第1部2話 キビい外見
現在の時刻は12時を回ったところ。酒守との待ち合わせまで、1時間くらいか。
私はヘッドギアを被り、耳の付近にあるスイッチを押した。すると、真っ暗な視界の隅からポリゴンが埋め尽くしていき、視界を形成。
気づくと、目の前に妙なキャラクターが宙に浮いていた。ウサ耳を生やしたオバケとでも言うのだろうかーーつぶらな瞳と目が合った。
「何このオバケ?」
「オバケとは失礼ダニ」
「うわっ、しゃべった! オバケじゃなかったら何なのさ?」
「バレンタイン・オンラインの案内人、セリーヌだダニ!」
「へ〜、よく出来てるな。ウサ耳の感触もモフモフしてて、リアル〜」
「や、やめるダニ! セクハラでアカウントを凍結するダニ!?」
「まだゲーム始めてもないんだけど?」
「じゃあ、さっさと始めてアカウントを凍結するダニ! でも、始める前に質問にいくつか答えるダニ!」」
凍結されるとわかっているのになぜゲームを始めなければならないんだろう。とりあえず脳死で答えるしかない。
Q:お名前は?
ゲームで使う名前のことだよね? 苗字の洒落の読み方を変えてみようかな。
A:シャレ
Q:性別は?
A:女
Q:年齢は?
実年齢でもいいのかな……。
A:25歳
その後も、様々なQ&Aに答えさせられた。
Q:好きなものは何ですか?
A:お酒
Q:なぜお酒が好きなのですか?
A:苦楽を共にした相棒だから。
Q:週にどのくらいお酒をのみますか?
A:7回/週
「おい、ウサ耳オバケ。この千本ノック、いつまで続くん!?」
「回答の内容は生成されるアバターの外見や能力に影響するダニ。今のセリーヌへの暴言もアバター生成用の情報に付け加えておくダニ」
「ちょ、余計なことするんじゃない。どうせなら絶世の美女とかになりたいじゃないか」
「無理な相談ダニ〜。多分、顔の濡れたアンパン〇ンみたいになるダニ〜」
「お前、後でア○パンチくらわせてやるから覚悟しろよ……」
「パワハラでアカウント凍結ダニ〜」
その後も、50問くらい答えさせられたのではないだろうか。
「これで最後ダニ!」
そう言われて最後に問われたのは、こうだった。
Q:何故、お店を閉めたのですか?
「……」
随分と深く詮索してくるやつだ。お前に教えてやる筋合いなんかない。
A:言いたくない
「アバター生成中ダニ〜。しばらく待つダニ〜」
「ようやく終わった……」
その場に倒れこんでへばっていると、しばらくして目の前に光の粒子が集まり出す。
「アバター完成ダニ!」
生成されたアバターが目の前に姿を現し、思わず絶句してしまった。
顔はほぼ現実そのままの私。しかし、髪は緑だし、肌は褐色。何より顔全体に紫の入れ墨がある。
もともと吊り目がちの私だ。眼光が鋭く、総じてかなりヤンチャしてそうな見た目に仕上がっている。これはキビい。キビいぞ。
「おい、これじゃあ完全に裏社会の人間だろう!? てか、この入れ墨、目の下に濃いクマが出来てたせい!? 誇張して反映しなくていいんだよ!」
「知らないダニ〜。セリーヌがデザインしたわけじゃないダニ〜」
セリーヌは我関せずといった感じでホントに憎たらしい。私は舌打ちすると、セリーヌを睨んだ。
「チェンジだ」
「もう一度最初から質問をやり直すダニ?」
「それは嫌だ」
「じゃあ諦めるダニ。そのアバターも悪いところばかりじゃないダニ。商人職向けのステータスが分配されてる上に、最初からいきなり中級職”薬売り”の職業を付与されてるダニ。朗報ダニ」
名前:シャレ
種族:人族
レベル:1
職業:薬売り
ステータス:腕力25、脚力20、体力30、敏捷20、器用45、精神20
装備:
[頭]なし
[上半身]虫よけ外套(黒)
[下半身]丈夫パンツ(黒)
[靴]探検ブーツ(黒)
[武器]案内人の短刀
[アクセサリー]ひょうたんの髪飾り
スキル:【鑑定】【手軽にポーション作りができるミキサー】
「この見た目で薬売りって完全にやばい薬の売人じゃんかっ! もういい、どうなっても知らん! あの忌々しい酒守を一発殴ってこのゲームともおさらばだ! 早くゲームを始めるぞ!」
「操作説明は不要ダニ?」
「いらんっ」
「手間が省けて助かるダニ〜。それじゃあ、バレンタイン・オンラインの世界にいってらっしゃいダニ~」
「おう、世話になったな、ウサ耳オバケ。そのうざったい面を二度と見なくてすむようにと願う」
「奇遇ダニ。同じことを考えていたダニ」
こうして、私はバレンタイン・オンラインへと足を踏み入れたのだった。