本当の謎解き
こうして4年2組の教室にやってきた私達。
神島君が黒板の前に立ち、私達3人は椅子に座る。少人数の授業みたいだ。
「では、本当の結論から話そうか」
神島君が言葉を切る。一瞬、互いの息づかいが聞こえた。
「今回の事件。犯人はあのメガネの男の子だよ」
この一言が静寂を破る。
「まず、君達もわかってると思うけど、さっきの僕の説明は嘘だ。学校の備品を壊してまでするようなイタズラ内容ではなかったでしょ」
「今回の事件の最大のポイントは動機。3人とも、今一度状況をよく整理しようか。君たちがついたときには既にあの少年は『鍵を壊したー!』とはやしたてられていたんだよね?」
頷く私たち。
「ここでだ。実際には先生が鍵を間違えてたんだけど、もし本当に鍵を壊してしまったとあの子が勘違いしたらどうすると思う?」
それは..。
「先生に正直に話すんじゃないのか?」
「ははっ。確かに真面目な京人ならそうしようと思うよね。しかし、普通はそうじゃない。ね、朝花ちゃん?」
「まぁ、何とかして隠そうとするんじゃないかな?」
なんだか私が悪い気がするけど宮浦君が真面目なだけで普通はそうだと思う。特に、あのメガネの男の子の弱々しい様子からすると、なんとしても先生にばれるのだけは避けたがりそうだ。
「そう。しかもあそこの資料室は開かずの扉とも言われている場所。扉が閉まってたのは鍵のせいじゃない、と思わせることができたらいいな、とも考えやすい」
「動機は分かったからさ、早くどうやったのかを教えてよ!」
京華ちゃんが足をばたばたさせる。
「まぁ結論がわかってる方が、推理を飲み込みやすいからね。今のところ、犯人はあのメガネの男の子、動機は鍵を壊したことを隠すため、っていうのは話したよね。それにさっきの皆の前での説明で、実際に鍵が開かなかったのは、鍵が間違っていたから、というところも言った。これで事実上密室の謎は解けたも同然。後は、突っ張り棒をどうやってあそこに置いたかだよね」
そうだ。扉を開けずにあの中に入るのは不可能なのに。
「あぁ、一応言っとくけど、実は本当の鍵を持ってて、それを使って中に入り置いた、っていうのは非常に非合理的だからね。メガネの男の子がそれをする理由はないし、仮にほかの人がやったとしても、学校の備品をわざわざ壊してまでするほどのいたずらには思えない。それに、鍵を先生が間違えたことは全くの偶然だからね」
「いいから早く教えてよ!」
せかす京華ちゃんの隣で、宮浦君が苦い顔をしてる。言おうとしたことを全否定されたのか..。
「わかったわかった。
言っておくが、資料室に人は入れる状況じゃなかったんだよ。ということは、人は入ってない、と考えるのが合理的だよね」
「え?人が入ってない?突っ張り棒は確かに中にあったんだよ」
「突っ張り棒をしっかりとつけるには確かに中に人がいなくちゃだめだ。でも今回はそうじゃない。突っ張り棒が中にあるだけ。これなら人が入らずとも突っ張り棒だけ、中にいれればいい」
???
突っ張り棒だけ中って、あの資料室には扉以外の出入り口がないんだから無理でしょ。
そう思った時だった。私は資料室に入った瞬間の光景を思い出し、脳に電流が走ったよな衝撃を受ける。
「できるね...。中に入らずとも突っ張り棒を置くのが」
「おっ、朝花ちゃんは気付いたみたいだね。じゃあ、わからない京人たち二人のためにもうちょっとわかりやすい表現にしよう。あの資料室、人は出入りできないけど、物を入れる入り口となるところは存在する。
扉の上の小窓があるじゃないか」
そう。確かに人が通れないから今の今まで忘れてたけど、扉の上の小窓は確かに開いてた。そこから折れ曲がった突っ張り棒を投げ入れれば、人が中に入る必要はない。
「そういうことね...」
「改めて順序を整理しようか。まずあの男の子が先生から渡された間違った鍵を使って、資料室の扉を開けようとする。ところが開かないことに焦った彼は、思わず自分が鍵を壊してしまったのだと、思い込む。一度思い込んでしまった人ってのはなかなか怖いものだよ。まぁそれは置いといて、彼はPC室のロッカーを見て思いつくんだ。突っ張り棒を中に入れれば、先生が無理やり扉を開けた時、実はこれが原因だったと思わせられるかもしれない、ということに。そして、人が見てないうちに、突っ張り棒を一本取って、折り曲げてたのち、中に投げ入れたんだ。彼の失敗は突っ張り棒の長さを確認し忘れたことだね。ボロボロの昼丘小の備品とはいえ、弱い力で突っ張り棒を曲げられるか、っていう心配もあって余計に焦ってたんでしょ。
とにかく、開かずの扉は別に開かずでもなんでもなく、先生が鍵を間違えさせしなければ、ちゃんと開かれてたんだよ」
なるほど。とはいえ、これだけのことをよく思いついたもんだ。あの男の子は。
「まぁこんなところかな。何か質問は?」
完全な推理に圧倒された私たちに疑問などない。ただ、
「なんでこのことをあの場で言わなかったの?」
今日一日の神島君の様子を見てると、どうしてもこれは腑に落ちない。
あの大人数の前で堂々と披露しそうなのにわざわざしょぼい推理、というか説明を皆の前でした理由がわからない。
「それは簡単だよ。証拠がないからね。いくら合理的で納得のいく推理ができても、物的証拠がなければ、それを大勢の前で話す理由もなければ話す必要もない、というか話してはならない。これが理由だよ。納得できた?」
うーん。そういわれてもな...。
「まぁとにかく帰ろうか」
そう言うと神島君は床に置いてたランドセルを背負う。
この格好だけ見たら本当にただの小学生なんだけどな。
「さーて、帰ったら何しよっかなぁ」
「とりあえず宿題はやらないとだな」
京華ちゃんたちも、神島君の後に続く。
「あれ?朝花ちゃん、帰らないの?」
「あ、帰る帰るー!」
私は二人の後を追いかけながら考えていた。
あの男の子の「ありがとう」の意味。今思うと、あの男の子は明らかに挙動不審だった。それは、自分がしてしまったことがばれてしまわないか、と怯えていたのだろう。
ところが、神島君のあの推理ショーにより大っぴらになることはなかった。
むしろ、皆が違う結論へと誘導されていった。
神島君が真実を語らなかった本当の理由は、おそらくあの男の子を守るためだろう。
全く本当に、小学4年生とは思えない。あの頭の良さも、性格も。
確かに、ちょっと変わってるけどいい人なんだなぁー。
「どうかしたのかい、朝花ちゃん。口元が緩んでるよ」
「え?!いやぁ、大したことはないよ。神島君ってすごいなって思っただけ」
「おお、それは光栄だね。それから、僕のことはもう隆司でいいからね」
再びウインクする神島君、いや隆司。
昇降口前の桜を横目に私は昼丘小での学校生活に胸を躍らせる。
きっと彼がいたら退屈しない、楽しい学校生活が送られるのだろうと。
この時はまだ気づいてなかった。私と隆司の物語の扉は既に開かれていたなんて。




