第2部32話 太客たちの作戦会議
〜同時刻、ネクロスタシア〜
「まさか、孤龍と作戦会議をすることになるとはのう……」
「それは我のセリフだ、不死者よ。だが、1000年ぶりの緊急事態だ。いたしかたあるまい」
「うむ、まず状況から整理しようじゃあるまいか。姐さんが姿を消してから1日が経過した。我らネクロスタシア守護兵団が総力を結集してネクロスタシア中を探したが、姐さんを見つけることは叶わなかった……」
「姐さんは我らとは違い、この世界の住人ではない。元の世界に戻ったという可能性はないのか?」
「ない。ワシは姐さんの屋台に細工をし、屋台が開店したかどうかわかるようにしているのじゃ。姐さんが消えたあとに屋台が開いたことは確認済みじゃ」
「ということは、少なくともこの世界のどこかに姐さんがいるというわけか……。しかし、そんな小細工して“駄洒落“の開店を検知しておるとは、不埒なやつめっ! ずるいぞ!」
「ふんっ、そんなことを言われる筋合いはない。お主もその爪笛で、姐さんの位置を察知していたのじゃろ?」
「――我が爪笛の位置を把握できることをなぜ知っている!?」
「うはははっ! お主の不埒な魂胆など見え見えじゃわい!」
「ふんっ! お互い様というわけか。しかし今、姐さんは爪笛をドロップして行方知らず。しっかり食事はとっているのだろうか? まさか、病などにかかったりはしてないだろうな……。心配でたまらん! 猫から姐さんを守れなかった己が不甲斐ない……」
「しかり。もちろん我らにも責任はあるが、すべての元凶はーーおい、そこの猫! お主のせいじゃからな!」
「にゃー!? 早くここから出すにゃー! NPCがプレイヤーを監禁していいにゃ!? 運営に通報するにゃ!?」
「おい不死者よ。この猫、まったく反省の色が見えないのだが? 我のブレスで消し炭にしてやろうか?」
「耐えよ、孤龍よ。この猫には使い道があるのじゃ。さあ、猫よ。姐さんはどこに行った? 居場所を吐け。吐けばそれなりの便宜を図ってやろうぞ」
「姐さん? ああ、あの入墨女のことにゃ? うーん、教えてやってもいいにゃ? その代わり、にゃーに《時を巻き戻す石タイムパンドライト》をよこすにゃ」
「……おい不死者よ。この猫、喰ってもよいか?」
「まあ待つのじゃ。こんな時は、ネクロスタシア守護兵団伝統の拷問を使えば、すぐにでも吐きたくなるじゃろう」
「拷問にゃ? にゃはーん、プレイヤーの痛覚は設定でオフにできるにゃ。どんな拷問をしてもチクリとも感じないにゃ〜」
「うはははっ! いい度胸じゃ! それならば根比べと洒落こもうぞ!」
※
「な、ななな、何にゃ、その茶色い固体は!?」
「これは、ピレイナ山脈の特産“ピレイナインパラの糞“じゃ」
「ふ、ふふふふふ、ふん!? そ、それをどうするつもりにゃ!? ま、まさかーーや、やめるにゃ! うげえええええええくっさっ! げろげろげろ! マズうつううううううううう!」
「うはははっ! 《ピレイナインパラの糞》は薬の原料にもなる体によい素材じゃ。少々味に難点はあるのじゃがのう……」
「ぶえええええ、ドリアンの臭いがする青汁って感じにゃああああ。にゃーは普段、お菓子が主食なくらいの甘党にゃ! そんなにゃーに糞を食べさせるなんて拷問にゃ!?」
「だから拷問だといっておろうが」
「や、やめるにゃ! にゃーはか弱いただの子猫にゃ!? わかったにゃ、《時を巻き戻す石タイムパンドライト》じゃなくて別のユニークアイテムでもいいにゃ?」
「ほう? ならばユニークな臭いのするアイテムをやろう」
「にゃあああああ!? もう、糞はやめるにゃあああああ! ほ、本当に死んでしまうにゃ……」
「それなら姐さんの居場所を吐くんじゃ。そして、“ごめんなさいワン。もう2度と姐さんには逆らわないワン。“と言うんじゃ」
「にゃーは子猫にゃ!? 子猫に犬の鳴き声をマネさせるなんて、血も涙もない奴らにゃ! 貴様ら本当に人間にゃ!?」
「ワシはゾンビじゃ」
「我は龍だ」
「そうだったにゃああああああああ!」
「さあ、早く吐くんじゃ。さもないと追い糞するが?」
「に〝ゃあ〝あ〝あ〝あ〝あ〝! や〝め〝て〝え〝え〝え〝!」
〜1時間後〜
「ひっく。ごめんなさいワン。ひっく。もう2度と姐さんには逆らわないワン……」
「うはははっ! わかればよいのじゃ! さあ、姐さんはどこにいるのじゃ!? 吐け!」
「ひっく。入墨ーー姐さんはおそらく、ネクロスタシアをホームポイントとして登録してなかったことで、別の街へリスポーンしたと思うワン」
「……初めて姐さんと出会ったのはネクロスタシアの南門付近ーーおそらく海を渡ってきたのじゃろうが、海の先に何かあるんじゃろうか?」
「ネクロスタシアから海を渡った先にウルルカという街があるワン。姐さんのレベル的にもホームポイントはウルルカである可能性が高いワン」
「でかした、ワンダよ!」
「ワンダじゃなくてニャンダですワン……」
「おお、そうか、ワンダ。それでは、ウルルカとやらに向かうとするか……!」
「我も行く」
「こんな軍勢がウルルカに現れたらパニックだワン!? スタンピードでも起こすつもりかワン!?」
「騒ぎを起こすつもりはない。あくまでも内密にじゃ。孤龍、お主もそのつもりで頼むぞ」
「心得た。しかし、不死者よ。ネクロスタシアの守護を放置してもよいのか?」
「うはははっ! ネクロスタシアの存亡よりも姐さんの生死の方が重要じゃわい! しかも、何かあればベルズ様が何とかしてくれるじゃろうて」
「ふむ、確かに姐さんは最優先事項だな……」
「それじゃあ、ワンワンはそろそろ失礼するワン……」
「誰が帰ってよいと言ったんじゃ? お主も同行するんじゃぞ?」
「な、なんでにゃあああああ!? もう、おうちに帰りたいにゃあああああ」
「姐さんをネクロスタシアへ連れ戻すことができたあかつきには、《時を巻き戻す石タイムパンドライト》をくれてやってもよいが?」
「ほ、本当ですかにゃ―ワン!? わかったワンっ、協力するワンっ!」
「よし、交渉成立じゃ。ワンダの案内で、ウルルカに侵攻するっ。精鋭部隊で望むぞっ!」
「「うおおおおおお!!」」




