夏だ!山だ!星を見よう!
「...ということで明日から夏休みだけど、くれぐれもけがをしないように気を付けてね」
あっちぃー。
蝉の声が先生の声をかき消す夏。私は机に突っ伏しながら夏休みの計画を練る。
とりあえず7月中に夏休みの宿題は始末しておかないとな。
なんてったって、8月になったら、お祭りに花火大会、そしてプールいったりで忙しいんだもん。とはいえ、毎年こんなこと考えてるけど7月中に宿題に手がついたためしがないのよね...。
「起立」
危ない。私も慌てて立ち上がる。
「気を付け、礼」
「さようなら」
この言葉とともに、教室の扉へと一斉に駆け寄る男子たち。見てるだけで暑苦しいわ。
扉...。私は、この学校に来た初日の、開かずの扉の事件を思い出す。
そういえば、私が隆司に会ってからもう4か月近く経つのか。
あれ以来も、隆司は数々の事件を、私の前で解決してきた。
流石に大きな事件には遭遇しなかったけど、おかげで隆司が名探偵なのはよく分かった。(神島隆司という人間がいかに変わっているのかもよーくわかったけどね)
「どうしたんだい朝花ちゃん」
その隆司が声をかけてくる。こんな暑い日には似つかわしくないほど爽やかだなぁ。
「あの男子たちにも見習ってほしいわ...」
「ん?なんか言ったかい?」
「いや、別に」
こんなの隆司に聞かれても調子に乗るだけだ。というか、彼にはむしろあの男子たちを見習って、小学生らしくいてほしいくらいだ。
「朝ちゃん」
京ちゃんが私たちの方を振り返って声をかけてくる。
「毎年さ、私と京人と隆司の3人で夏旅行に行ってるんだけど、良かったら朝ちゃんも一緒に来ない?
もちろん私たちだけじゃなくて隆司のお父さんと、私のお母さんも来るんだけどね」
え、めっちゃ楽しそうじゃん!
「行きたい!」
「そうとなったら、僕の家にあとで集合しようか」
「おっけー」
とりあえずはこの重い荷物を家に持ち帰らないと夏休みは始まらない。
少しは引き出しの中のもの、持って帰っとくんだったな...。
あぁーだめだ。本当に暑い。
私は今隆司の家に向かう道中。アスファルトから照り返す熱気は、殺人級だ。
早く冷房の効いた室内に入らないと。
確か、ここの角を曲がって...あった!
ピンポーン。
「隆司君のクラスメイトの三宅朝花です」
「はーい。今開けるね」
インターホンから聞こえる爽やかな男性の声。隆司のお父さんかな?
「やあいらっしゃい。
暑いでしょ、さぁさぁ中に入って。隆司たちは2階にいるよ」
「おじゃましまーす」
開いた扉から流れてくる冷えた空気が、私を包み込む。
気持ちいいー。
廊下に階段まで涼しいなんて。なんて幸せなんだ。うちなんか冷房代もったいないからって、ドアはいつも閉めるよう言われるのに。
「お、朝花ちゃん。君が僕の家に来るのは初めてだね。ようこそ、我が神島家へ」
隆司が、どこぞのキャストのように大きく腕を広げ、私を迎える。
「いやー、暑くて死にそうだったから、助かったよ。この家は涼しくていいね」
「ほんとそうだよな。俺なんて自分の部屋に冷房ついてないぞ」
「私も。廊下が涼しいとかありえなーい」
やっぱりそれが普通よね。
「まぁ、隆司んちはお金いっぱいありそうだもんな」
そういえば、さっきお父さんが出てきたけど...。
「今日、お父さんって仕事は?
もしかして、旅行の計画のために休んでくれたとか?!」
「いやいや」
隆司が手をひらひらさせる。
「僕の父さんは作家でね、基本一日中家にいるんだ。『かみしまたかし』って名前で推理小説書いてるんだけど、本あまり読まない朝花ちゃんが知らないのも無理ないか」
かみしまたかし!
本をほとんど読まない私でも名前は聞いたことある。
確か、子供から大人まで、みんなが楽しめるミステリーを書いてる人だ。
「名前くらいなら聞いたことあるよ。すごい人なんでしょ」
私がこの言葉を言い終わらないうちに、階段からものすごい音が近づいてきた。
「もしかして、僕の作品のことを知ってくれているのかい?!
それは光栄だね。もう、知ってくれているだけでも大歓迎だよ!気が向いたらでいいから――」
「はいはい、父さんは出てって。締め切り近いんでしょ」
突然やってきたお父さんを隆司が部屋から閉め出す。
理解した..。
隆司のこの性格は、お父さん譲りなのね。
「いやぁ迷惑かけて申し訳ないね。いつも父さんあんな感じなんだよ。母さんが今海外行ってるせいで歯止めがきかなくなってるし」
へー、海外か...。
「そういえば隆司も海外に行ったことあったんだよね?」
「あぁそうだよ。といっても、一年くらいだけどね」
「とにかく、今は今年どこに行くか決めないと」
ずれていった話を、京ちゃんが戻す。
「去年は海に行ったから、今年は山とかどうかな」
「いいね。キャンプとかする?」
キャンプ...。
ひとまず私は、目の前にある旅行のガイド冊子をパラパラとめくる。
「うーん。キャンプもいいけどいろいろ面倒さそうだな」
「まぁ、何でもできる僕がいるんだから問題ないさ。それに――」
「あ、これはどうかな!」
私は、隆司の言葉を遮るように、冊子の1ページを見せる。
「わぁ、きれーい」
「凄いな」
「ここまで美しいとは。僕にふさわしいじゃないか」
私が見せたのは満点の星空が載ったページ。
「ええっと、これは『山荘やまびこ』っていう宿泊施設でとられた写真だって。ここ行ってみない?」
「僕は構わないけど...」
「私は全然大丈夫だよ」
「俺もこれは見てみたいわ」
決まり、かな。
「そうとなったらひとまず予約をとらないとだね」
「それなら心配ないよ。こっちで予約とるから。京華ちゃんのお母さんも来るってことで平気だよね?」
1階から隆司のお父さんが言う。仕事が早いな‥。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます!」
「えーっとね、8月の12、13にしたらどうかな。ちょうど流れ星がいっぱい見える時期なはずだし」
流れ星!
「じゃあ、その日で頼んだよ」
「了解」
こうして私達は、山荘に行くことになったのだ。
でもよく考えたら「山荘」と「名探偵」って、事件ウェルカム!みたいな組み合わせなんだよな。
そしてその通り、私達は事件に巻き込まれることになったのだ..。




