第2部8話 尿
その後もジンさんたちは順調にモンスターたちを狩っていったが、麦やホップと名のつくアイテムを見つけることはできなかった。そして私たち一行は、大きな洞穴の入り口までたどり着いた。
「以降はピレイナ山脈の中層、“孤龍の十二指腸“じゃ。複雑に入り組んだ長い洞窟が続いちょる。出現するモンスターも低層とは強さの桁が違う。ワシらだけならまだしも、姐さんを連れての踏破は難しい。ここで引き返すべきじゃろう」
「うーん、しょうがないよね」
私がどうなろうと構わないのだが、ジンさんたちを危険な目に合わせるわけにはいかない。ジンさんたちの言う通り、引き返した方がいいだろうなあ。
ということで、本日の戦利品を振り返ってみよう。
・ピレイナインパラの毛皮×3
・ピレイナインパラのツノ×2
・ピレイナインパラの糞×6
・バルディイーグルの羽×4
・バルディイーグルの爪×2
・ライカンベアの毛皮×2
・春虫花草×3
・ハイキキョウ×2
・苦労ユリ×1
うーん、液体がないんだよなあ。どこかに都合よく液体がないものなのか……。
「おおい、水源があったぞい!」
「「うおおお!!」」
いかん、みんなと一緒になって叫んでしまった。さて、お待ちかねの水源はどんな頃合いーー
「は、水源ってこれ?」
目の前に広がるのは黄色く濁ったため池。しかも水面では気泡が浮かんでは弾けてを繰り返している。
致死性にしか見えない池の水。そんな水をおっちゃんたちは両手ですくってぐびぐびと飲み始める。
「ちょ、ちょっと、飲んでも大丈夫なの!?」
「うはははっ! 問題ない! 喉の内側から焼けるような味わいがたまらんのじゃ! 姐さんも一杯どうじゃ?」
「いや、遠慮しとく……。それで、何なのこの液体?」
「このピレイナ山脈の主、孤龍“アイソレートドラゴン“のおしっこじゃ!」
「はあ!? ドラゴンのおしっこ!?」
糞の次は尿と来たか。
アイテム名:アイソレートドラゴンの尿
レア度: ★★★★☆
効果: 腕力×1.5、体力×0.5
説明: アイソレートドラゴンの体内で長期間熟成された尿。アイソレートドラゴンは滅多に排泄しないため、アルコール度数が50%を超える。
気は進まないけどとりあえず採取しておくかあ。私のアイテムボックスがどんどん糞と尿で汚れていく……。
「しかし、アイソレートドラゴンは通常、ピレイナ山脈の高層“孤龍の冠“におるから、低層には滅多に顔を出さないはずーー」
次の瞬間、まるで日食のように辺りを闇が包んだ。一瞬、何が起こったのかわからなかった。まるで停電でもあったかのような唐突な闇。
続けて聞こえてきたのは雷鳴ーーいや、雷鳴のような咆哮。これは尋常じゃない。体中のうぶ毛が逆立つような激ヤバな感覚。
私はおろか、おっちゃんたちもその場で固まっていた。
そして次の瞬間、天から大質量の何かが降ってきた。衝撃で大地が揺れる。
砂ぼこりの合間から見えたのは銀の両翼、体全体を覆う屈強な鱗。そして、丘ほどはあろうかという巨体。
私はこのモンスターと初めてエンカウントした。しかし、私はこのモンスターの名前を知っている。
私はドラゴンにエンカウントしてしまった。




