第3部6話 暴露
ドラゴンバックボーンを抜けた先には、砂漠が広がっていた。直射日光×砂の照り返しで、窯で焼かれてるピザになった気分。あっ、ピザ食いたい。っていう私の衝動的な欲求は一旦置いといて、これ以上黒くなったらゴキブリ並みのガングロになっちゃうよ~。
そんな嘆き節の私にやっこちゃんが貸してくれたのは、結婚式で新婦が被るレースの分厚いバージョンみたいなやつ――《風霜高潔のターバン》ていうみたいなんだけど、これを被ると、まるで真夏に百貨店の扉を開けたときみたいに、全身が爽やかな風に包まれるのだ。ふう~生き返る~。このままやっこちゃんのお嫁さんに立候補したい――しまった、既婚だった(酒と)
「――それで、シャレさん。どういうことなのか説明してもらおうか?」
「出来損ないポーションのバフの種類が尋常じゃないから、おかしいとは思ったけど、シャレさんて何者なの?」
酔っ払い三兄弟に詰められる私。ちくしょう。こいつら、酩酊のバフ(嘘)がかかって、いつもより強気になってやがるっ。まあ、ごまかすのは性に合わないから、正直に話すかあ。
私はネクロスタシアに単身でたどり着いて、そこで出会ったおっちゃんたちに協力してもらって出来損ないポーションの研究をしていたこと。その後、ネクロスタシアにクラン連合が攻めてきて、おっちゃんたちと協力して撃退したことを正直に話した。
「――その時に猫野郎の最後っ屁でPKされて、ウルルカにリスポーンしたってわけよ」
私の話を聞いていた3人は押し黙った。やっぱりプレイヤーが他のプレイヤーの攻略の邪魔をするっていうのは、常識的によくないことなのかな? そんな中、一番最初に口を開いたのはガウスだった。
「それってバレンタイン・オンライン上の話だよな……? 同じゲームをやってるプレイヤーの話とは思えないな……」
カルネもうんうんと何度もうなづく。
「私、まるでおとぎ話でも聞いてる気分だったよ……」
ビンセントもふたりに同調した。
「だよなあ。でもその話が本当だとすると、シャレさんが本気モードのクラン連合の連中を返り討ちにしたってことかい?」
「ゴメンナサイ、ハンセイシテマス」
私の言葉に皆が吹き出した。
「学校の先生に怒られて無理やり謝罪させられる小学生かっ! まったく反省の色が見られませんなっ! シャレさん、また攻めてきたら真っ向から立ち向かうつもりだろ!?」
「ふっ、あたぼうよ」
「問題なのは、シャレさんは今、クラン連合から狙われているということですね……」
やっこちゃんが眉間にしわを寄せる。
「そう、それな。なんで私が狙われるのさ? 攻略邪魔された腹いせに仕返しでもしたいの?」
「クラン連合は、バレンタイン・オンライン攻略することを目的に組織された団体です。攻略のために必要なスキル・アイテム・ダンジョンといった要素の情報収集には余念がありません。そういった要素を調査・検証する検証チームまであるくらいなんです。多分、シャレさんが狙われているのは、”出来損ないポーション”のせいだと思います」
「私のポーションが? なにゆえ?」
「希少なスキル【手軽にハイポーションづくりができるミキサー】の発動をあえて失敗させて出来損ないポーションを作るというアイディア。そして、出来損ないポーションをさらに出来損ないポーションの材料に回すというひらめき。さらには、ユニークスキル【空きのない冷蔵庫】で複製することで、ほぼ無制限に出来損ないポーション作りを試せるというのは、シャレさんにしかできない芸当です。出来損ないポーション――特に、10倍ωなどの組み合わせによって強力な支援能力となるという点については、おそらくクラン連合ですら把握できていなかった情報なんでしょうね……」
「……すると何か? クラン連合の連中は出来損ないポーションの作り方が知りたいってことか? そういうことなら教えてあげてもいいんだけど……」
「でも、【空きのない冷蔵庫】を持っていないクラン連合には、10倍ωのような強力な効果を持つ出来損ないポーションを生成することはほぼ不可能です。となると、次に予想されるクラン連合の行動は、”シャレさんをクラン連合に誘致して、共にバレンタイン・オンラインを攻略すること”ではないでしょうか?」
「え、マジ? ネクロスタシアにいるおっちゃんたちは、私のお客だよ? クラン連合に協力するわけなんてないじゃん」
「あくまで可能性だけの話です。協力する気がないのであれば、クラン連合からどのような嫌がらせがあるかわかりません。正体がバレないようにすることが望ましいですが……」
急にお尋ね者になってしまった私。お店やってるんだけど、逃げ切れるかしら……。そもそも、逃げるとか性に合わんのだよなあ。
「そういうことなら私と一緒にいると、みんなにも迷惑がかかっちゃうかもね……。アルカディアまで送ってくれれば、あとは何とかするからさ。もう少し辛抱しておくれよ」
「なに水臭いこと言ってるんだよ! こんな面白そうな話に乗っかれるなんて、バレンタイン・オンラインやっててよかったと思ってるくらいだぜ?」
「そうよ! クラン連合にいいイメージがあるプレイヤーの方が少ないんだから、今回クラン連合がこっぴどくやられて、私は胸の内がすーっとしたよ! シャレさんがネクロスタシアへ戻るのに少しでも協力させてほしいな! そして、あわよくばクラン連合の鼻を明かしてやりたいっ! ねえ、ユイ。いいでしょ!?」
「は、はいっ。私は最初からそのつもりでしたしっ!」
「みんな、さんきゅ~。お姉さん、嬉しくて目から汗出てくるよ~」
そう言って私はやっこちゃんに抱きついた。
「シャ、シャレさんっ、ぐるしいでず~」
「ダイジョブダイジョブ。あとで出来損ないポーションで回復してあげるからっ」
「ぞういう問題じゃないでず~」
やっこちゃんとじゃれ合っているうちに、私たちは砂楼都市アルカディアに到着した。
クラン連合の評判が悪いのは主に例の猫のせいですね…




