表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/77

第1部3話 ヘイトを一身に集める女

「ここがバレンタイン・オンラインか……」


 セリーヌの姿がポリゴン化し、目の前が暗転。再び視界が開けると、私は教会の中にいた。年輪を感じさせるような荘厳な作りの教会だ。現実だったら間違いなく世界遺産だろう。


「見慣れない顔じゃな……ラフマントス神に祈りをささげるのは初めてか?」


 この教会の神父らしき者、おそらくNPCだろう――が近づいてきた。私はしかたなく頷く。


「そうか。であれば、この世界の理から少し説明してやろう。今からさかのぼること1000年前、第三次悪魔大戦が勃発し――」

「あー、いいからそういうの。この世界に興味はないし、先を急いでるもんで」


 そう、ウサ耳オバケの千本ノックのせいで時間が押している。一刻も早く酒守(さかもり)のアゴにアッパーを叩きこみ、このゲームともおさらばしたい。


 私は何かしゃべり続けている神父を置き去りにして、教会を後にした。


「おお……」


 意図せず感嘆の吐息が漏れた。扉を抜けた先に待ち受けていたのは、海岸線沿いに広がる街並みだった。ホワイト基調の建物が眼下に広がり、その先には青い海と晴れ渡る空。それぞれがしっかり青く、もはや海と空の境目がわからなくなっている。ということで――


「ここはどこだろう?」


 そして、“アプサラス・コースト“というのはどこにあるのだろうか。とりあえず、誰かに尋ねてみよう。


「あ、すみません、少しお伺いしたいんですけど」


 教会の付近にいたプレイヤーらしき男に話しかけてみる。すると、


「あん? アントニー様になんの用だ――!?!?」


 私の顔を見るなり、まるで悪魔でも見たかのように狼狽した。


「し、失礼しましたっ!!」


 男はそう言って小さくなって逃げていった。こんなテンプレのような避けられ方ってあり?


 私は諦めずに他のプレイヤーにも声をかけてみる。しかし、皆一様にテンプレのごとく私のことを逃げる、避ける、無視する。次に声をかける相手を探していると、プレイヤーたちの会話が耳に入ってきた。


「なあ、さっきの極道女、まだやってるみたいだぜ?」

「ああ、初心者狩りが流行ってるって聞いたけど、あんなあからさまなやついるんだな」

「このバレンタイン・オンラインでは、現実におけるプレイヤーの思考や経歴が色濃く映し出される。あんなあからさまにヤバい外見しているやつは、間違いなく反社だ」

「だよな。ホントいい迷惑だ。さっさとゲームやめてほしいもんだ」


 くそっ、開始早々なんで不要なヘイトを一身に受けなきゃならんのだ。どれもこれも全部あのウサ耳オバケのせいだ。


 こんなことなら神父の話をもう少し聞いておけばよかった。結局、露天商のNPCからアプサラス・コーストの位置を聞き出すまでに一時間かかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ