4万字(3部の終わりまで)は書いたので、まずは放出していこうと思います。
最新の3話分くらい削除して、書き換えてますのでご了承ください。
「これアルか?」
「いや、その右」
「これアルか?」
「いや、逆だってば! 私から見た右よ! わかるでしょ?」
「わからないアルよ! 全くパンダ使いの荒い店主アル……」
と、私より先にマヒが切れたパンダさんが切れ気味につぶやいた。動けない私の代わりにアイテムボックスから気付け薬(という名の解毒効果の付与された出来損ないポーション)を探してくれているのだ。
「これでいいアルね……」
「うん、ありがと――」
次の瞬間、パンダは床で身動きの取れない私に向かってポーションを振りかけ始めた。
「ぶはっ!? ちょ、やめっ、コラッ! 冷たいって! 頭はやめろし!」
全身ずぶ濡れ。酒を浴びるほど飲むのは好きだけど、本当に浴びるのは遠慮したいところだなあ。ラム酒に漬けられたレーズンの気持ちがわかった気がするよ。それにしても、ポーションって飲まなくても効果があるんだね。知らなかった。
「マヒは解けたアルか?」
「解けたけど、服がすーすーして今度は風邪ひきそうだよ……」
「まったく、悪魔みたいな効果のポーションを不用意に口にするなんて、初心者でもやらないポカだアル。店主の間抜けさには困ったものだアル」
「いや、道端に落ちてた《マンチニールの葉》を不用意に食ってマヒって捕まったあんたがそれを言うか?」
「食べたらマヒが出ることなんて覚悟の上だったアルよ……!」
「マヒることわかってて食べるあんたの覚悟には呆れてものが言えない――」
その時、突然パンダが辺りを見回した。
「急にどした……?」
「誰かいるアル」
パンダが低い声で言った。その言葉の通り、脇道からゾロゾロとプレイヤーたちが現れ、私たちの行く手をふさいだ。
その中のひとりの男が口を開いた。
「そこの女、我々のアイテムを横取りするつもりか? “パンダラの箱“は我らクラン“シンギュラリティ“の所有物だ」
「急に出てきて随分と不躾ね……。パンダラの箱? そんなもの持ってないけど?」
「とぼけるな。今お前の隣にあるじゃないか」
思わずパンダと顔を見合わせる。
「……どゆこと?」
「“パンダラの箱“はワイがアイテムだった時の名前アルヨ」
「ますます意味がわからない!」
「説明してやろう。そこにいるパンダは我々が所有するこの! ユニークアイテム!《命を吹き込む大綱ブリスフロップ》! を使用してNPC化したアイテムなのだ!」
そう言って男は、真っ白な太綱をかかげてみせ、嫌みたらしく笑いかける。
ユニークアイテムのところを誇張して鼻にかけてるあたり、気に食わねー。ん? ていうか、そのフラフープとやら、やっこちゃんが奪われたって言ってたアイテムじゃね?
「ちょっと、あんたたち。そのフラフープとやら、どこで手に入れたの?」
「《命を吹き込む大綱ブリスフロップ》だ。ふんっ、そんな重要な情報、簡単に手に入れられると思うなよ。まあ、我々の武勇伝を聞きたければ教えてやらなくても――」
「――まさか、華麗なる聖宴から横取りした?」
男が目を見開いた。
「な、なぜ、そのことを――」
あからさまな挙動不審具合。うん、黒だな。
「あんたたち、私に“横取りするつもりか?“なんてほざいておいて、そもそも横取りしたアイテムを見せびらかしていたわけ? あんたたちが横取りしたせいで、華麗なる聖宴のみんながどれだけ胸を痛めたと思ってるの?」
「ふ、ふんっ、華麗なる聖宴の関係者だったか……。やつらは弱小クランのくせに、折角のユニークアイテムを表には出さずに仕舞い込み、活用しようとしない。我々シンギュラリティのような強豪クランであればこそ、ユニークアイテムを有効活用できるというものだ」
「有効活用ってNPC化したパンダには逃げられているのに? そもそも、まったく横取りしていい理由になってないから。今すぐ、華麗なる聖宴にアイテムを返却して、謝罪しなさい。さもないと――」
「ふはははっ! さもないと――なんだ? その程度のレベルで随分と強気なんだな!」
急に見下す態度へと変わったのは、《鑑定》で私のステータスを調べたんだな……。私のレベルなんて15。シンギュラリティのメンバーからしたらゴミだろう。そんな私を取り囲む相手は10人はくだらない中堅のプレイヤー。もしや、詰んでる?
「さあこれで話は終わりだ。パンダラの箱を返してもらおう。もし返さないのならば、どうなるかはわかっているだろうな?」
「パンダ、悪いけどこいつらの退治を手伝ってくれる?」
「お安いご用アル。ワイもあいつらに捕まる気はないアル」
男たちがジリジリと距離を詰める。パンダは図体でかいし、ちょっと強そうだから、勝ち目があるかもしれない。
「こうなったら、いけっ、パンダ!」
「ワイはポ○モンじゃないアル。戦闘には不向きなパンダさんアルヨ」
「期待して損した……」
「店主も戦えないのにどの口がいうアルか。とりあえず、ワイの背中に乗るアル。店主じゃ、1分もたないアル」
私はパンダに言われるがままに、パンダの背中に急いでよじ登った。パンダの上に乗るなんて、幼い頃、遊園地で電動でシュールに移動するパンダさんに乗った以来かしら。この可愛らしさですこしヤ○ザな私の外見もちょっと薄まる――わけないな。
「死ね、女!」
襲いかかる男の剣先を私を乗せたパンダが回避する。追撃も回避、回避、回避。おー思ったよりやるじゃん。
「くそっ、ちょこまかと! お前ら、拘束魔法をかけろっ!」
男の要請に応じて発射された拘束魔法がパンダを捕らえて、私たちはその場から身動きが取れなくなる。
「店主、1分持ちそうにないアル」
やべー、勝ち筋まったく見えねー。あー、こいつら全員なんかの間違いで悪魔のポーションθ飲まないかな。そうすれば、さっきの私みたいに瀕死の重傷でぶっ倒れてくれるのに。
待てよ? 飲ませなくても、さっきパンダが私に気付け薬ぶっかけたみたいに、悪魔のポーションθをぶっかけられれば――
「よしっ、拘束が解けないうちに一斉にかかれ!」
「パンダ! 私を空に向かって投げて!」
「はあ? 店主、まだ酔いがさめてないアルか?」
「いいから早く!」
「わかったアルよ。まったくパンダ使いの荒い店主アル」
パンダが私の足を掴んで乱暴に振り回し(こいつ、あとでしめる。)、そして投げた。私は宙を回転しながら上っていくなかで、なんとか体勢を整えた。そして、パンダのところに集まってくるシンギュラリティの輩を目がけて、《空きのない冷蔵庫》の中身をぶちまけた。紫色の液体は輩にまんべんなく降り注ぐ。
「な、なんだこれは!?」
「う、動けねえ。状態異常”マヒ”だって!? クソッ!」
「HPも雀の涙じゃねえか! どういうカラクリだ、こりゃ!?」
その場で身動きが取れなくなり、床に転がるシンギュラリティの面々。予想通り、悪魔のポーションθも、飲まなくてもぶっかければ、その効果判定は有効なんだねー。
「作戦成功!」
「作戦成功って、ワイを巻き添えにするのも作戦のうちアルか?」
「あは、ごめんて」
シンギュラリティの面々と同様に床に転がるパンダのうめき声には苦笑するしかなかった。




