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第2部4話 お掃除完了

「ふう、だいぶ片付いたわね……」


 私は額に浮かんだ汗を拭った。顔は煤だらけ。服も真っ黒くろすけ状態。


 ベルズ通りの大掃除を始めてから1週間がたった。まさか継続してVRゲームをやるハメになるとは思わなかった。しかも、プレイ中にやっていることといえば、ほぼ掃除。我ながら訳のわからないことしてるという自覚はあるんだけど、原石を見つけてしまったからには磨きたくなってしまう。


 そして、私の予感はしっかり的中した。


「ちゃんと光り輝く宝石になってくれたわね……」


 等間隔に並んだアーチ状の柱。その太柱は精巧な彫刻が施され、ガラス製の屋根をしっかりと支える。その屋根からは太陽光が差し込み、魔法陣のような模様が施されたタイルを照らしている。もはや、見事としか言いようのない。


「おお、かつてのベルズ通りの輝きを取り戻したようじゃ……」


 ジンさんは感慨深げにつぶやいた。ジンさんたちゾンビ部隊は主に通りの修繕を担当してくれた。おかげでひしゃげていた門扉も自立できるようになって、歴史的な風合いを感じさせるくらいには見えなくもない。


「して、間借りする場所の目星はついておるのか?」

「あたぼうよ」


 私はニヤリとした。ベルズ通りの入口付近の一画。勝手に内見も済ませていた。


 私はその一画にジンさんを案内した。中には石造りのカウンターが設置されていて、酒場を開くには持ってこいだ。


 カウンターの内側にはコンロや流し台も付いているので、もしかしたら元々酒場だったのかもしれない(付いているだけで火や水が出ないのは言うまでもない)


 そして、私が気に入ったのは、なんといっても中央に佇む一本のオリーブの木。銀色に輝く葉がなんとも幻想的だ。


 オリーブの木は古来から平和の象徴とされる縁起のよい木だ。私はもはや現実で体験したように、小難しいことを考えて荒んだ心で酒場を営んだりしたくない。平和をモットーに楽しく酒場をやりたいのだ。そんな私には、オリーブの木がお店を見守ってくれるというのは何とも心強い。


 私はジンさんの作ってくれた看板を掲げた。


「酒場“駄洒落“! ここに開店だっ!」


 私は高ぶる心を抑えきれずにそう叫んだ。すると、ジンさんがコホンと咳払いをした。なんか邪魔された気がしてジト目を向ける。


「ん、なにかしら?」

「正式にこの場所を借り受けるというのならばこのシールを剥がすとよい」

「ん、シール?」


 ジンさんが指さしたのは店の扉付近。目を凝らしてよくよく見ると『For Rent(貸出可)』と書かれたシールが隅っこに貼られていた。


「これ、剥がせばいいの?」


 ジンさんが頷くので私は促されるまま、そのシールを剥がす。すると、ウインドウが現れた。


『賃料が不足しています。賃料:1,000,000バース』


「はああああ!? 何、有料なの!?」

「ぐはははっ! なんじゃ、姐さんは一文なしかい」

「そうだよおおおお! こんなに頑張って掃除したのにいいい!」


 私は頭をかきむしった。


「……ジンさんの力で賃料を無料にできないの?」

「できる訳なかろうて」

「だよね。ゲームの世界も甘くないなあ……」


 私はため息をついた。折角一週間かけてきれいにしたのに、こんなの骨折り損のくたびれ儲けだ。


「そんなことだろうと思うて、ワシらで格安の物件を見つけておいたんじゃが、見てみるか?」

「え、みるみるみる! さっすがジンさん!」


 私は手招きするジンさんについていった。

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