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第2部13話 魔王ベルズ・コンカサント

 ドーム状のがらんとした巨大な空間。そしてその中央には、床から大樹が顔を出していた。まるでジャックと豆の木に出てくるようなツル状の大樹だ。


「これは?」


 今回は【鑑定】を使うまでもなく、説明が表示された。


オブジェクト名:ツタヤカタグラ

説明:     ネクロスタシアを覆う大ツタ。ラフマントス神が魔王ベルズ・コンカサントに与えた不死罰の象徴。


 ゾンビ豆が生えてくる木だよね。本体はこんなところにあったのか。もしかして、この大ツルを破壊すればジンさんたちの不死の呪いが解けるとか、そういうオチなの? 


「まずいまずいまずいっ」


 どこからともなく、急くような声が聞こえてきた。すると、何者かが大ツルの斜面を滑り降りてくる。


「まさかこんなに早く城内への侵入を許すとは……。こちとら心の準備ができ取らんのだよ。しかしまだ無限回廊がある。時間稼ぎをしてくれるはず――ってもういる!?」


 大ツルの滑り台から降り立ったその人物は恐ろしい鬼――のお面を被ったスーツ姿の男だった。


 その男は胸ポケットから急いで1枚の紙を取り出し、音読し始める。


「き、来たな、勇者、よ。よくぞ我ーが臣、下であるネルリョルタシナ守護兵団を打ち破ったー。こーこまで来れたこと、褒、めて遣わそう?」

「あのさ、読むならちゃんと練習してこようよ」

「あーもうっ! 世の中、うまくいかんことばかりだ!」


 男は頭をかきむしると、カンペをくしゃくしゃに丸めて投げ捨てた。


「それで、あなたは何者なの?」

「も、もちろん魔王ベルズに決まってるだろっ!」

「マジか……」


 聞きたくない答えだった。スーツ姿が余りにもこの古城から浮いちゃってるし、しかも、取ってつけたようなはんにゃのお面。世界観ぶち壊しだろ。渋谷のハロウィンの方が、もう少しマシなはんにゃを見れるでしょうに。


「して、ゆ、勇者よ」

「なんで勇者って呼ぶとき若干照れてるのよ? 私の方が照れちゃうじゃない」

「ああ、もうちょっと待て! 今セリフ思い出してる最中なんだ!」

「はいはい」

「よしっ、気を取り直して――ゆ、勇者よ。我を打ち倒し、この街を不死の呪縛から解放せんと試みるか?」

「いや、試みとらんす」

「そうなの!?」


 私は大きく頷いた。こちとらシナリオの攻略とか興味ないんす。


「え、じゃあ、ここに何しに来たのだ?」

「魔王様に少し聞きたいことがあって。ケロケロ亭の店主の所在を知らないかな?」

「いや、知るわけがない」

「そうすか……」


 私は思わずガックリとうなだれてしまった。魔王様が知らないとなるといよいよお手上げだなあ。


「じゃあもう用はないです。お邪魔しました……」


 私は踵を返して帰ろうとすると、


「ちょっと待った! なぜケロケロ亭の店主を探しているんだ?」

「えー何で聞くんですか?」

「魔王初登場シーンがものの10秒とかだと、格好つかんだろ! せっかく急いで準備してきたのに……」

「いや、準備不足を露呈しただけじゃん……」


 私はため息をつきつつも、魔王様に酒場を経営していて客に麦酒を振舞いたいことなど、これまでの経緯を話した。


「ということで、【手軽にポーション作りができるミキサー】で麦酒を作るレシピを探してるんすよ」

「なるほどなあ。【手軽にポーション作りができるミキサー】をポーション作りではなく、酒作りに使うとは……。そんな使い方があったとは、目から鱗だ」

「魔王様は麦酒のレシピなんて持ってないですよね?」

「持ってない。たとえ持っていたとしても、レシピは通常の料理スキルに適用されるものであって【手軽にポーション作りができるミキサー】ではレシピを持っていても何の役にも立たんぞ?」

「そうなの!?」

「当たり前だろう。【手軽にポーション作りができるミキサー】は薬草と精製水を用いてポーションを生成するスキル。それ以上でもそれ以下でもない。そんなスキルを酒作りに使用するなど、炊飯器ですき焼きを作るようなものだ」


 それは寝耳に水の話だった。麦酒作りはこれで振り出しに戻った気がする。私は思わずため息をついた。


「それじゃあ、やっぱりいろんな材料でポーションを試作してみるしかないってことかあ。先が思いやられるなあ……」


 あまたの材料で試作して麦酒の味を再現するなんて途方もない作業だ。私はティービーと交わした約束を少し後悔し始めていた。


「【手軽にポーション作りができるミキサー】による出来損ないポーションの試作とな? 何ともニッチだが、興味深い検証ではある。そうさな、ひとつヒントを与えようじゃないか」

「え、なになに!?」

「俺は麦酒の材料も知らなければ麦酒味のポーションが存在するのかも知らん。しかし、出来損ないポーションの体系は知っている。出来損ないポーションの種類は無限ではなく、α(アルファ)から始まりω(オメガ)で終わる。つまり、全部で24種類しかないのだ」


 確かにソルティ・オーシャンのアイテム名は“出来損ないポーションα(アルファ)“だった気がする。すると何か、【手軽にポーション作りができるミキサー】で24種類の出来損ないポーションを試作すれば全ての味を試したことになるってことか。


「さらに、味と回復効果については各出来損ないポーションに既定の値が設定されている。レア度については使用した素材の0.7掛けになる。また、効果については素材の効果がランダムで引き継がれる」

「なるほど……」


 だからソルティ・オーシャンも材料が違っても作ることができたし、効果に違いもあるわけだ。


 魔王様の話を聞いて、なんとなく頭がスッキリしたし、キリがないと思っていたポーションの試作もこれならまだできそうな気がしてきた。後はその24種類の中に麦酒があることを祈るだけだ。


「魔王様、ヒントありがとうっ! 試作頑張ってみるっ!」

「ああ、完成したら教えてくれ」

「うんっ! 完成したら私のお店に飲みにきてよね! ジンさんたちもーーあ、いけないいけない。ジンさんは死んだことになってるんだった。とにかく、ありがとうっ!」


 私は大手を振って、部屋を後にしたのだった。


 それにしても魔王様、なんで【手軽にポーション作りができるミキサー】のこと、よく知ってるんだろ? 伊達に1000年以上生きてないってか? でも、意外といいやつだったなあ。今度、駄洒落に飲みにきてくれたら嬉しいなあ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何処ぞのアリスに出てくるでかい懐中時計を抱えた駄兎彷彿させる魔王様ですね
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