第3部2話 浜辺で臨時営業
「へ〜こんなところに海の家があったんだな」
「海の家っていうよりは、出店って感じじゃない?」
「“駄洒落“だって……。ユイ、こんなお店よく見つけたね!」
まもなく剣士の男、弓士の女、斧使いの男が現れた。
「ガウスさん、カルネさん、ビンセントさん。わざわざきていただいてありがとうございますっ」
「おうよ、ユイちゃんに誘われるのなんて珍しいから何かあったのかと思ってなー。ダンジョン攻略すっぽかして来てみたんだ」
「そうそう! 私なんて隣街に行く途中で引き返して来たんだからねっ! 何もなかったら逆に困るわっ!」
「い、いい、いやだなあ。な、ななな、何もないですよお……」
何かあるだろうが。まあ、いい人そうなメンバーじゃんね。
「それで、クランのメンバー集めて、どうしたの?」
「あのさ、ここは屋台といえど、ここは酒場だよ! 話し込む前に注文をいただきましょうか!?」
「そ、それは失礼した」
しまった。軽快に笑ったつもりがなんか怖がらせてしまった。リアルより加減が難しいのよ、この顔。
「じ、じゃあ、さっき飲んだやつ、いただけますか? すごくおいしかったんですっ! 私がおごりますんでっ!」
「ソルティー・オーシャンね、りょーかい!」
私は【空きのない冷蔵庫】を発動した。
「え、冷蔵庫のスキル? 初めてみた」
弓士の女が物珍しそうにそういった。
「え、そうなの?」
「うん、バレンタイン・オンラインに白物家電のスキルなんてあるんだね〜」
むしろ、白物家電のスキルしかもってないんだが。そいや、【空きのない冷蔵庫】ってユニークスキルだったか。ネクロスタシアを襲った連中が【三種の神器】がどうとか言ってたし、珍しいのかしら? でも、家電の三種の神器って、冷蔵庫と洗濯機とテレビのことでしょ? みんなが使ってなんぼだろって思うんだけどね。
さっき作り置きしておいたソルティ・オーシャンを冷蔵庫から取り出して4人に振る舞う。
「はい、お待ちどうさま!」
「んん、《出来損ないポーションα》?」
3人が訝しげな表情を作る。
「騙されたと思って飲んでみてっ!」
「まあ、回復“微“と炎耐性が付いてるだけで、悪そうなものじゃないから飲んでみるけど……」
そう断りを入れて3人は口をつける。すると、
「「「さわやか〜」」」
「何この異常なまでの爽快感!?」
「砂に染み込む水滴みたいに、体全体に染み渡ってく! あ〜生きててよかった〜」
「出来損ないなのに、こんなにおいしいなんて、まったく詐欺みたいなネーミングだぜっ!」
「店主さん店主さん、他にもメニューはあるのかな? わくわくっ」
「あるよ〜。はいこれ、お品書きっ」
「ーーおっ、酒も売ってるんだなっ。見かけないネーミングでどれも気になるっ」
「値段はーー書いてないね?」
あー値段か。ネクロスタシアにいる時は、おっちゃんたちが勝手にお金置いていったから忘れてたな。まあ原価がほぼゼロだから、タダでもいいっちゃいいけど、商売だからね。しっかりお金をもらうことで背筋が伸びるというか、もらった金額に見合ったサービスをしようって思うわけだよね。
「どれでも一律500バースでいいよ?」
「「500バース!?!?」」
「え、な、なに?」
「純粋に炎耐性付与するアイテムですら1000バースはするぜ……」
「しかも飲んでも楽しめるときた。こりゃすごい店を見つけたもんだぜ、ユイちゃん……」
「わ、わたし、駄洒落エールをお願いっ!」
「俺はヤケクソ爆弾酒を頼むっ!」
「お、俺も、俺もだっ!」
「はいはい、ちょっと待っててね〜」
おっちゃんたち以外のお客は久しぶりだなあ。この和気あいあいとした感じ、やっぱ酒場経営は辞められませんなっ!




