第2部25話 階層主の正体(もみじ視点)
「これ見てください……」
モンスター名:ゾンビウォーリアー
レベル: 58
HP: ■■■■■■■□□
ステータス: 《腕力758×2》
脚力662
《体力855×1.8》
敏捷459
器用300
精神578
《幸運+100》
効果: 《炎耐性》
《氷耐性》
《風耐性》
《水耐性》
《土耐性》
《雷耐性》
「このめちゃくちゃな補正は何!? 何かの間違いじゃないの!?」
「いや、カルテに間違いはないと思いますけど、信じたくない内容ですね……」
予想通り、いや、予想以上の補正のオンパレード。補正というか、もはやドーピング? 腕力が2倍って、ドラウグルが一撃で葬られたのはこのせいね。クリティカル判定ばかり出たのは幸運値に補正が入ってるからか。しかもほとんどの属性に耐性があるから魔法攻撃は通用しない。
チート!チート!チート! 思わず心の中大合唱してしまった。
「……どうします?」
「撤退しましょう! 敵の強さは想定を上回ってます! 一度引いて体勢を立て直しますーー」
声を大にして叫んだその時、私たちコアパーティーを3体のゾンビウォーリアーの刃が襲った。しかし次の瞬間、
「連続猫パンチ!」
ゾンビウォーリアーの全身に目にも止まらぬニャンダの拳が炸裂。フルボッコにされたゾンビウォーリアーはまるでピンポン玉のように城壁へ弾き飛ばされた。
「撤退なんて椛にゃん、冗談がきついにゃ。バレンタイン・オンライン最強の剣士の名が泣くにゃ?」
「し、しかし、ゾンビウォーリアーのステータス補正や耐性の数々は想定外です! 一旦引いて作戦を立て直しましょう!」
「引くなら、椛にゃんだけで引くにゃ。にゃーだけでも全員ぶちのめせるにゃ〜」
「同感だ。まだ、階層主の姿も拝めていない。撤退は時期尚早だ」
そう言ってニャンダと不貞腐れバウムのふたりはゾンビウォーリアーの軍勢の中に飛び込んでいく。
ああああああ、もうこいつら、こんな時だけ仲良し子よししてんじゃねえええええ。
「死霊魔術【ネクロマンシー・アンデット・デュラハン】」
不貞腐れバウムを守るようにして頭のない騎馬兵が3体現れた。デュラハンはドラウグルよりも高位のアンデットだ。軽々とゾンビウォーリアーを跳ね飛ばしていく。
「肉球連弾!」
ニャンダもゾンビウォーリアーを次々に殴り飛ばしていく。
やっぱりふたりは群を抜いて強い。ゾンビウォーリアーの数も徐々に減ってーーいないぞ?
どういうこと? ゾンビウォーリアー、不死身なの? 否、さっきカルテでHPが減少しているのを確認済みだ。ますます訳がわからない。
ゾンビウォーリアーがニャンダとデュラハンにふき飛ばされてー城壁に叩きつけられてー起き上がってーボロボロになりながら城門に駆け込んでー。ん???? 入れ替わり立ち替わり城門から新品のゾンビウォーリアーがわいてくるんだけど????
「……ネクロスタシアに戻ると全回復する仕様? もしくは、城壁の内側に後方支援者の存在がいるのかしら?」
「そうかもしれないっすね。異常なステータス補正や耐性もその後方支援と関係してるかもです」
いずれにしろ、この階層主戦は城門の攻略がキーになっている。早めに潰さない手はない。
「コアパーティーでまず城門を落として、ゾンビウォーリアーを孤立させます。残りのメンバーは、ゾンビウォーリアーを引きつけてください!」
「合点承知にゃん」
「デュラハンで道を作る。隙ができたら駆け抜けろっ!」
不貞腐れバウムの言う通り、デュラハンがゾンビウォーリアーを押しのけ、道ができた。
「行きますっ!」
ゾンビウォーリアーには目もくれず、全速力で一本道を駆け抜ける。すると、城門はすぐ目と鼻の先だ。城門はオブジェクトで壊せるようだ。それなら斬ってしまうか?
私は愛刀の“舞散紅葉刀“を構える。するとその時、城門の中にいる何者かの姿が垣間見えた。
褐色の肌をした、入れ墨の施された女アバター。ゾンビウォーリアーたちに守られている。ということは敵か。
その女の手にはポーション。この女が後方支援者か。やはり、いたのか。
標的変更。私は一瞬で間合いを詰め、女を守っていたゾンビウォーリアーを斬り捨てた。すると、その女は真っ青になる。
「ティービー! 大丈夫!?」
ゾンビウォーリアーに名前があるのか? しかし、そんなことはどうでもいい。私は続け様に女へと刃を向け、斬りかかろうとする。
しかし、次の瞬間ーー
金属の甲高い衝突音とともに、私の刃は弾き返されていた。弾き返したのは唯一、騎乗する人一倍大きなゾンビウォーリアー。
「うはははっ! 姐さんを狙うとは不埒な連中めっ! 姐さんには指一本触れさせんぞ!」
彼はそういって私たちの前に立ちはだかった。
「……椛さん」
ハンゾウの言葉に私はうなずいた。一太刀交えて見当はついたものの、念のため【鑑定】。
モンスター名:不死のジン・ヘルナンデス
レベル: 85
説明: 無限回廊第20層の階層主であり、ネクロスタシア守護兵団の団長。
私たちはついに階層主と対面したのだった。




