第2部26話 悲しい出来事
ようやく主人公パートに戻ってきました……
ティービーが私をかばって侵入者に斬られた。たったの一撃。しかし、それが致命傷だったようだ。
私の腕の中でぐったりとしているティービーは、力なく笑った。
「……姐さん、無事ですか?」
「無事だけど、何でかばったのよ!? 私はリスポーンするだけなんだから、放っておけばいいのに……」
「そうはいきません。姐さんは僕の命の恩人です。たとえ生き返るのだとしても、姐さんが殺されるところを見過ごせるはずがありません」
「麦酒作ったくらいで命の恩人とか大げさだよ!」
「いえ、失われた記憶は僕にとって命と同じくらい大事なものでした。それを甦らせてくれた姐さんは命の恩人です。恩人を助けられたのだから、命を投げてしても悔いはないんです」
ティービーの体がポリゴン化していく。
「ち、ちょっと待ってよ!」
私はありったけの出来損ないポーションをティービーに振りかける。でも、ポリゴン化が止まらない。どうしよう。どうしよう。
「そ、そうだ。私、もっとおいしい麦酒探してるんだよ? 今度は駄洒落エールの進化系、麦笑エールなんっつって。名前は(仮)なんだけどね。出来上がったらティービーに一番最初に飲ませてあげるからさ。だから死なないで?」
私の目から涙があふれた。
「それは早く飲みたいですね。楽しみ――」
薄い笑みとともに、ティービーの身体はたち消えてしまった。私の心臓が締め付けられる。
「ジンさん、ティービーが消えちゃったよ……」
「そうか……」
ジンさんが目をつむった。
これ、ゲームなんだよね? ほら、バックアップとか、あるんじゃないの? 1時間巻き戻そうよ? GMと交渉したら戻してくれるかな?
「ニャハハッ、雑魚キャラに感情移入してるおバカがいるにゃん! 今どき天然記念物級だにゃ~」
猫野郎がそう言った。どうやら交渉の前にやらなきゃならならないことがあるようだ。
「あんたたち、プレイヤーだよね? こんな酷いことしてどういうつもり?」
「どういうつもりも何も、そこにいる階層主を倒してユニークアイテムの入手を試みています」
女剣士がそういってジンさんを指さす。ジンさんが階層主? そっか、ジンさんてボスキャラだったんだね。でも階層主だろうとなんだろうと、私の大事なお客さんであることには変わりない。
「ユニークアイテムなんて他のところで取ればいいじゃん。わざわざ私のお客さんを標的にしないでよ。迷惑なんだよね」
「そういうあなたはゾンビウォーリアーへステータス補正をかけて、私たちの攻略の邪魔をしている――わけでもないようですね」
どうやら私のことを【鑑定】したようだ。私、レベル低いし、そりゃなめられるよねえ。
「ジンさんやこの街のおっちゃんたちは、私の大事なお客さんなんだ。これ以上ちょっかい出すようなら容赦しないよ?」
「レベル10程度のプレイヤーが我らに容赦しないだと? 片腹痛い。我らより先にネクロスタシアにたどり着いたからといって天狗になってるのだとしたら大間違いだ。お前がネクロスタシアにたどり着いたのはただの偶然。実力と勘違いしてもらっては困る」
そう語気を強めたのは黒ずくめの魔術士の男だった。
「はあ? 実力とかどうでもいいし。ていうか、あんたたちの実力がその程度だから今までここにたどり着けなかったんでしょ?」
「ぬぐっ……!」
「ニャハハッ! 口が臭いバウムが一本取られてるにゃ!」
「う、うるさい!」
猫野郎の高笑いがこだまする中、口を開いたのは女剣士だった。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「シャレ」
「シャレさん、私たちクラン連合には撤退の意思はありません。あなたが私たちの攻略を阻止しようというのであれば、私はあなたを斬らねばなりません」
「斬られるのは嫌だけど、お客に死なれるのはもっと嫌だ」
「交渉決裂ですね……。致し方ありません」
女剣士はそう言って剣を構えた。確かに私は戦ってもジンさんの足手まといでしかない。でも、ジンさんの力にはなれる。
私は【空きのない冷蔵庫】を発動した。
「【白物家電シリーズ】の【3種の神器】だと!? ネクロスタシアの開拓者ボーナスの噂は本当だったか……」
黒ずくめの魔術士がそう言ったが気にしない。冷蔵庫の中からいくつかのポーションを取り出した。
実は私の出来損ないポーションの自由研究には続きがある。今こそ、自由研究の成果を発揮するそのときが来たのだ。
ストーリー的に割といいところ(だと思っている)で恐縮ですが、お盆中の更新はおそらくストップになるかと思います。
また、8月21日から更新再開したいと思いますのでよろしくお願いいたします。




