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開かずの扉の事件から数日後‥。
今にも崩れ落ちそうな廃ビル。
そのビルとは不釣り合いな様子の一室。
その中で一人の男が真っ赤なソファーに座っている。
カツーン、カツーンという足音とともにスーツ姿の男がやって来た。
「こんな時間にどうしたんだ」
ソファーの男は目の前のチェスから顔を上げずに声をかける。
「いえ、少々気になることがありましたのでご報告を」
やって来た男は恭しく頭を下げる。
「工事作業員をしているうちの者から報告がありまして―」
「前置きはいい。さっさと要件だけ伝えろ」
男はビショップを盤面に叩きつけた。
「はい。
昼丘小学校というところに奇妙な少年がいるようでして‥」
「少年?
それがどうしたと言うんだ?」
「何やら自分で『名探偵』だと名乗っているようなのです」
それを聞いた男は、ルークを持っていた手を空中で止め、目だけ前を見る。
「何が言いたい。
ガキの戯言をわざわざ報告しに来たわけではないだろ」
「はい。
それを聞いた作業員は、念の為彼の推理とやらを聞いたそうです。それも2度に分けてなされた推理を。
私としても、ただの子供がそのようなことができるとは思えませんでしたので、少し調査をしました。これが彼の写真です」
そう言うと彼はスーツの内ポケットから写真を差し出す。
「こんなガキ、見たことねぇぞ」
「えぇ。ですがこの子供の名前、『神島隆司』というんです」
それを聞いた男の手から、キングが落ちた。
「神島隆司‥‥か‥」
男の表情は変わらない。
ただ、その手は微かにふるえている。
「いかがなさいましょう?
今すぐ始末しますか?」
「いや、余計なことはしたくない。しばらく様子見だ」
「分かりました。また何かありましたら必ず報告いたします」
男は再び恭しく頭を下げると、部屋の外へと出ていった。
「神島ねぇ‥。面白くなってきたな」
そう言う口元は笑っていない。




