第1部11話 シュシュの憂鬱(酒守視点)
ボクは今日、ある“告白“を誓ってここにいる。ボクは洒落店員にどうしても言わなければならないことがある。今までどうしても言えずにいた。
本当のことを言ったら、彼女はどんな反応をするだろうか。怒るだろうか? だろうな。グーパン、いや、それで助かるのは希望的観測にすぎない。何かの童謡のタヌキのように煮てさ、焼いてさ、食ってさ、くらいやられるかもしれない。しかし、ボクはどうしても打ち明けなければならない。それがボクがしでかした過ちに対する償いとなるのだ。
今の時間は13時半を回ったところ。待ち合わせの時間から、既に30分が過ぎている。しかし、彼女の姿はまだない。
ボクが待ち合わせの場所として選んだアプサラス・コーストは、ラフマントス教会の神父から託される初クエストで必ず通ることになる。
普通ならばもうそろそろ着いてもよい頃なのだが、何かあったのだろうか。彼女は見かけによらず時間厳守の性格だ。おそらくお店を経営していたこともその一因なのだろう。
ボクは彼女のお店に20時頃に行くのが日課だったのだが、1時間ほど遅れて行ったボクのことに、しっかり気づいた。その日は時差出勤でーー
そこでふと、気づいた。時差?
そうだ、ボクは今東南アジアにいるから、彼女のいる日本とは2時間の時差がある。
ボクの額から冷や汗が流れる。
もし彼女が日本時間の13時に、ここに辿り着いていたとしたら、今は15時半。集合時間から2時間半経っている。
しかも、彼女は14時半のアプサラス・コースト名物“噴水転移“で転移してしまった可能性が高い。噴水の行き先は、ダンジョン“ドラゴンバックボーン“、ウルルカ海、レイク・アオプルコのいずれかだが、どこに行ったのかは特定できない。
これは、事件だ。
彼女のことだ。ボクの謀略にハメられたとか思っているに違いない。ああ、急に頭が痛くなってきた。
そのとき、ボクのクランの仲間から通信が入った。
「何だい? 今、ボクは取り込み中なんだがーー」
「シュシュ、緊急招集だ。無限回廊踏破の件で問題が発生した。舞葉郭に5分後だ」
ボクはまた、大きくため息を吐き、頭をかきむしる。
「ーーわかった。今行くよ」
覚悟を決めて来たのだけれども、どうにもより面倒なことになってしまった。