第20話 クリスマスパーティー!
来たる12月24日、クリスマスパーティーの日。
2日かけてクリスマスの飾りの作成を行い、十分すぎるほどの量を用意することが出来た。
「お邪魔します。おはよう、みんな。じゃあ早速、飾りつけから始めよっか」
瑠璃が家にやってきたので、パーティーの飾りつけを始めることにした。
飾りつけを行うのは主に壁だ。まず、みんなでバルーンを膨らませ、壁に貼り付けていく。星型やハート型、アルファベットの形をしたものなど……様々な形のバルーンがある。
“MERRY CHRISTMAS”と読めるように並べられたアルファベットのバルーンを中心に、色とりどりで千姿万態のバルーン達が、それを引き立てるように取り囲む。
次に折り紙で作ったカラフルなガーランドを、壁の高い位置に弓なりになるように架けた。その真ん中にベルやリボン、松ぼっくりなどの様々な装飾がなされたリースを掲げる。
さらにその下に、メインの飾りである、初日に作った壁掛けのクリスマスツリーを取り付ける。まだ装飾がされていない枯れ木の状態なので、フェルトでできたサンタクロースやトナカイ、雪だるま、プレゼント箱……などなど。次々と貼り付けていき、枯れ木のようだったそれは、見違えるほど華やかなものになった。
最後に、ツリーにLEDの電飾を巻き付けてパーティーの飾りつけは完成だ。
「電気、つけてみるね」
瑠璃が電飾のプラグをコンセントに差し込み電源を入れると、クリスマスツリーが鮮やかな光を放ち始めた。
「すっごーーい! 光ってる! きれいだね!」
ツリーの電飾に負けないくらい、目をキラキラとさせながらヒカリが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「これ、ほとんどあたしたちで手作りしたんだよね……すごくきれい」
夏乃は、飾りつけが終わった部屋を見渡しながらうっとりとしている。
「作った甲斐があったね」
瑠璃は、そんな2人を微笑ましそうに見つめながら呟いた。
「ああ、こういうのも悪くないな」
照れくさくてついぶっきらぼうな言い方になってしまう。内心ではヒカリや夏乃のように、素直に喜びたいと思っているのに。
……ああ、こんな感情、初めてかもしれない。
クリスマスパーティーなんてくだらないと思っていた。でも今は、こんなにも心が満ち足りている。
「さ! 飾り付けが終わったからお料理を作らなきゃ! まだパーティーは始まってないよ!」
瑠璃は、パンッと手を叩き緩みかけていた空気を引き締める。
「あたしと瑠璃ちゃんで作るから、お兄ちゃんはプレゼント買ってきたら? あたしたちはもう用意してるけど、お兄ちゃんはどうせ忘れててなにも用意してないんでしょ?」
「……あ」
慣れないことばかりで完全に頭から抜けていた。というか2人はいつの間に用意したんだ?
「プレゼント……ボク、なにも用意してない。どうしよう……」
「あー、ヒカリは貰うだけでよかったんだけど……。その様子だとなにか用意したいんだよね?」
「うん。でもボクお金持ってないし、どうすれば……」
「ヒカリ、今から俺と一緒に買いに行こう。金のことは気にしなくていい。こういうのは気持ちが大事なんだ」
「うん、ありがと!」
ヒカリは暗かった表情を、パァっと明るくさせる。
「じゃあ、私たちはお料理を作りながら待ってるから、2人とも気を付けてね」
瑠璃のそんな言葉を背に、俺とヒカリは家を後にした。
…
……
………
ヒカリと並んで、商店街への道を歩く。
「ヒカリ、プレゼントは何にするか決まってるのか?」
「えっとねー。この前行ったお店で見たんだけどね。まぁるいガラスみたいなのの中にサンタさんとかが入ってるやつ、あれがいいと思うの!」
この前行ったお店というのは、飾りつけの材料を買った雑貨屋のことだ。ヒカリの言うものが何なのか分からないが、探せば見つかるだろう。
「じゃあ、そこに行くか」
「うん! ……ねぇねぇハルー。手、繋いでいい?」
……手?
「ああ、いいぞ」
この間の瑠璃といい、女の子というのは手を繋ぎたがる生き物なのだろうか。
「わーい!」
ヒカリに手を差し出すと、嬉しそうに握ってくる。
……ヒカリの手、小さいな。見た目は完全に小学生だから、それもそうか。
「ん?」
……ということは今、傍からだと俺は、小学生と手を繋いで歩いているように見えるのか。
「……捕まらないといいが」
「んー? なぁにー?」
「いや、何でもない」
そう言えば、ヒカリと2人きりで外にでるのは初めてだ。捕まるまでいかないにしても、職務質問とかされたりした時には、かなりまずいことになりそうだ。さっさと用事を済ませよう。
…
……
………
何事もなく、雑貨屋に着いた。きっと、仲の良い兄妹くらいにしか思われていないのだろう。あまりびくびくせずに堂々としていよう。
「ヒカリ、プレゼントは見つかったか?」
「うーん……あっ、たぶんあそこ!」
店内を歩いて回りお目当てのものを探していると、遠くの方に見つけたようで、ヒカリは俺の手を離してそこに駆けていった。
「ハルー! これこれ!」
そこは、クリスマスプレゼント用に特設されたコーナーのようだった。ヒカリが何かを手に持ってこちらを振り向き、俺を呼んだ。
「どれどれ……」
ヒカリの元に歩いていき、手に持っているものを確認する。
「スノードームか」
「うん。ねぇ、ハルー。これをプレゼントにしたいんだけど、いい?」
「ああ、もちろんだ」
「やったー!にゃはは! ありがとう、ハル」
ヒカリが選んだのは、トナカイがひくソリに乗って夜の街を翔るサンタクロースのスノードームだ。
スノードームは他にもいくつかあるようなので、俺のプレゼントは、ヒカリとは違う種類のものにしよう。
「……お、これとか良い感じだな」
鮮やかなクリスマスツリーのスノードームを手に取ってみる。
「キミはそれにするのー?」
「ああ、会計するからレジに行こう」
レジで支払いをし、プレゼント用にラッピングをしてもらったスノードームを受け取り、店を後にした。
「じゃあ、帰るか」
「うん!」
元気よく返事をし、ヒカリは再び俺の手をとる。そして、手を繋ぎながら家への道を歩き始めた。
「なあ、ヒカリ」
「なあに?」
繋いだ手をブンブンと振りながら歩くヒカリに声をかけると、楽しげな表情でこちらを見上げてくる。
「こうやって手を繋ぐと、心も繋がるって知ってたか?」
「こころー?」
ヒカリが不思議そうに首を傾げる。
これは大樹さんが書いた小説の言葉だ。フィクションはフィクションで、そんなことは実際にはあり得ない。そう思っていたのだが……。
こうして手を繋いでいると、ヒカリのあたたかな体温が心にまで伝わってくる感じがして、そういうこともあるかもしれない、と……つい話したくなってしまったんだ。
「ああ。ヒカリはそんな風に思わないか?」
「手を繋ぐと、心も……。うん、ボクもそう思うよ! あのね、心が繋がってるから、キミがいま考えてることも分かるんだよ! 当ててみよっか?」
「なんだ?」
「えっとねー。キミは、クリスマスパーティーが楽しみって思ってる!」
……当たってる。
ヒカリにクリスマスを教えるためにすると決めたパーティーも、いつしか楽しみだと思えるようになっていた。
「まあ、そうだな。……俺もヒカリの考えていることが分かるぞ。ヒカリもクリスマスパーティーが楽しみだって思ってるだろ?」
ヒカリに自分の気持ちを言い当てられてなんだか照れくさかったので、お返しとばかりに問いかける。
……まあ、手を繋ぐ繋がないは無しにしても、ヒカリのニコニコとした表情を見れば明らかなことなのだけど。
「せいかーい! ボク、クリスマスパーティー、すっごく楽しみだよ! でもね、ボクが考えてるのは、それだけじゃないんだよ!」
「……? それはなんだ?」
俺がそう尋ねると、手をにぎにぎとさせニコニコした顔をさらに崩して、
「にゃふふ! ひみつー!」
と、空いている手の方で立てた人差し指を口もとに持っていき、そう言った。
そんな仕草に微笑ましいような気持ちを感じながら、ヒカリにもいろいろ考えることがあるんだな、と思ったのだった。
…
……
………
「ただいまー」
「ただいまー!」
2人そろって家に入り、キッチンにいる瑠璃と夏乃に挨拶をする。
「おかえりー。結構早かったね、春」
「まだお料理出来てないから、お兄ちゃんとヒカリはその辺でゆっくりしてて」
「ああ、ありがとう」
リビングのソファーに腰掛け、料理の完成を待つことにする。しばらくヒカリと話をしながらゆったりとした時間を過ごしていると、キッチンの方から声がかかった。
「お兄ちゃーん。ヒカリー。お料理出来たよー」
夏乃に返事をしダイニングに向かうと、テーブルには一面に豪華な料理が並べられていた。チキンやローストビーフなど、クリスマスならではの様々な料理がテーブルを彩っている。
「うお。すごいな」
一面の豪華料理に思わず圧倒されてしまった。
「わぁぁぁっ! すごーい! どれもおいしそう……っ!」
大きな瞳をキラキラと輝かせ、料理を見つめるヒカリ。開きっぱなしの口からよだれが垂れている。
「ヒカリ、口、口。よだれ出てるぞ。まったく」
少し呆れつつも、ヒカリの口元をティッシュで拭ってやる。
「ん、んぅんぅんぃ。……ぷはっ。えへへ~、だっておいしそうだもん」
「そんなに喜んでもらえたら、作った甲斐があったよ。ねぇ、瑠璃ちゃん?」
「うん。でも見た目が良いだけじゃないよ? 味もすっごく美味しいんだから!」
「それは楽しみだな」
各々が席につき、料理を食べ始めようとしたところで、突然夏乃が勢いよく立ち上がった。
「こほんこほん。え~、ただいまから第一回、陽中家&瑠璃ちゃんのクリスマスパーティーを始めたいと思います! メリークリスマス! ドンドンパフパフー!」
夏乃は口の前で手を握って、そう高らかと宣言した。その手はマイクでも握ってるつもりなのだろうか。
「わぁーい! めりーくりすますー! どんどんぱふぱふー!」
夏乃のテンションにつられてヒカリも立ち上がってはしゃぎだした。
「ふふふっ。メリークリスマス」
瑠璃は微笑みながら拍手をしている。
俺も空気を読んで、瑠璃と一緒に拍手をする。
はしゃいでいた2人が落ち着いて席に着くと、瑠璃が口を開いた。
「じゃあ、みんなお腹空いてるだろうし、はい。手を合わせてください!」
4人声を揃えて合掌し、食事を開始した。