第2部24話 開戦(もみじ視点)
私たちは作戦会議とバフのかけ直しを経て移動。ネクロスタシアの軍勢と対峙した。
「ひえ~、こりゃまた絶景ですね……」
ハンゾウが小さな悲鳴を上げた。
ネクロスタシアの城壁の前を武装した兵士たちが隊列をなす。おそらく、100体はくだらないだろう。私は試しに【鑑定】を発動してみる。
モンスター名:ゾンビウォーリアー
レベル: 58
説明: ネクロスタシア守護兵団の屈強な団員がゾンビ化したなれの果て。
レベルはそこそこだけど、姿形はどう見てもゾンビじゃなくてただのおっさん兵士。何かを契機にゾンビ化すると見るべきか? それにしても、統率は取れてそうだけど、ぱっと見全然強そうには見えない。
まあ、ゾンビウォーリアーは階層主の取り巻き、所詮ザコ敵でしかない。問題となりそうなのは階層主だが、今のところ姿を現していない。ゾンビウォーリアーを殲滅してからのお出ましだろうか。
「死霊魔術【ネクロマンシー・アンデット・ドラウグル】」
不貞腐れバウムがそう唱えると、武装したアンデットが10体現れた。さらに連続で発動し、100体からなるアンデット軍団を作り上げる。
通常では100体の召喚なんて芸当、とてもじゃないができない。バレンタイン・オンラインきっての魔術士職である不貞腐れバウムだからこそなせる技だ。
「まずは様子見といこう。敵を殲滅せよっ! ドラウグル!」
ゾンビウォーリアーと同数のドラウグルの軍勢。ドラウグルの方がビジュアル的にも強そうだし、案外ドラウグルだけで殲滅しちゃったりしてね。
ドラウグルがゾンビウォーリアーの元へと駆けていく。しかし、恐れをなしたのか、ゾンビウォーリアーは身動きひとつしない。
ドラウグルが襲いかかろうとしたその時、微動だにしなかったゾンビウォーリアーが剣を抜いた。そして一閃。
ゾンビウォーリアーの一撃は、旋風を巻き起こしドラウグルの軍勢を瞬く間に飲み込んだ。そしてその旋風がおさまったときには、まるで神隠しにでもあったかのように100体ものドラウグルが消失したのだ。
「は?」
思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「……ドラウグルってこんなザコかったでしたっけ?」
ハンゾウがそうつぶやいた。
「我の召喚するドラウグルのレベルはおよそ55相当。捨て駒ではあるが、通常攻撃一発でやられるほどヤワではない。これは何かカラクリがあるぞ……」
私も不貞腐れバウムに同感だった。1体ならまだしも、100体全てが一掃されたのは偶然にしてはできすぎている。
「胡散臭いバウムのアンデットは糞の役にも立たないにゃ〜。カラクリのせいにしてないで、召喚したアンデットの弱さを認めた方がいいにゃ〜。やっぱり召喚モンスターに頼ってないで己の拳で強さを測るのが一番にゃ」
「油断は禁物です、ニャンダさん。ゾンビウォーリアーの攻撃力の高さをある程度考慮した方がよさそうです。ここは前衛にタンク職を置いて守りを固め、引きつけた上で範囲魔法で仕留めるべきでは?」
「……まあ、にゃーが拳を交わすのは階層主だけで十分かにゃ? 魔術士職はゾンビの弱点である炎魔法の準備を。炎耐性のバフをかけたタンク職を前衛にして、推して参るにゃ〜」
主力パーティーの平均レベルはおよそ70はある。ゾンビウォーリアーのレベルを大きく上回っているから軽くあしらえるはずだと踏んだ。
重鎧と盾で完全防備したタンク職が前に出て、ゾンビウォーリアーと接触。ゾンビウォーリアーの一撃を受けると甲高い衝突音が響き渡った。
他のメンバーもタンク職の後ろに控える。
しかし、いくら敵の数が多いといえど、クラン連合の主力パーティーの前衛を張るプレイヤー。この程度の敵の突破を許すはずはない、と思った矢先だった。
……押されてる?
「くっーー何だ、こいつらの攻撃!? クリティカル判定ばかりでやがる! 悪いが前衛に応援を送ってくれ! 俺らだけじゃ長くはもたん!」
「もう少し持ちこたえるんだ! 各パーティーの魔術士職は準備が整い次第、範囲攻撃系の炎魔法で焼き払え!」
タンク職が何とかゾンビウォーリアーを抑え込んでいる間に、魔術士職は炎魔法発動の準備を整えた。
「炎魔法【火龍の灼熱息吹】」
「炎魔法【燃え盛る不死鳥の羽】」
「炎魔法【炎陣地獄】」
「炎魔法【炎球流星群】」
「炎魔法【火砕旋風】」
範囲攻撃系炎魔法の見本市のようになった。とどろく爆炎と轟音。まるで核爆弾でも破裂したように、目の前でキノコ雲ができた。
これだけぶち込めば大多数は始末できただろう、と少し安堵したその時、あたりに立ちこめていた煙が晴れた。
「は?」
ゾンビウォーリアーの数はほとんど減っていない。いや、一体たりとも減っていないのではないか?
「ーーうわあああああ!!」
タンク職がなすすべなくゾンビウォーリアーの軍勢に飲まれていく。どういうこと? ゾンビの弱点は炎魔法のはず。魔法を無効化する特殊結界だろうか。否、フィールド上のオブジェクトは黒焦げた。結界とは考えにくい。だとするとーー
「ハンゾウ! ゾンビウォーリアーに【カルテの略奪】を使用してください!」
「ええ!? 【カルテの略奪】はコスパが悪くてですね……」
「いいから早く!」
「はいはい、わかりましたよっと」
ハンゾウがゾンビウォーリアーのひとりと接触し、【カルテの略奪】を発動。ハンゾウの前にゾンビウォーリアーのカルテが現れる。【カルテの略奪】は【鑑定】と異なり、詳細なステータスやバフ・デバフの有無、状態異常をすべて知ることができるすごいスキルだ。
でも、SPの消費が激しく、私は高額医療保険適用外と呼んでいる(嘘)
「おいおい、勘弁してくれよ……」
カルテをひとめ見たハンゾウは頭を抱えたのだった。




