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第2部22話 ショートカット(酒守視点)

「氷のトンネル……。なるほど、この中を進むわけか。しかし、解せない。池はオブジェクトだろう。オブジェクトはアイテムではないから、加工はできないはずだが……」


 不貞腐れバウムがそうつぶやいた。


「ニャハハッ、【なんでもフワフワに削れるかき氷器】のすごいところはオブジェクトを削ってかき氷化、つまりはアイテム化してしまうところにゃ。にゃーはオブジェクトを加工できる点を有効活用してショートカットを作ったにゃ。こんなところに突然池が出現するなんておかしいと試行錯誤した結果が実を結んだにゃ!」


 ニャンダがドヤ顔を作った。


「流石、ニャンダさんっ! オブジェクトの説明にメロンソーダ味と書いてあってどうしても飲みたいと駄々をこねてたのも、すべては無限回廊攻略のためだったんですねっ!」

「カンガルーニャアアア! 余計なことは言わなくていいにゃあああ!」


 どうやら、またたび流星群がショートカットを見つけたのは、偶然だったようだ。それにしても、【白物家電シリーズ】とは何なのだろうか。


 これまで見てきた【白物家電シリーズ】も、バレンタイン・オンラインの常識を逸脱した能力を持っている場合が多かった。


 今回もオブジェクトを加工(といってもかき氷しかできないが)するという、チートまがいな能力を有していた。バレンタイン・オンラインはゲームバランスには定評があるゲームなのだが、【白物家電シリーズ】だけはそのバランスを崩しかねないスキルだ。


 これは明らかにバレンタイン・オンラインの世界観から浮いた、異色のスキルと言わざるおえない。


「ぐずぐずしてると氷が溶けるにゃっ。さっさと先に進むにゃっ」


 ニャンダはバツが悪そうに足早に氷のトンネルを進み始めた。ボクらはその後を追う。トンネルを進む最中も時折【絶対零度】を繰り出し、水を凍らせるのを忘れない。


 そして、たどり着いた先はエメラルドグリーンに輝く滝壺。19階層“アルン・ガランの滝“だった。


「まさか、本当にショートカットが存在するなんて……」


 (もみじ)が感嘆の吐息を漏らした。攻略を試みること早半年。ついにその突破口が開いた瞬間。その喜びは人一倍だろう。


 しかし、(もみじ)の顔つきはすぐに引き締まった。


「この滝壺の裏側……」


 (もみじ)の視線の先には、凍りついた滝に隠れるようにして、大きな扉が設けられていた。


「ふむ……。階層主に違いない」


 ボクはつぶやいた。明らかに異質な紋章が埋め込まれた扉は、その先に最後の階層主が待ち構えていることを示している。


「さあ、階層主とのご対面です。みなさん、隊列を整えてください。装備の換装、消費アイテムの補充はよろしいでしょうか? 後続部隊の方々は主力部隊へのバフをお願いします」


 (もみじ)が凛とした声で叫んだ。


「ニャハハッ、久々の強敵っ。血湧くにゃ〜〜〜」

「ああ、今この瞬間のためにプレイしているといっても過言ではない」

「珍しく不貞寝するバウムと意見が一致したにゃ〜」

「ふんっ、それは遺憾の極みだ」


 普段は馬の合わないふたりも、この時ばかりは駆け引きなど忘れ、目の前の目標に集中している。バレンタイン・オンラインに熱中するプレイヤーの(さが)というものだろう。


 バフをかけ終わると主力部隊は扉を開き、その中へと足を踏み入れた。


「いってらっしゃ〜い」

「頼んだぞ〜」


 ボクら後続部隊は彼らの背を見送る。何人かが振り返って手を振り返してくれ、次第にその姿も小さくなっていく。そして、扉が閉まった。


「ついに無限回廊踏破かあ〜。ネクロスタシアはどんなところなんだろうなあ〜」

「早くクランの拠点作って、ネクロスタシアの辺りを探索してみてえなあ。あわよくばユニークアイテムを手に入れちゃったりなんて……」

「ばーか、お前にゃ無理だろ」

「いいだろ〜、夢みるだけならタダなんだからさっ!」


 緊張の糸が緩んだのか、後続部隊のメンバーが無駄口をたたき始めたその時、


ーーパリンッ


 ダンジョンに何かが割れる音がこだました。


「今、何か音がしなかったか?」

「いや、気のせいだろーー」


ーーパリンッ


 再び破砕音、さらには地鳴りが響き始める。そして、その正体が何なのか、ボクはすぐに気づいた。


「今すぐ離脱だーー」


 少し遅かった。ボクが叫んだ時には“アルン・ガランの滝“の濁流がボクら後続部隊をひと飲みにした。


「「うわあああああああ!!」」


 滝壺を覆う氷塊は崩壊。ボクらが来た道へと押し流され、その流れに逆らうことはできない。


 これはおそらくアプサラス・コーストの噴水転移に似た、滝壺に落ちたプレイヤーを強制転移させる仕組みだろう。行き先はおそらく3階層の翠緑の池。


 なぜこうなった。【絶対零度】のフィールド効果が切れるにしては早すぎる。ということは、ダンジョンが初期化されたのだ。


 ダンジョンの初期化はダンジョン踏破に成功した際に発生するイベントで、ダンジョン内の階層主やモンスターが復活し、オブジェクトが元通りに修復される。


 しかし、無限回廊は踏破されていないはず。なぜ初期化が発生しているのか理解できない。


 そのとき、(もみじ)からメッセージが来た。


『20階層に階層主は不在。そのまま無限回廊を抜けました。後続部隊も我らに続いてください。』


 ……抜ける前に言ってくれ。

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