第2部2話 ベルズ通り
「ここが本当に最後じゃぞ?」
チェンジを繰り返して辿り着いたのは、古城にほど近い繁華街だった。
「なんじゃこりゃ……」
私が繁華街を一目見たときの感想である。通りの入り口には、ひしゃげた鉄格子の門と傾いた看板。かろうじて“ベルズ通り“と読める。
飲食店が並ぶアーケード街のようなのだが、どの店も閉店しているのはもちろんのこと、通り全体が机や椅子、樽などの残骸で塞がっていて、まともに歩くことすらできない。まるで大地震に見舞われた震災跡のような惨状だ。
断言しよう。これは、繁華街ではなく、閑散街だ。
「……ここで、店をやれと?」
「ぐははっ! その通りじゃ! 1000年前までは国の中でも名の通った繁華街じゃった。店を開くのに適したところは、これ以上なかろう!」
「いや、これ繁華街というより、繁華街の遺跡だよ……」
私はぶつくさ文句を言いながら、ジンさんに背中を押されて薄暗いアーケードに入った。
「少し待っちょれ。今、光を入れる」
ジンさんが街灯によじ登って火を灯した。すると、通りの全ての街灯に光が灯る。私は思わず目を見開いた。
このアーケード街、年季が入ってるし汚い。でもこの外観、確かに光るものを感じる。
この天井、曇ってるけどガラスだよね。床はちゃんとタイルが貼られてて、今も健在だし、金かかってんなあ。
「……これってもしかして、パサージュ?」
「は? 食うべからず?」
「いや、どんな耳してるのよ?」
18世紀頃のフランス。商店街の通りは未舗装で、しかも雨や寒さの影響から、買い物は快適とは言えなかったという。そんな中現れたのが、最古のアーケード街と呼ばれるパサージュだった。天井付きで、しかも舗装された商業空間というのはその当時革命的で、国内全体へ爆発的に広がったと言われている。
酒場の出店場所というのはとても重要だ。それだけで酒場の成功が左右されるといっても過言ではない。
屋根や舗装された道があれば、雨の時でも訪れる気になるし、移動も楽だ。もし、この通りに活気が戻れば、買い物客の集客だって狙える。
ここ、綺麗に掃除したら、かなり優良物件が眠ってそうな予感。これはいわゆる磨けば光る原石じゃないか? うん、悪くないぞ。
私はジンさんに親指を突き立てた。
「私、ここにお店出すことにする!」
「おお、やる気になってくれたとは、何よりじゃ」
「ジンさん、悪いんだけどこの通りの片付け手伝ってくれる!?」
「よっしゃ、900歳くらいの若いもんも連れてきて、いっちょ大掃除といくかのう」
「全然若くないから! でもありがとうっ!」