第3部3話 酒の魔法
「まさか、バレンタイン・オンラインでうまいこめビールにありつけるとはねえ。私、バレンタイン・オンラインやってて今が一番幸せかもしれない……」
「俺はこのウイスキー味の業火酒がお気に入りだ。胃の中でメラメラと燃え上がる感覚が、病みつきになる……」
「俺には業火酒はちょっと強いから炭酸割りの方が好きかな。それにお通しの枝豆もうまし。いくらでも食える」
みんなもう、10杯くらい飲んでる。そろそろ頃合いか? 私はやっこちゃんの脇腹を肘でツンツンする。やっこちゃんもコクンとうなずいた。
「あ、あのっ! 実はみなさんに報告しないといけないことがあって……」
「あ、そうだった。酒がうますぎて、ユイちゃんの話を聞くの忘れてたよ」
「どした、ユイ!? 何があっても驚かないよ!?」
「じ、実は、うちのクランの宝物、ユニークアイテム《命を吹き込む太綱ブリスロップ》が奪われたんです」
「は!? 誰に!?」
「クランの新人のアルカルトさんです……」
みんなの血の気がさーっと引いていくのがわかった。
「ご、ごめんなさいっ! 私がアルカルトさんを信用して独断で貸し出してしまったがために、こんなことになってしまいました……。私は責任を取ってこのくらんのリーダーを辞任して、クランからも脱退しようとーー」
その時、剣士のガウスが言葉を遮った。
「すまんっ! あのバカをクランに勧誘したのは俺だ! 責任は俺にあるっ!」
「い、いや、そんなことーー」
すると次は弓士のカルネが口を挟む。
「ごめん、ユイ……。《ブリスロップス》のことをアルカルトに自慢したのは私だ……。あいつが欲しくなったのはそのせいかもしれない……」
お次は斧使いのビンセントだ。
「いや、こないだ試しに《ブリスロップス》を使ってみたらどうだと俺が勧めたんだ。間違いなく俺のせいだ……」
皆、一様に落ち込んでみせるので、私は思わず笑ってしまった。
「フフフッ、いや、悪いのは犯人でしょ?」
「そ、そうだな! 店主さんの言う通り、俺らは誰も悪くない! あの野郎、紹介した俺の顔に泥を塗りやがって……。絶対に見つけ出して取り返してやるっ」
「ユイちゃんの優しさにつけ込んで騙すなんて許せん! 俺も探すぞ!」
「あら、ビンセント。いつからユイちゃんなんて呼ぶようになったの? いっつもリーダーって呼ぶくせに距離縮めようとしてんの?(笑)」
「な、ななな、ば、ばかっ! 酒が入って口が滑ったんだ……!」
「うえーん、ビンセントがバカって言ったー。ユイとこんなに扱いが違うなんて差別かしらー。差別反対ー。助けてユイー」
「もうっ、ビンセントさん、バカなんて言ったらダメですよ!」
「うむ、すまん……」
ビンセントが謝罪したところで皆が吹き出した。
これがどんな苦い失敗も笑いに変えられる“酒の魔法“。それにしても、いいチームだね。こんなメンバーならクランに入るのも楽しそうだよね……。
ーーうらやましくなんてないんだからねっ!




