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第2部19話 突破口(酒守視点)

~さかのぼること3日前~


「はあ……」


 ボクは舞葉郭(ぶようかく)の最上階で物思いにふけっていた。洒落(しゅらく)店員と連絡が取れなくなってから、2週間が経った。こんなに長く連絡が取れないと、さすがに心配にもなってくる。しかし、東南アジアにいる僕では、彼女の安否を確認することもできない。焦燥は(つの)るばかりである。


 クラン連合の状況も(かんば)しくない。無限回廊の突破口は見えないままだし、マタタビ流星群や可笑しな反理想郷(おかしなディストピア)は、クラン連合からの脱退をチラつかせて、キヘンニハナに揺さぶりをかけてくる。まったく勘弁してほしいものだ。


「何でため息ついてるんだ!?☆ シュシュらしくないぞ!?☆」

「やっかいな仕事を押し付けておいてどの口が言うんだい、(もみじ)。 語尾に☆なんてつけて、キミも相当らしくないぞ」

「シュシュには感謝してる!!☆ 感謝のしるしに今日は手作り料理を振舞うから楽しみにしててねっ!☆」

「がはははっ、料理だって? キミがいつも作る納豆ごはんは、料理とは言わないのだよ」

「そうなの!? そんなことも知らないなんて私はクランリーダー失格だああああ。よし、切腹しよう。 介錯(かいしゃく)は頼んだ」

「おいおい、死ぬときくらい他人に迷惑をかけずに死になさい」

「友達なら迷惑かけてもいいじゃん――って他人だったの!? うわああああ、シュシュの人でなしいいいいい」


 (もみじ)は泣きじゃくりながらボクを押し倒して馬乗りになった。


「お、おい、納豆ご飯作るのに包丁は不要だろう。いや、その包丁の持ち方は危ないからやめたまえ」

「友達じゃないんだったら氏ねええええ☆」


 その時、突然部屋の扉が勢いよく開け放たれた。


「大変です、(もみじ)さんっ――っと、お楽しみ中に失礼しましたっ!」

「いや、どっからどう見たらお楽しみ中に見えるんだい、ハンゾウ。目を覆ってないで早く助けたまえ」


 ハンゾウは(もみじ)の弟分で、長年共にクラン”キヘンニハナ”を運営してきた気の利く男だ。しかしそんなハンゾウでさえも、(もみじ)がキャラ崩壊していることは知らない。クランのメンバーはもちろん、ボク以外誰も知らない秘密だ。


 (もみじ)以外はせき払いして急いでキャラを整えると、すっと立ち上がり、微笑を浮かべた。


「どうしましたか、ハンゾウ?」

「い、いえ、お取り込み中でしたら出直しますが……」

「料理の練習をしていただけなので大丈夫ですよ」


 随分と物騒な料理だな。注文の多い料理店でも開くつもりだろうか。


「それで、どうしましたか?」

「それが――無限回廊の最終階層である20階層へのショートカットが判明したんですっ!」

「な――」


 ボクは思わず(もみじ)と顔を見合わせた。無限回廊の攻略を開始したのはおよそ半年前。バレンタイン・オンライン始まって以来の高難易度のダンジョンで、その異常な難易度から運営は、無限回廊を踏破させる気などないのではと疑心暗鬼になるほどだった。しかし、ついにその突破口が開いたのだ。この報告はここ半年で最たる朗報と言っても過言ではない。


「……そのショートカットが出現する条件について、何か聞いていますか?」

「わかりません……。ショートカットを発見しましたまたたび流星群からは、第3階層から第19階層“アルン・ガランの滝“へのショートカットとだけ……」

「ふむ、情報封鎖を敷いてるのか、またたび流星群らしいな。しかし、その情報が真実だとすれば無限回廊突破への負担は大幅に軽くなるな……」


 無限回廊攻略のハードルを上げているのは、全20層の中に5体の階層主がおり、しかもセーフティーゾーンが一切設けられていないという鬼畜設定にある。


 だからこそキヘンニハナはクラン連合を結成して、プレイヤー層を厚くし、なんとか16層にいる4体目の階層主まで突破することに成功した。しかし、それは48時間休みなしで活動した結果であり、17階層に辿り着いたときには全員がクタクタで、しかも消費アイテムも残っていない。まさに心身共に疲弊した状態となり、帰路に就くしかなかった。


 それが一気に19階層まで進めてしまうとなると、話は変わってくる。


「検証はできているのでしょうか?」


 (もみじ)がそう問いかけると、ハンゾウは大きくうなずいた。


「またたび流星群の連中が検証して、既に確証は得ているようです」

「あの鉄壁の無限回廊にそんな抜け穴があるなんて、にわか信じがたいですね――しかし、他に無限回廊の突破の目途は立っていません。なりふりかまってなどいられません。すぐにクラン連合のメンバーを召集して、策を練りましょう」


 しかし、ハンゾウの表情は冴えなかった。


「問題はですね、マタタビ流星群の連中が、時を巻き戻す石タイム・パンドライトの所有権を100%寄こせと吹っ掛けてきてまして……」


 ボクと(もみじ)は思わず頭を抱えた。


「あのクソネコども、まとめてさばいて猫汁にしてやろうか……」


 ボクは(もみじ)が小さくそう漏らすのを聞き逃さなかった。猫汁を作るくらいならまだ納豆ご飯のほうがマシだな。


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