第1部6話 手軽にポーション作りができるミキサー
そういえば、【手軽にポーション作りができるミキサー】なんてスキルがあったっけ。これで回復薬を作ってHPを回復すれば、もう少し海水浴していられるかしら? でも、ポーションの材料なんて持ってないよなあ。まあ、とりあえずスキルを発動してみよう。
スキルの発動と同時に、おなじみの”あれ”が現れた。
「……どっからどう見てもただのミキサーなんだけど」
しかも2リットルと大容量。ちょうどフタの部分に「薬草と精製水を入れて、手軽にフレッシュなポーション作りを楽しもう!」と書かれている。ポーションをスムージー的な扱いをしてる辺り、イラッとするわー。てゆうか普通、魔法陣なんかが現れてパアッと光ったら出来上がり!とかじゃないの!?
それはそうとして、薬草もなければ精製水もないけど、ポーションはできるのだろうか? まあ、試しにやってみるしかない。
私はミキサーのフタを開けて、黒黒藻草、と海水をぶち込んでみた。すると、ういいいいんとパワフルな回転音と共にミキサーが回り始める。
海中でミキサーが動く様は奇妙としか言いようがない。そしてしばらくすると、「ブブー」と失敗を告げるビープ音とともに、ミキサーの回転が止まった。私は恐る恐る中を覗いてみる。
「これは……?」
中には墨汁のような毒毒しい液体が、ミキサーを満たしていた。ポーション作りには失敗したようだが、何かが出来上がった。早速、アイテム化して【鑑定】。
アイテム名:出来損ないポーションα
レア度: ★☆☆☆☆
効果: 浄化。HP回復「微」。一定時間、髪の色が黒くなる。
説明: 材料不足でポーション生成に失敗した出来損ないの液体。
出来損ないと言いつつも、ちゃんと回復効果もあるようだ。黒黒藻草の効果は薄まった感じか。
私は恐る恐る黒い液体を口に含む。
「!?」
見た目によらずこれはうまいぞ。飲み口で感じる塩気とミントの爽快感。そして、その後から来るグレープフルーツのような苦味と酸味。これはどこかで口にしたことのある味だった。
そう、ソルティドッグと呼ばれるカクテルの味にそっくりだ。でも、鼻を抜けるアルコールの香りはないので、ソルティ・ドッグとは違うよな……。そうだ、”ソルティ・オーシャン”とでも名づけてしまおう。
この出来損ないポーションα、改めソルティ・オーシャンのおかげで、私のHPは少し回復し、一命を取り留めた。しかし、このソルティ・オーシャンのすごいところは、味だけじゃない。この海底に材料が無限にあるからいくらでも生成できてしまう。
私は海水と黒黒藻草を乱獲しまくり、私のアイテムボックスは、ほぼほぼ2種類のアイテムで埋め尽くされた。そして、飲んでは作って飲んでは作ってを繰り返した。
それにしてもソルティ・オーシャンうまし。酒が進む進む。海でカクテル片手にくつろぐ私ってどんだけリア充だよ。海中だけどな、うははっ!
そんな調子で海底の黒黒藻草を根こそぎ刈り取りながら猛進すること1時間。「あれ? 生えてないぞ?」と思ったら、いつの間にか浜辺に上がっていたのだった。