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第3部12話 逃亡中

「フオオオオ! 店主のおかげで今日は瀕死の重症をおわずにすんだアル。店主は命の恩人アル」

「いや、毒草を控えればいいだけじゃんか。自分のスキルで生やした毒草なんだから、自爆はやめようぜ?」

「ワイにとって毒草を食すことは人生を賭してでもやり遂げるべき使命アル」

「なんだかカッコイイこと言ってるけど、ただの自殺行為だからね?」


 私はため息をついた。


「ところで、パンダさんはいったいどこから来たんですかっ?」


 やっこちゃんが興味津々といった様子で尋ねた。


「ワイ、樹海都市クリムクロス近郊、深翠の森モーゼス出身のパンダさんアルヨ」

「クリムクロスですかっ。随分と遠いとこから来たんですねっ」

「そうなんだアル。深翠の森モーゼスは美味な野草の宝庫。なのに今は仕方なく毒草を食らう日々。懐かしの故郷の味が恋しい今日この頃アル〜」

「そんなパンダがなんでまたこんな暑いところに出てきたんだ?」


 ガウスがそう尋ねた。


「ワイも好きで来たわけじゃないアル。人間たちに無理やり連れてこられたアルヨ」

「プレイヤーにテイムされたってことか……? じゃあ何でひとりぼっちなんだよ?」

「逃走中だからアル」

「自由だな、おい」


 そこにビンセントが口を挟んだ。


「でも、テイムされてたらプレイヤーから逃げることなんてできるのか? テイムしたモンスターに逃げられた、なんて話聞いたことないんだけど……」

「じゃあ、元々そういう設定のNPCがこの街にいたっていうの? 今まで見たことないんだけど?」


 カルネの言葉にみんな沈黙してしまった。


「ひとつ心当たりがあります」


 やっこちゃんが沈黙を破り、神妙な面持ちを作った。


「私たちは何のためにアルカディアまで来たのか、覚えていますか?」

「そりゃ、覚えてるに決まってるだろ? もちろん、《命を吹き込む太綱ブリスロッップス》をーーあっ!」


 ガウスがやっこちゃんと顔を見合わせる。


「ブリスロップスってーーえ、そういうことなの?」


 カルネも驚きの表情を作る。


「その可能性が高いんじゃないかと思うんですっ」

「で、でも、そんな馬鹿なことするやつがこの世にいるのかい?」


 と、ビンセント。おいおい、置いてきぼりは私だけかい。


「ちょっとちょっと、私にもわかるように話しておくれよ」

「えっとですね、シャレさんっ。《命を吹き込む太綱ブリスロップス》というのはーーってあれ!? パンダさん!?」


 パンダが脱兎の如く逃げた。パンダのくせに。


「雲行きが怪しくなってきたから失礼するアルヨ!」

「あ、ちょ、おまっ、お代は――食い逃げかいいいいい! やっこちゃん、店番は頼んだ!」

「え、私ですかっ!? そんなの無ーー」

 

 答えを聞く前に私は駆け出した。食い逃げなんてひとつでも許したら無銭飲食OKの前例を作ってしまうことになる。商売上がったりなんだよ。


「ワイ、金は持ってないアルヨ〜」

「それなら身ぐるみ置いて行けえええ!」

「ワイ、全裸のパンダさんだから身ぐるみはないアルヨ〜」

「それなら毛皮剥いで置いてけやあああ!」

「鬼畜アルか!?」


 それにしてもパンダの野郎、でかい図体してるくせに逃げ足速いな……。全然追いつけない。パンダはその見かけによらない身軽さで跳躍し、通り沿いの建物の屋根に飛び乗った。


「あ、こら、待てっ!」

「バイバイアル〜」


 手を振るパンダ。なめやがって……! 私はなんとか根性で重力に逆らい、屋根によじ上った。でも、パンダの姿は見当たらない。逃したか……。鬼ごっこでパンダに負けるとは、不覚……。


 もう諦めるかなあ。いや、こんなとこで諦めたら、姐さんの名がすたる。何としてもあのなめたパンダを確保してやる。


 そういえばあいつ、野草が好物とか言ってなかった? それならピレイナ山脈で採った野草でおびき寄せてみるか?


 そう思って、私はありったけの野草を道端に放置。 あ、そうだ。パンダが置いていった麻痺効果のあるマンチニールの葉も混ぜておこうっと。


 そして、陰から監視ーーって、我ながらあからさますぎる……。道端に大量に積まれる野草なんて不自然すぎるよー。これで罠にかかるやつなんているのかーー


「あっ、こんなところにおいしそうな野草が落ちてるアル!」


 あいつ、アホだ。

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