第2部29話 階層主の実力
戦いの火蓋を切ったのは、猫野郎だった。拳の連打をジンさんの全身に浴びせる。でも、一切動じないジンさんを見てか、猫野郎の表情は曇った。
「うーん、硬いにゃ〜。効いてる気がしないにゃ」
「打撃が無効化されているかもしれません。貫通攻撃に切り替えましょう」
「了解にゃーーって攻撃当てただけで《絶望》のステータス異常をくらったにゃー!」
《絶望》のステータス異常が付いていると受ける物理攻撃のダメージが1.5倍になる。
「まさか、槍で受けなかったのはそのせいにゃーー」
その時、猫野郎をジンさんの神速の長槍が襲う。猫野郎は拳で受けるも、長槍の突きはまるで雨のように次々と降り注ぐ。
「なめるにゃあああ!!」
猫野郎は何とか防いでいたけど徐々に手が回らなくなっていく。腹に穴が開き、次は肩、足、腕ーー
「ふぎゃぎゃきゃきゃ」
しまいには全身穴だらけになって紙切れのように吹き飛ばされた。
「ニャンダが通常の物理攻撃に手も足も出ないだと……? ならば、死霊魔術【ネクロマンシー・アンデット・ロードオブデス】」
黒魔術士がスキルを発動。どこぞの王族のような派手な衣装を着こんだ骸が召喚された。
「うはははっ! ゾンビのワシにアンデットを当ててくるとは一興じゃわい!」
「ロードオブデスは召喚可能なアンデットの最高位。物理攻撃がダメなら、魔法攻撃を選択するまでた。ロードオブデス! 【黒月の陰火】を発動しろ!」
空が赤く染まり、黒い月が上って地面に影を作る。ジンさんがその月の影に覆われると、身体が瞬く間に炎につつまれた。
「どうだ、回避不能の炎の力は!? 7階位の高位魔法だ、相当のダメージを追うはず……!」
炎はジンさんを飲み込み、そしてその姿形が見えなくなる。
「ジンさん!?」
「ふんっ、一撃だったか。口ほどにもないーー」
「不貞腐れバウム、避けなさい!」
女剣士が叫んだ頃には時すでに遅し、黒魔術士は背後から串刺しにされ、吊るし上げられた。
「ーーぬるい、ぬるいわ。姐さんの酒の方がよほど暖まるじゃろうて」
黒魔術士は自らの腹を貫通した長槍を憎々しげに掴む。
「くっ、ど、どうやった? 一度、月の影に囚われたら、脱出はできないはず……」
「ワシは影を通して現世と冥界を行き来できる。つまり、影はワシの味方。月の影から冥界に入り、お主の影から現世に出ただけじゃ」
「そ、そんな……」
「冥界の業火はこんなものではないぞ? 少し暖まってから逝くがよい」
その言葉を聞いた女剣士はすかさず跳躍し、ジンさんの長槍から黒魔術士を救出。しかし、ふたりにはジンさんの長槍が向けられていた。
「【冥闇の業火球】」
長槍の先に黒い炎が燃え上がり、次第に切っ先へ収束。燃え盛る暗黒の球体となり、ふたりへ放たれた。
女剣士は寸前のところで回避。しかし、黒魔術士には着弾した。
「ぬぐっ……《炎耐性》が無効化されているだと……?」
「冥界の黒炎は耐性を貫通する。《炎耐性》など無意味じゃ」
「くそおおおお! 我が負けるなど何かの間違いだ! 許さん! 許さんぞおおおーー」
黒魔術士がポリゴン化するとともに、ロードオブデスもポリゴン化した。
「……さて、他のメンバーも我らの仲間があらかた片付けたようじゃ。つまり、残りはお嬢ちゃんだけ。さて、どうする?」
「無論、あなたを狩るに決まっています」
「うはははっ! 威勢のいいお嬢ちゃんじゃ! 気に入ったぞい! では、決闘と洒落込もうじゃないか!」
「その前にひとつ、シャレさんにお伺いしたいことがあります」
「ん、なに?」
「ゾンビウォーリアーが魔法耐性を網羅していたのは、やはりあなたのポーションが原因ですか?」
ゾンビウォーリアーっておっちゃんたちのことだよね。はて、魔法耐性ですって? 新メニューのお披露目会で、いろんな酒をチャンポンして飲んでたから、もしかしたからそのせいなのかもしれない。
「うーん、多分?」
「そうですか……。やはり、あなたは自身のレベルを大きく上回るーーそう、わたしたちにも引けを取らない後方支援能力を有するようです。私のクランに勧誘したいくらいの強力な力です」
「そりゃ、どうも……」
彼女らがどれほどの実力の持ち主かはわからないけど、比較的高いことは間違いないよね。褒められて悪い気はしないけど、あいにくクランなんて興味ないんだよね。私は平和に自分のお店をやりたいだけなんだ!
「うはははっ! 随分と長話が好きなようじゃな。もうよいか?」
「はい、お手合わせ願います。私はクラン“キヘンニハナ“のリーダー“椛“」
「椛か、覚えておこう」
その言葉を合図に両者が激突した。




