流れ星の精霊と男の子
流れ星に願い事をすると、願いが叶う――。
誰でも一度は、そんなお話を聞いたことがあるでしょう。
けれど、流れ星に願った全ての願い事が叶うというわけではありません。
流れ星には、それぞれ一つに一人、星の精霊が住んでいます。その星の精霊が、流れ星に送られた願い事の中から一番強く輝くものを見つけて、その一つだけを叶えるのです。
満天の夜空の中、今夜も一つの流れ星が生まれました。
そこにいるのは、少年の姿をした星の精霊。星の輝きに似た白く美しい髪に、宇宙の色をした丸い瞳。小さな身体に大きめの服をまとって、ひらひらとひるがえします。
彼にとって初めての願い事を叶えようと、少年精霊ははりきっていました。
南の空から、西の空へ。少年精霊を乗せた流れ星が一筋、流れました。
少年精霊は地上を見下ろして、願い事を探します。
あちこちで祈られた願い事はキラキラと光って、まるで星のように綺麗でした。
その中でも特別明るく輝く願い事を、少年精霊は見つけました。他の願い事が霞むくらい、強く眩しく輝いています。
少年精霊は、すぐさまその願い事の許へ飛んでいきました。
その場所は、丘の上にある病院の一室でした。その窓辺のベッドの上に、一人の男の子がいました。
「ねえ、君。流れ星に願い事をしたでしょう?」
少年精霊が窓の外から声をかけると、男の子は目を丸くしました。
「うん、したよ。あなたは、だあれ?」
少年精霊は、自分が星の精霊であること、そして男の子の願いを叶える為にやってきたことを説明しました。
男の子はとても喜びました。自分の願い事が叶うなんて、こんなに嬉しいことはありません。
「それで、君の願い事はなあに?」
「ボクね、お友達が欲しいんだ」
男の子は、生まれつき病弱でした。他の子ども達のように外で遊べず、学校にも通えず、朝から晩までずっと病院のベッドの上で過ごしているのです。
そんな男の子には、友達というものが一人もいませんでした。
「よし。それじゃあ、その願いをぼくが叶えてあげよう!」
少年精霊はそう言うと、ひらりと右手を振りました。すると、何もなかった空中にクマのぬいぐるみが現れます。少年精霊はそのぬいぐるみを男の子に差し出しました。
「さあ、今日からこの子が君のお友達だ」
男の子は嬉しそうにぬいぐるみを受け取りましたが、すぐに顔を曇らせます。
「このクマさんは可愛いし、すごく嬉しいんだけど……やっぱり、一緒に遊べるお友達が欲しいな」
少年精霊は腕を組んで、うーんと唸ります。
「一緒に遊べるお友達……そうだ!」
すると今度は、左手をひらりと一振り。すると、何処からともなく小鳥たちが集まってきました。
「さあ、今日からこの子たちが君のお友達だ」
小鳥たちはチュンチュンと鳴きながら、男の子の周りで踊ります。男の子もそれに合わせて楽しそうに身体を揺らしていましたが、やっぱりすぐに俯いてしまいます。
「小鳥たちと踊るのは楽しいけれど……一緒にお話しができるお友達が欲しいな」
少年精霊は困ってしまいました。
クマのぬいぐるみも、小鳥たちも、男の子の友達にはなれませんでした。それならば、次はどうしたら良いのでしょう。
少年精霊は悩みました。男の子の為に、願い事を叶える為に。たくさんたくさん、考えました。
そうして夜空にぽっかり浮かぶ満月がリンゴ二つ分ほど西に動いた頃、少年精霊は「そうだ!」と手を叩きました。
「それじゃあ、ぼくとお友達になろう!」
それを聞いた男の子は、目を輝かせました。願い事の光と同じくらいキラキラと、眩しいくらいに。
それから毎晩、少年精霊は男の子のところへ通って一緒に遊びました。
毎日がとても楽しくて、笑っている内に月日は過ぎていきました。
男の子は、成長して青年になりました。いつしか病気が治り、身体も丈夫になって、元気に学校へ通えるようになりました。そこで、新しい友達もたくさんできました。
少年精霊とは、いつの間にか会えなくなってしまいました。けれど、青年の思い出の中には、いつだって少年精霊の笑顔があります。
少年精霊もまた、流れ星の上からいつまでも青年の姿を見守っています。
流れ星は一つにつき一つだけ、願い事を叶えてくれます。
みなさんも、流れ星を見かけたら願い事をしてみましょう。
もしかしたら、素敵な出会いが待っているかもしれませんよ――。