第3部4話 今話題のネクロスタシア
「ひっく、シャレさんて~、いつもここでお店出してるの~?」
ベロベロの弓士、カルネがそう尋ねてきた。
「うんん、いつもは違うところでお店やってて、今日は臨時営業っ」
「ひっく、へえ~、じゃあ今日は~、何でここに出店してるの~? ひっく、仲間は~?」
「仲間はいるけど、ひとりでウルルカにリスポーンしてはぐれちゃってね……。ひとりでは戻れなくなっちゃってね」
「ひっく、あらま~、ホームポイントの変更し忘れ~? ひっく、私もよくやるんだよなあ~」
そうか、ホームポイントなるものがあるのか。だからリスポーンしたらウルルカに戻ってきたのね……。初回ログインの操作説明をすっ飛ばした影響が、ここにきてボディーブローのように効いてきてるんですけど……。
「そうだ。私、ネクロスタシアに行きたいんだけど、行き方知ってる?」
「ネクロスタシアって、今話題のでしょうか?」
やっこちゃんがそう答えた。
「話題というと?」
「ネクロスタシアは、バレンタイン・オンラインのシナリオの最前線なんです。ちょうど今日、シナリオ攻略に挑んでいたクラン連合が、そこのボスにこっぴどくやられたらしいんです。何でも、全滅だったとか。現在進行形でバレンタイン・オンライン中が大騒ぎになっています」
「そ、そうなんだ?」
「さらに、ネクロスタシアで攻略を邪魔したプレイヤーがいるらしく、クラン連合はそのプレイヤーについて血眼になって調査をしているらしいです」
「マジで?」
「ひっく、まあ~、始まりの街で飲んだくれてる私たちには縁遠い話だよね〜」
縁遠いどころか、当事者がここにいますー! でもあれは、おっちゃんたちを襲ったあいつらが悪いーー
ふと思ったんだけど、おっちゃんたちを倒さないとバレンタイン・オンラインのシナリオが進まないってこと? ていうことは、私はゲームのシナリオ進行を阻止した? それって全プレイヤーを敵に回してると言っても過言でないのでは? 急に脇汗出てきたんですけど。脇汗パットどこかで売ってるかな?
「いいじゃないか、ゲームの楽しみ方なんて人それぞれ。俺らには俺らの楽しみ方があるのさ」
「その楽しみ方ってこういうふうに浜辺で飲んで食ってダベるってことか? なんだ、最高じゃん」
剣士のガウスがそう言うと、皆が一斉に笑った。
「ところでシャレさんは、なんでネクロスタシアを目指してるんだい? まさか、クラン連合の一員とか!?」
斧使いのビンセントが冗談めかしく言った。
「ま、まさか、あははは〜。ネクロスタシアに知り合いがいてね~」
久々に愛想笑いとかしたわ。まさか攻略を阻止した方の一員です、なんて言えんしなあ。
「え、クラン連合の人と知り合いってこと!? トッププレイヤーの知り合いがいるなんて、すごいなあ。でも、クラン連合の拠点は遊戯都市和樂だったよね?」
「そ、そうそう! だから、私も遊戯都市和樂に行きたいんだよねえ」
まあ、クラン連合が知り合いというのはあながち間違いではない。敵だけど。てか、あいつらトッププレイヤーなの? 私、とんでもない奴らを敵に回してんじゃん……。
なんでこうなってしまったんだ……? 私はネクロスタシアでまったりと酒場経営したいだけなのに……。
「遊戯都市和樂は、転移アイテムとか使用しない限り、結構遠いよ? 最短ルートだと、砂楼都市アルカディア→氷牢都市フルイゼン→樹海都市クリムクロス、からの遊戯都市和樂かな。少なくとも3つの都市を経由しないとね」
「うげっ、遠いなあ。ひとりでいけるかな……」
「ダンジョンを抜ける必要があったりするから、よっぽど強くない限りはひとりでは辛いと思うよ。あっそうだっ! 俺たち、アイテム持ち逃げした犯人を探しに砂楼都市アルカディアまで行くから、そこまで俺たちと同行するのはどうかな? なあ、ユイちゃん、いいだろ?」
「は、はいっ! シャレさんがいてくれると、私も心強いですっ!」
「マジ? さんきゅっ、やっこちゃんっ!」
「そ、そういえばシャレさん。私のこと”やっこちゃん”って呼んでますけど、それってどういう意味ですか?」
「あ~、納豆のせ冷ややっこに似てるからやっこちゃん」
皆が一斉に酒を吹き出した。
「あはははっ、茶髪に巫女服だから〜? 的を射てる~。私もユイじゃなくてやっこちゃんって呼ぼ〜ww」
「わはははっ、さすが酒場の店主! 酒のつまみとしてあだ名も振る舞うのかっww」
「ガウス、うまいこというなww」
「もうっ、みなさん笑いすぎですよっ!」
絶え間ない笑い声と共に、夜は更けていった。




