第2部7話 糞
そもそも、【手軽にポーション作りができるミキサー】って狙った味に仕上げることはできるのだろうか。
ソルティ・オーシャンのときはやってみたらたまたまソルティ・ドッグっぽくなった訳で、狙って作った訳じゃない。
いろいろ試してみて、狙った味に仕上げるなんて、途方もない作業のように思える。
ビールって麦とホップが原料であることは私も知っている。ただ、【手軽にポーション作りができるミキサー】は、液体と固体を混ぜる必要がある。ってことは、麦茶とホップ混ぜりゃ、できるのかなあ。いや、できんだろう……。でも一応ーー
「ジンさん、この街で麦茶とかホップって手に入るのかな?」
「この街で手に入るのは海水とゾンビ豆くらいじゃろう」
「ですよねー」
「じゃが、街を出て、北の“ピレイナ山脈“まで出向けば、モンスターのドロップアイテムや高山植物が手に入る。それに期待するしかないじゃろうて」
「ホント!? じゃあ試しにピレイナ山脈とやらへ行ってみるかあ。ってことでごめん。今日の駄洒落は閉店ガラガラ〜」
「……姐さん、まさかとは思うが、単騎で乗り込むつもりか!?」
「そうだけど何か?」
ジンさんは大きくため息をついた。
「もはや防御を成し得ない布切れをまとって、レベル1の姐さんが、レベル60前後のモンスターが跋扈するピレイナ山脈をどうやって攻略するつもりじゃ」
「え、ここのモンスターってそんなに強いの?」
ジンさんたちが皆一斉にうなずき返した。初心者が集まるウルルカの街からほど近いネクロスタシア周辺が何故そんなに難易度高いんだろう。運営さん、設定間違えてね?
「仕方ない、姐さんのためだ。ワシらが助太刀しよう」
「それはありがたいーーでもおっちゃんたちで大丈夫かな?」
思わず私はジト目を向けてしまった。
「うはははっ、なめられたもんじゃ! 我らは不死の軍団として恐れられるネクロスタシア守護兵団じゃぞ!?」
「そりゃ、ゾンビが襲ってきたら誰でも怖いでしょうに。ホントに大丈夫かなあ」
私はリスポーンするだけだけど、おっちゃんたちはどうなるかわかんないもんね。最悪死んだら終わり、だなんてことも考えられる。おっちゃんたちには健康でいてほしいのよ。まあヤバそうだったら早めに見切りをつけて帰ってこようっと。
私は早速店を閉めて、遠征の準備もそこそこに出発したのだった。
※
ネクロスタシアの北門を出て30分ほどでピレイナ山脈の麓に到着。以降は険しい山道となった。
そして早速、モンスターとエンカウント。
モンスター名:ピレイナインパラ
レベル: 55
説明: ピレイナ山脈の低層“孤龍の胸板“に生息するインパラの一種。崖を高速で移動し、鋭いツノで相手を串刺しにする。
シカがほぼ垂直にそり立つ崖を縦横無尽に駆ける。足場が悪い上にシカの足が早すぎて目で追うのも厳しい。
そして私が瞬きした次の瞬間、
「へ?」
シカのツノが突然目の前に現れた。回避しようにも退路がない。受け止めようにも武器がない。詰んだな。
しかし、そのツノはジンさんの部下の剣によって間一髪受け止められた。
「今だ、やれ!」
その隙に、もう1人が足場の悪さなどものともせず、シカの懐に潜り込んで胴体を一閃。あっという間にシカがポリゴン化したのだ。
目にも止まらぬ一瞬の攻防に、私は目をぱちくりさせるしかない。
「……もしかして、ジンさんたち、強いの?」
「うはははっ! ピレイナ山脈の低層でやられるほどやわにできちょらんわい!」
このシカ、一応レベル55だよ? それを一発ってどんだけだよ。いつもネクロスタシアで徘徊してるだけのおっちゃんたちがこんなに強いとは誰も思わんでしょ。
そして、お待ちかねのドロップアイテム。なになに、ピレイナインパラの毛皮とーー
「糞!?」
「うはははっ! ピレイナインパラの糞は薬にもなる貴重な食料じゃぞ!」
「うへぇ、そうなの? でも食べたくはないなあ」
とりあえず【鑑定】。
アイテム名:ピレイナインパラの糞
レア度: ★★☆☆☆
効果: ポーションの効果が1.2倍になる
説明: ハイメグやハイカズラといった高山植物が含まれており、薬の原料として使われる。濃いめ硬め。
濃いめ硬めとかそんな付加情報いらんし! ラーメンじゃあるまいし……。不本意ではあるけど、材料になりそうなものは全部確保しないとなあ。
私は恐る恐る糞をアイテムボックスにしまったのだ。
ちなみに私は柔めが好きです。いや、ラーメンの話ですからね。そこんところよろしくお願いします。




