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第2部5話 ハセガワさん

「これは……」


 荷車に木組みの小屋が乗っかったやつ。いわゆる屋台だ。5人が屋台を囲めば満席になるくらいのちっこくてかわいいやつだ。


「どうじゃ、若いもんがゴミの中から見つけてな。ついでに修繕しておいたんじゃ。年季は入っちょるが、まだまだ使える」


 私は屋台のカウンターを撫でてみた。体重をかけても軋みもしない。意外としっかりしてる。


 試しにカウンターの内側にも入ってみる。入ってみてなんとびっくり。備え付けの棚には、グラスや食器も準備してあったのだ。


「どうしたの、これ!?」

「街中の食器をかき集めてきたんじゃ。我らには無用の長物なもんでな。姐さんなら有効活用してくれるじゃろうて」

「ほんとに私が使っていいの?」

「当たり前じゃ! ワシらも早く姐さんの酒を飲みたい一心で修繕したんじゃ。店を開いてくれないとこっちが困るわい」


 私は目頭が熱くなり、思わずジンさんに抱きついてしまった。


「ジンさん、ありがとっ!」

「お礼を言うにはまだ早い。それで、肝心の賃料だが……」

「そ、そうだよね。賃料……。この上下の服と物々交換じゃダメかな? あ、でもこのパンツは暗黒教に効果吸い取られちゃってるから、価値があるかわからないけど……」


 私はそう言って服を脱ぎ始める。するとジンさんは慌てたように目を隠した。


「や、やめるんじゃ! それじゃあ、まるでワシが追いはぎじゃわい! ワシらに一杯奢ってくれればそれで十分じゃ!」

「それでいいの……? ほんとに?」

「も、問題ない! 問題なのは姐さんの格好の方じゃ! だからはよ服を着てくれい」

「やったっ! ありがとー!」


 ジンさんの頬にチューしたら顔が真っ赤になった。


「一杯と言わずいっぱい奢るから、みんな連れてきてよ! その間に開店準備しとく!」

「ぐははっ、今日こそ姐さんの冷蔵庫を空にしてやろうぞ!」





 私はうっとりと屋台を眺める。屋台って一回やってみたかったんだよね。味気のないほったて小屋みたいな屋台だけど、デコレーションしたら絶対可愛くなるやつだっ!


 屋台ってどこでもお店を開けるのがいいところ。いろんなところに出店してみて、お客さんの反応を見ることもできるし、天候によって場所を変えたりもできる。


 デメリットは席数が少ないところと、メニューが限られること。おっちゃんたちには立ち飲みしてもらうとして、メニューもソルティ・オーシャンと枝豆しかない今、そこまで心配する必要もないと思ってる。必要に迫られたらその時考えよう。


 ジンさんが作ってくれた看板を、屋台の屋根に掲げてみた。ついに、念願の酒場駄洒落の開店だ。


 しかし、飾り気のない屋台で少し寂しい気はする。


 あ、そうだ。ベルズ通りのハセガワさん……。あのまま道端に放置しておくのも不憫だし、連れてきちゃおうかしら。


 私はハセガワさんのところまで引き返した。今日も一心不乱に祈っているハセガワさんに私は、


「こんなところに一匹でいるのも退屈でしょ。私と一緒に酒場やらない?」


 と、聞いてみた。すると、次の瞬間、ぴょんっと飛び跳ね、私の肩に飛び乗ったのだ。


「え!? ハセガワさん、生きてるの!?」


 でも、その後は指でツンツンしても微動だにせず、私の肩の上から離れようとしない。訳のわからないときは【鑑定】しかない。


アイテム名:シワあわせカエル

レア度:  ★★★★★

効果:   幸運+100

説明:   手のシワとシワを合わせたカエル。カエルに祈りをささげると所有者に幸運がかえる。


 アイテムなのか! ってか、レア度★×5って初めて見たなあ。私が【いろいろときれいにする空気清浄機】を手に入れたのも、ハセガワさんにお祈りしたからなのかな?


 それなら“駄洒落“を出せたのもハセガワさんのお陰。ハセガワさんにはこのお店の番頭になってもらおう。カウンターの見えるところに座布団をひいてハセガワさんを置いてみた。そして、ソルティ・オーシャンをお供えして、楽しく酒場経営できますよーに、と祈りを捧げた。


 うん、とってもいいぞ。そんな風に感慨に浸っていると、遠くの方に黒い影。ゾンビの波が押し寄せてきたのだ。完全にバイオハザードの光景。


 でも、みんな知ってるゾンビなので怖いとかそういうのはない。あるのは軽蔑の感情。


「もう、またみんなゾンビ化しちゃってるじゃない。ゾンビ豆は食べないでって言ってるのに」

「でもうまいからやめられないんじゃー、水をくれー」


 私はゾンビ化したおっちゃんたちに、片っ端からソルティ・オーシャンを振舞っていく。


「ゾンビ豆を使ってゾンビ化しない枝豆っていうおつまみ作ったから、食べてみてよ」

「まさか、そんなものが作れるはずなど――」


 そう言って若めの兵士が枝豆を口に放り込む。


「な――ゾンビ化していないだと!?」

「そんな馬鹿な……。ゾンビ豆の煮ても焼いても消えなかった呪いのような効果が消えるなんて……」


 そんな呪いを除去できてしまう暗黒卿。すげーな。負の力は負の力を以て凌駕するってか。


「さあ、たくさんあるからどんどん食べてよ!」

「「うおおおおお!!」」


 こうして、駄洒落の開店初日は大繁盛だった。

ハセガワさんの由来って皆さんわかりますよね?もしかして若い方にはわからないかなと心配になってまして…

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― 新着の感想 ―
返信有り難うございます。登場人物の名前が、ハセガワって勘違いしてました。カエル名前だったのを途中から忘れてしまいました。すみませんm(__)m
ハセガワ?わからない……( ̄▽ ̄;)
[一言] おててとおてての節を合わせて… イヤ〜〜〜〜ッ!!
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