第3部5話 保険
次の日、私は“華麗なる聖宴“のメンバーとともに砂楼都市アルカディアへ向かった。
アルカディアへの正規ルートは、”アプサラスコースト”から噴水転移した先の”ドラゴンバックボーン”というダンジョンを抜ける必要があるらしい。
“華麗なる聖宴“のメンバーはレベル30前後の中堅ということもあって、ダンジョン攻略には手間はかからないようだ。私が唯一力になれそうなバフ掛けも不要と断られたので、出来損ないポーションの中でも割と回復力のある(といっても回復”小”)10倍ωで回復に努めた。
それにしても、一度ホームポイントに登録したことのある街は、転移アイテムで飛べるそうで、わざわざこうやってダンジョン攻略に連れて行ってくれたのは、彼らの善意でしかない。やっこちゃんさまさまだ。ホントにありがたや~。
さて、順調にダンジョンの最奥まできて、ここからボス戦。その前に小休止じゃい。
「はいはいおつかれ~、みんなこれ飲んで回復して~」
「さんきゅ――ぷはあっ! キンキンに冷えたビール片手にダンジョン攻略とか、最高だなっ。こんなものがあることを今まで知らなかった無知な自分を恨みたいくらいだ。もはや抜け出せない沼だな、これは」
ガウスの言葉にカルネがうんうんと何度もうなずいた。
「私、一生シャレさんとパーティー組んでいたいもん。どうしたら一緒にパーティー組んでいられるかなあ。そうだ、私と結婚しない?」
「ごめん、既婚なんだ。酒と」
「一足遅かったああああ。人妻だったかあああ」
どっと笑いが起こった。
「念のため聞くけど、ここのダンジョンのボス攻略は大丈夫なのかしら?」
「ご心配ありがとうございますっ。このメンバーで挑めば、問題はまったくないはずですっ。何度も攻略しているボスですし……」
やっこちゃんはそういうけど、ジンさんとかドラゴン氏とかボスクラスの強さを目の当たりにした私としてはどうしても心配になっちゃうんだよね……。
「なんか、付与しておいた方がいい耐性とかある?」
「そうですね……。ボスは”リバイアサン”という海龍が相手で、水魔法を多用してくるんですっ。なので、水耐性の強化ですかねっ。あ、でも私の魔法で水耐性付与できるので、シャレさんにお酒を振舞ってもらう必要はありませんっ」
「えー、いーじゃん、貰っちゃおうよ~」
カルネが口を尖がらせた。
「ダメですっ! ただでさえ回復のためにたくさんの出来損ないポーションを無償で提供いただいてるんですから、これ以上お世話になるわけにはいきませんっ!」
「ちぇー」
「あ、そうだ。代わりと言っては何だけど、最後に気付けとしてこれ飲んでって」
そう言って渡したのは《出来損ないポーションβ(ヤケクソ爆弾種)》だ。
「お気遣いありがたいですが、もったいないにで結構です――って、あっ、油断も隙もない……」
「くおおおおお、効くううううう」
「あう~。効きすぎてリバイアサンの野郎に酔拳くらわしちゃいそう」
「もうっ、シャレさん、3人を甘やかしすぎですよっ」
ぷんぷん怒ったやっこちゃん可愛い。お姉さん、もっと怒られたくなっちゃうよお。
「皆さん、【信奉抱受】で酒抜きしますかっ?」
「いやいい。今がベストコンディションだっ(キリッ)」
「私ら酔っ払いには、このくらい酒入ってる方が丁度いいよ……! さあ、酔っ払いの力、リバイアサンに見せつけてやろうじゃないっ!」
みんなには黙ってたけど、さっき10倍ω配ったから、合わせ技で、腕力×2、体力×1.8の補正がかかるのよね。私の心配性も困ったもんだなあ。でも、少し保険をかけたって罰は当たらないでしょう?
私たちはそのままボス部屋に侵入。見えてきたのはその部屋の面積の半分を占めるくらい大きな池。微弱な振動が池の水面に波紋が広がり始め、それが徐々に大きくなる。
――ギャオオオオオオッ!!
池から大きな水しぶきを上げながらド派手に登場したのは、水色の鱗に覆われた龍――うーん、蛇といった方がしっくりくるかな? 蛇が鳴くのはなんか違和感あるぞー。
「咆哮している今がチャンスだ! 終わるとお得意の水弾を打ち込んでくるぞ。今のうちに少しでも多くのダメージを稼いでおく――ってあれ? 異様にリバイアサンのHPの減りが早いんだが気のせいか?」
「いや、間違いなく早い。このままのペースだと、あと1、2撃で……」
――ギャオオオオオオ……
リバイアサンは登場した勢いそのままに岸に倒れこみ、そのまま力尽きた。皆呆然とリバイアサンのポリゴン化を眺める。うわあ、きれい~。なんてな。
「うっわー、酔いがさめたわ。まだ矢を一発も放ってないんですけど? ガウス、何かやった?」
「いや、わからん。リバイアサンがいつのまにか弱体化したとしかーーおいっ、俺の腕力と体力のステータス、補正のかかり方が異常なんだが!? システムのバグか何かか?」
「あっ、俺の方もだ。なんだこれ?」
「私はどうなってるのかなーっと。どれどれ――って腕力2倍になってるじゃん!? うわっ、体力の数値もえぐっ。ユイもおんなじ!?」
「あれ? 私はそんなことないです――あっ、そういえば、ボス部屋に入る前に私以外はシャレさんの気付け薬飲みましたよね?」
皆の視線が一斉に私に集まった。
「アハハ、ばれた……?」
だって、こんな楽勝だとは思わないじゃんかー。すんません。




