第2部9話 孤龍の憂鬱
ドラゴンの鋭い双眸に睨まれ、完全にヘビに睨まれたカエル状態の私たち。
「……ジンさん、勝てそう?」
ジンさんは首を横に振った。
「ドラゴンとやり合うなど自殺行為じゃ。どうにかして逃げおおせる道を探すしかないんじゃが……」
私は恐る恐るドラゴンを【鑑定】してみた。
モンスター名:アイソレートドラゴン
レベル: 88
説明: ピレイナ山脈の高層“孤龍の冠“に巣食うピレイナ山脈の主。群れを成さず常に単独で動くことから“孤龍“と呼ばれるようになった。気化させた金属をブレスにして放ち、全てを溶解させる。さびしがり屋。
うん、逃げる一択だな。
「人間ども。我に断りなくピレイナ山脈に立ち入るとはいい度胸だ。無事には帰れぬと思え?」
いや、あんた高層にいるのにどうやって許可取るんだよ。口先まで出かかったツッコミを何とか飲み込んだ。
「山脈の主“孤龍“よ! お主は普段、高層にいるのではなかったのか?」
うん、ジンさんよく言ってやったぞ。
「ふんっ! 高層への侵入者が一向に現れんから様子を見にきたまでよ」
さびしがり屋キャラ出ちゃってるー。孤龍なのにさびしがり屋ってどういう設定よ? しかも、ボスキャラがいろいろとすっ飛ばしてここまで出向いてきたら問題だよ? そこは自重しようぜ。
「ワシらはこちらの姐さんとともに素材採取に訪れただけじゃ。孤龍とことを構えるつもりはない」
「ふんっ! ぬしらの都合など知ったことか。無事に返さんといったら返さーーぬ? お主の右肩におわすのはケロケロ亭のしわあわせカエル殿ではないか?」
「ドラゴン氏、知ってるの?」
とりあえず、私の知りうる最上級の敬語で丁重に敬ってみた。
「無論だ。随分と長いこと訪れてはいないが、昔はよくカエル殿と盃をかわしたものよ。ご健在とは何よりだ」
ドラゴンとカエルが盃を交わすってちょっと想像できない……。ていうか、ハセガワさん、噂のケロケロ亭のカエルさんだったのね……。確かに少し考えればわかることだったかな……。
「ケロケロ亭は今も健在か? どれ、このままネクロスタシアまで下り、久しぶりに麦酒に舌づつみを打つとするかーー」
「ケロケロ亭は1000年前になくなりましたよ」
「な、なな、なななななんだと!? それ即ちケロケロ亭の麦酒がもう飲めぬということか! ここ1000年で1番の衝撃だ。我の生きる楽しみがなくなったといっても過言ではないぞ……」
あからさまに落ち込む孤龍。お店がなくなったこと、誰も教えてくれなかったのね。孤龍だもんね。
飲みたい酒が飲めないと落ち込んでるドラゴン氏。そんな姿を見たら私、おいしいお酒を飲ませたくなっちゃうじゃないの。
私はアイテムボックスを開き、駄洒落号(屋台につけた名前)を取り出し、開店準備に入る。
「おい、貴様! 何を企んでいる!?」
「ドラゴン氏、うちのお店で飲んで行きなよ! あいにく麦酒はないんだけどね」
そういって私は【空きのない冷蔵庫】からキンキンに冷えたソルティオーシャンを取り出した。
「な、何なのだ、それは?」
「まっ、飲んでみなさいなっ」
ドラゴン氏は訝しげにソルティ・オーシャンのビンを睨んだ後、そのビンを器用につまんで口に流し込んだ。すると、孤龍の目が見開かれた。
「ぬう!? 苦しゅうない、苦しゅうないぞおおお」
そういいながらソルティ・オーシャンを次々に放り込んでいく。
「何よ、おいしいならおいしいって言いなさいよっ!」
「ぬう!? 我は魂を揺さぶるような豪快な酒が好きなんじゃ。誰がこんな清々しい味わいの酒を……あ〜爽やか〜」
そう言ってまた飲み始める。はいはい、好きなだけ飲みなさいな。【空きのない冷蔵庫】で大量に仕込んでおくからさ。
「姐さん、例の水源から採取した液体でうまい酒は作れんかのう? なかなかよい素材だと思うんじゃ」
「えーでもなあ……」
尿がいい素材とかそんな力説されてもなあ。
「孤龍も姐さんの酒に満足すればピレイナ山脈に立ち入ったことも不問にしてくれるじゃろうて」
「ジンさん、それ自分が飲みたいだけじゃない?」
「そ、そんなことはない! 断じてないぞ! な、なあ孤龍よ、もちろん不問じゃろ!?」
「う、うむ、もし我を満足させることができたら、我の背に乗せてネクロスタシアまで送り届けてやろうぞ」
「不問にするどころか、送迎サービス付きにグレードアップ!? なんか気に食わないけど、やってみるかあ」
私は《アイソレートドラゴンの尿》を取り出し、【いろいろときれいにする空気清浄機】を発動。暗黒卿で尿の”あく抜き”に取りかかった。
『しゅこおおお!』
今日も元気な暗黒卿。暗黒卿をお呼びしたのは、【空きのない冷蔵庫】で増やせるアイテムは★×3以下のアイテムに限られるからだ。
アイテム名:アイソレートドラゴンの尿(あく抜き完了)
レア度: ☆☆☆☆☆
効果: 腕力×1.5→1、体力×0.5→1
説明: あく抜きされたアイソレートドラゴンの尿
暗黒卿による丁寧な下処理によりきれいになった尿。いや、きれいな尿ってなんやねん。まあ、それは置いといて、次に《アイソレートドラゴンの尿(あく抜き完了)》を【空きのない冷蔵庫】へ。
はい、これであく抜きされた大量の尿の出来上がり〜。言ってて自分で嫌になるわ。まあ、めげずに張り切っていってみよー!




