表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/77

第2部20話 交渉(酒守視点)

「それで、キヘンニハナと可笑しな反理想郷(おかしなディストピア)の答えは、YES、それともYES? ニャハッ、YES以外答えなんてないニャッ」


 またたび流星群のリーダー”ニャンダ”が相変わらずの軽い口調でそう言った。協力して無限回廊を踏破するはずのクラン連合であるにもかかわらず、こう何度も自らの利権を確保しようとするまたたび流星群の連中には、嫌気がさす。(もみじ)は澄ました顔をしているが、内心はらわた煮えくりかえっているだろう。


 そして、苛立ちを隠そうともしないのが、可笑しな反理想郷(おかしなディストピア)のリーダー“不貞腐れバウム”である。


「愚案にもほどがあるぞ、ニャンダ!! クラン連合は無限回廊踏破のために結成されたのだ。またたび流星群がショートカットを見つけたから無限回廊踏破の報酬を全て差し出せだと!? 恥を知れ!!」

「ニャハハ〜、死に損ないバウムがうるさいにゃ〜。そもそもクラン連合は無限回廊20層の攻略にプレイヤーの厚みが欲しいから結成された組織にゃ。しかし、無限回廊のショートカットが見つかった今、クラン連合の力を借りる理由は皆無。最終層くらいうちのクランと新興クランで手を組んで踏破しちゃってもいいニャ〜。でも、クラン連合は付き合いが長いから、まず最初に話を持ちかけてあげたにゃ。これはニャーの親切心?いや、慈悲の心にゃ」

「慈悲だと……!? この腐れ外道が……! 腐った性根は死ぬまで治らんようだな……」


 不貞腐れバウムはそういうと、ユニークアイテムである自慢の杖“アブラカタブラ“を構える。


「にゃははっ! ネクロマンサー職がこんな近距離でニャーと張り合おうなんて片腹痛いにゃ〜。その名の通り野垂れ死にバウムだにゃ〜」


 ニャンダは冗談で返すが、その目は笑っていない。なよっとした見た目とは裏腹に“金剛拳“と異名がつくニャンダは拳を構えた。


「お、おい、やめておけ、バウム」

「ニャンダも口を慎むんだ」


 ピリつく空気の中、双方の取り巻きからも止める声が上がるも両者の睨み合いは終わらない。


 そしてついに、両者が激突すると思われたその時ーー


 (もみじ)が瞬く間に両者の間に入り、ふたりの鼻先に刃を突きつけた。ニャンダには(もみじ)のユニークアイテム“舞散紅葉刀(ぶざんこうようとう)“が、そして、バウムには見覚えのある包丁(笑)が向けられている。


「ふたりとも矛を収めてください。この舞葉郭(ぶようかく)におけるクラン連合のうちわ揉めは許しません」


 (もみじ)が凛とした声色でそう言うと、ふたりともバツが悪そうに引き下がった。


 ボクは思わず鳥肌が立ってしまった。ニャンダも不貞腐れバウムもバレンタイン・オンラインでは名の知れた一流プレイヤー。そんなふたりを力づくで抑えてしまった。


 普段の(もみじ)は崩壊気味だが、やはりバレンタイン・オンラインを代表するプレイヤーなのだ。


 しかし、これ以上(もみじ)に任せるとキャラ崩壊が悪化しそうなので、ボクが口火を切ることにする。


「キヘンニハナとしては、タイムパンドライトの権益を手放してもいい」


 (もみじ)がボクの方を二度見したが、無視だ。


「ただし、バレンタイン・オンラインのシナリオを進める上でタイムパンドライトが必須となる場合は、対価を払った上で借用、もしくはシナリオの攻略に協力してもらうことを条件とする」


 ニャンダは他のクランと組んでもいいと強気な姿勢を見せてはいるが、キヘンニハナの戦闘力や、可笑しな反理想郷(おかしなディストピア)の財力は喉から手が出るほどほしいはずだ。それならばまたたび流星群はクラン連合とともに踏破するのが既定路線と考えてもいい。無理に話をこじらせないほうがいいだろう。


「ニャハハ、さっすがキヘンニハナの参謀“教授(プロフェッサー)“シュシュ。冷静な判断だにゃ〜」


 教授(プロフェッサー)という二つ名は不本意ながら、ボクの独特な話し方が教授っぽいというところから始まっている。参謀などという頭脳明晰そうな肩書きは後からついてきたものだ。


「無限回廊踏破の権益を放棄するだと? 冗談は寝てから言うんだな!」


 不貞腐れバウムは一度振り上げた拳の落とし所が見つけられないだけ。そう、不貞腐れているだけ。ならば助け舟を出してやるのがボクの役割だろう。


「ならば、こういうのはどうだろうか。権益を放棄する代わりに黄昏都市ネクロスタシアのクランの拠点選びの際、第一決定権を可笑しな反理想郷(おかしなディストピア)に付与する、というのは?」

「ニャー!? それは反対だにゃ! ニャーの好みの立地が取られてしまうにゃ!」

可笑しな反理想郷(おかしなディストピア)は隠れ家のような目立たない場所を好む。目立ちたがりの貴殿らとは嗜好は被らないと推測している。さらに、第二決定権はまたたび流星群に付与しようじゃないか」


 (もみじ)が何か言いたげな表情をしていたが、無視だ。


「にゃあ……わかったにゃ。またたび流星群はその条件を飲むにゃ」

「ふんっ、今回に限ってはキヘンニハナの献身に免じて条件を飲んでやる」


 ふたりとも渋々といった様子でうなずいた。


「それでは早速、無限回廊踏破に向けて作戦を練りましょう。20階層まで無傷で行けたとしても、階層主の討伐は簡単ではないと推測します。情報収集、およびパーティ構成、必要となる装備の検討を早急に行いましょう。では、次の踏破検討会は3時間後とします!」


 (もみじ)の締めの言葉でクラン連合の会議はこれにてお開きになった。ボクも足早に退室しようとしたところで(もみじ)がボクの行く手を阻む。


「さて、シュシュはお夕飯を食べていってくださいね。今から料理を始めますので手と首を洗って待っていてください。あ、特に首周りは念入りにお願いします」


 どうやら注文の多い料理店が開店したようだ。ふむ、少々勝手しすぎたか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ