第2部11話 素材集め終了
ピレイナ山脈からの帰り道は、約束通りドラゴン氏が送ってくれた。
ドラゴン氏の背中、硬いし熱いしで、車のボンネットに座ってるみたい。お世辞にも乗り心地はいいとは言えないなあ。今度からクッションを持参しよう。
でも低層“孤龍の胸板“の断崖絶壁も、ドラゴン氏なら瞬く間に降りてしまう。本当に束の間の空の旅だった。
「姐さん、新作ができたら我にも振る舞ってくれ」
「いいけど、新作ができたこと、どうやって知らせればいいのよ? ケロケロ亭がなくなったことも知らなかったのに」
「これを使って、我を呼び寄せるがよい」
「これ、角笛!?」
「いや、爪をくり抜いて角笛っぽくしたものだ。角は抜けたことがなくてな」
「爪笛は聞いたことがない!」
アイテム名:アイソレートドラゴンの爪笛
レア度: ★★★★★
効果: アイソレートドラゴンをおびき寄せる。
説明: アイソレートドラゴンのかぎ爪をくり抜いて作った大笛。アイソレートドラゴンにしか聞こえない波長の低い音を出す。
「ドラゴン氏、おいしい麦酒が完成したら知らせるねっ!」
「うむ、期待しているぞ」
とは言ったものの、完成の目処は立たないんだよなあ。今回の素材集めも結局ダメだったし……。ドラゴン氏にも、ティービーにも出来上がるの、もうちょっと待ってもらわないと。
麦酒のレシピ、なんてものがあれば万々歳なんだけどね。1000年前まであったケロケロ亭の麦酒のレシピが手に入ればなあ。
「ちなみにドラゴン氏、ケロケロ亭の麦酒のレシピなんて知らないよね?」
「ほう、ケロケロ亭の麦酒を再現しようというのか。それは殊勝な心掛けだ。しかしーー我は知らん」
「だよねー。じゃあケロケロ亭の店主さんの所在は?」
「我はケロケロ亭がなくなったこと自体耳にしておらなかったんだ。知るわけがなかろうて」
「ふげえええ、そうかあ……」
「知っているとしたらベルズくらいだろう。ベルズは店主とも仲が良かった。知っている可能性はある」
「ベルズって例の魔王様だよね。ドラゴン氏、魔王様と顔見知りなんだね」
「……なに、ただの負け犬同志傷を舐めあっていただけの関係だ」
「ふーん……。よかったら、私に魔王様を紹介してくれないかな?」
「それはできん。ベルズとは領域不可侵の取り決めをしておるのだ」
ドラゴン氏がそういうのでジンさんの方に視線を向けてみる。すると、ジンさんは渋い顔をした。
「ベルズ様からは何人たりとも城に立ち入らせるなとのお達しなのじゃ。それを臣下の我ら自ら破るなど……」
「それじゃあ言わせてもらうけどさ。魔王様は300年もジンさんたち臣下のことをほったらかしにしてるんでしょ? しかも安否不明だし。そんな人の言いつけを守る必要があるの?」
「ぬぐっ、しかしだなあ」
「あーあ、毎日会ってる私よりも、300年も会ってない魔王様の方が大事なんだ! 何だかショックだな〜」
「ぬぐぐぐぐっ!」
ジンさんは顔色を信号のように目まぐるしく変えていた。意地悪言ってゴメンね。その代わりうまい酒飲ませてあげるからさ。




