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第2部21話 なんでもフワフワに削れるかき氷器(酒守視点)

 それから、クラン連合は即席の攻略部隊を立ち上げた。即席、といってもメンバーは皆、各クランから選抜された百戦錬磨のプレイヤーたちだ。


 8名からなる主力パーティーが全部で8組。それぞれのパーティーに前衛、後衛バランスよく配置されている。


 これだけバランスのよいパーティーを構築できるのは、まさにクラン連合結成の恩恵と言えるだろう。


 その中でも特筆すべきなのは、全パーティーの総指揮を取るコアパーティーの存在だ。


 ニャンダを含む前衛がまたたび流星群から計3名、不貞腐れバウムを含む後衛が可笑しな反理想郷(おかしなディストピア)から計3名、そして、我らが(もみじ)とハンゾウがキヘンニハナから。


 彼らコアパーティーを温存し、勝負所で全力をぶつける。そんな編成だ。


 ちなみにボクはというと、主力部隊が20階層で階層主とやり合ってる間、19階層に残り後続部隊の指揮を取ることになった。この役割は案外重要で、後続部隊を確実にネクロスタシアまで送り届けるという任務を請け負う。


 全クランが主力を出し切っているため、後続部隊では階層主討伐後ですら無限回廊を抜けることが難しくなってしまう可能性がある。そのための措置だ。


 早速ボクらは無限回廊に足を踏み入れ、第3層まで順調に進んだ。第3層には“採択の間“と呼ばれる5つの洞穴を擁する空間が現れる。洞穴の中からひとつを選択して進むというのを繰り返し、5回連続で正解すると次層に進めるという無限回廊で最も多いタイプの作りだ。


「この何の変哲もない洞窟型ダンジョンに本当にショートカットなどあるのだろうな? 嘘だったら猫型アンデットにしてやるからな……」

「ニャハハ、くだらないバウムの冗談は本当にくだらないにゃ。黙ってついてくるにゃ〜」


 そう言ってニャンダは取り巻きにモンスターを処理させつつ先に進む。しかし、進む先は正解とは異なる洞穴だった。


「ニャンダさん、正解の洞穴はあちらですが?」


 (もみじ)が首を傾げながら言った。


「そんなこと、百も承知にゃ。あえて、不正解を選んでいるにゃ」


 最初は左から2番目、次は3番目、2番、5番、1番、不正解のルートを進んだため、これで元に戻るはずーー戻らない? たどり着いた先ではエメラルドグリーンに輝く池が行き先を通せんぼしており、これ以上進む道はない。


「ここはセーフティゾーンでしょうか?」

「そのようだな。まさか、6番目の“採択の間“がセーフティゾーンになっているとは予想外だ。これでは見つけられないわけだ」

「先に進む道を採択するのが“採択の間“であって、ここには採択すべき道がない。つまり、“採択の間“ではないにゃ。爪とぎにちょうど良さそうな壁があるから、にゃーは“爪が伸びた猫いらっしゃいの間“と名付けたにゃ」


 ニャンダは鼻を鳴らしてそういった。ネーミングセンスに引っかかるものを感じたが、ツッコみたくなる衝動をなんとか抑えた。池があるのになんの変哲もない壁に注目するあたり、水嫌いの猫の習性を演じてるのだろう……。猫になりきるのも楽ではない。


 ボクが池に近づくと目の前にメッセージウインドウが現れた。


オブジェクト名:翠緑の池

説明:     セーフティゾーン“翠緑の間“を潤す池。池の水はメロンソーダ味。


 メロンソーダは好きだ。しかし、オブジェクトだからアイテム化できない。残念ながら飲料ではないようだ。


「この池はオブジェクトだから泳いで進むこともできない。まさか戻るなんて言わないだろうな?」


 不貞腐れバウムはイラ立ちながらそう言った。


「まさかにゃ」

「ではどうする?」

「外野は黙ってみててにゃ〜。カンガルーニャ、出番だにゃ!」

「はいにゃんっ!」


 三角耳を立てた猫の獣人ーーいや、カンガルーか? お腹には確かにカンガルーらしきポケットがついているが、見た目は耳をネズミに食われる以前のド○えもんの様相。猫? カンガルー? いやはや、紛らわしいやつが出てきたものだ。


「氷魔法【絶対零度】!」


 カンガルーニャがそう叫ぶと同時に魔法が発動。【絶対零度】は範囲攻撃系の魔法であると同時に、氷魔法強化のフィールド効果を発生させる。そして、その副産物として、フィールド上のオブジェクトは10分間凍りつくことになる。それは池の水も例外ではない。


「続けていくにゃんっ! スキル【なんでもフワフワに削れるかき氷器】!」


 おお、【白物家電シリーズ】持ちだったか。よく目にする家庭用のかき氷器が姿を現わして――と思いきや、なんだこれは? 大砲の砲身をドリルに取り換えたような見た目。そう、掘削機に似ている。そのいかつい見た目からは、かき氷などを作る気などさらさら感じられない。


 けたたましい駆動音とともに、ドリルが回りはじめ、氷を削っていく。ドリルの後方からはしっかりふわふわに削られた粉雪のような氷が排出され、カンガルーニャはそれをお皿でキャッチ。お皿を回しながらきれいに盛り付けていく。


「はい、どうぞっ、ニャンダさんっ」

「ご苦労にゃ! ん~、カンガルーニャの作る”ペルシャ猫くらいフワフワなかき氷”は絶品にゃ~」

「ありがとうございますにゃんっ。ほかの皆さんももれなく食べてくださいにゃんっ」


 やはりネーミングセンスが気になるが、無限回廊の攻略に必要であれば食すしかない。ボクはかき氷を受け取って食した。


 ふむ、見た目も味もメロン味のかき氷に似ている。氷がふわふわで、確かに絶品だ。ネーミングだけは改めたほうがいいと思うが。


 しかし、このかき氷を使ってどうやって19階層まで行くつもりだろうか。


「さて、かき氷は食べ終わった。氷耐性のバフが付与されたようだが、ショートカットを渡るのに氷耐性が必要ということか?」

「いや、かき氷は単においしいから振る舞っただけにゃ」

「「ショートカットと関係ないのかよっ!」」

「みんなせっかちだにゃ~。おいしいものにありつける時は味わっておくのがにゃーのポリシーにゃ〜。本命はこっちにゃ」


 ニャンダの指し示す方向では、【なんでもフワフワに削れるかき氷器】が掘削を続け、氷のトンネルを作り上げていた。

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