第3部9話 砂楼都市アルカディア
砂楼都市アルカディアは、砂漠を進んでいた私の前に突如現れた。アイスクリームをすくった跡みたいなすり鉢状の地形に街が段々畑のように立ち並んでる。
その中央には、砂の楼閣“ピラミアックス“と呼ばれるーー言い方は悪いけどまあピラミッドのパクリみたいな建物が鎮座してる。
街を行き交うプレイヤーの数はウルルカよりも多くて、結構な賑わいだ。そして、アルカディアのひとつの特徴として挙げられるのが、NPCがほとんど小人なのだ。
「淫魔族に奴隷として扱われていた小人族を解放したのが、実は“華麗なる聖宴“の諸先輩方なんですっ! その報酬として受け取ったのが、《命を吹き込む太綱ブリスロップ》なんですよっ!」
やっこちゃんが鼻息荒く力説した。まあ、設定の話はよくわからんけど、新人に取られたっていうユニークアイテムは、この街のシナリオ攻略で手に入れたってことなのね……。
「それで、そのなんちゃらフラフープをどうやって取り返すつもりなのさ? まずはそのフラフープの行方について知ってる人がいないか情報収集でもしてみる?」
「《命を吹き込む太綱ブリスロップ》ですっーーってシャレさん、取り返すの手伝ってくれるんですか!?」
「当たり前でしょ? お客の不幸は私の不幸なんす。その代わり、取り返した後の祝勝会はぜひ当店で!」
すると、やっこちゃんが号泣し始めた。
「ジャレざん~いいひどずぎる~。あ゛りがとうございまず~」
「お、おう」
うん、やっこちゃん。普段は可愛らしいお顔してるんだけど、泣くとひくほどブサイクなんだよな。涙もろい体質、治した方がいいぞ?
「よしっ、そうと決まれば、情報収集といきますかー」
私ができる情報収集の方法はひとつしかない。そう、酒場経営だ。私は商店街の一角に駄洒落号を出して、看板をかかげる。
「さあ、”駄洒落”開店しますか~」
「「わ~い、やった~!」」
すかさず酔っ払い三兄弟が屋台の前に陣取った。
「おいおいあんたたち、フラフープ探しに行かずに飲むんかーい」
「いいじゃんか~。砂漠を旅してきてクタクタなんだよ~」
「そうそう、少しくらいいいじゃない? それに、情報収集なら酒飲みながらでもできるし」
「果報は寝て待てっていうだろう?」
酒飲みながらする情報収集ってなんだよ? こいつら、取り返す気ないだろ。まあ、飲みたいと言っている客を飲ませずに返すわけにはいかんけど。
「それで、ご注文は?」
「このギラギラの太陽の下だぜ? もちろん駄洒落エールでしょっ!」
「あーやっぱりそうだよねえ。汗かいた後に飲むキンキンに冷えたビールは最高だよねえ。私も飲んじゃおうかしら?」
【空きのない冷蔵庫】から、ちゃっかり自分用の駄洒落エールも取り出す。
「それじゃあ、皆で乾杯しましょっ! ブリスロップの奪還を願って、乾杯っ!」
「「かんぱ~~~い!」」
「――ぷはあっ、シャレさん、私、これを飲むためだけに生まれてきたのかもしれない……」
「くうううううっ! 我が人生一片の悔いなしっ!」
「おいおい、みんな大げさなんだよ……。ここは俺がもう少しまともなコメントしてやんよ。どれ、ぐびぐびっと……ぶへえ~死んだ!」
酔っ払い三兄弟が人間の誕生から死までをコメントで表現。みんながおいしそうに飲むもんだから、行き交う人たちが注目し始めた。この酔っ払い三兄弟、食レポの才能あるんでない? 客が、ひとり、ふたりと増えていく。
「ヤケクソ爆弾酒ください~」
「すみませーん、こっちに駄洒落エールください~」
「はいはーい!」
久々に忙しくなってきましたぜい。これじゃあ、フラフープの情報収集する暇もないじゃんね。まあ、お店が大繁盛で、私はウハウハだけど。
でも、そんな平和な酒場経営も、とあるひとりの客の来店により、状況は一変することになるのだった。




