白と黒
白か黒かで分けられるこの世界を、生きづらいと思い始めたのは一体いつからだっただろう。
魔法の使い手は、この国では貴重な存在だった。人間には不可能なことを一瞬で叶え、世に安定と繁栄をもたらす。
人間はわたしたちの力から繁栄と安定を得て、反対に魔法の使い手は人間から彼らと同等の暮らしやすさと身の安全を得る。それがこの国で長らく人間と魔力持ちが共存してきた方法だった。
魔法の使い手はその得体の知れない力を恐れられ、けれどその役目を果たすことで人間から受け入れられてきたのだ。
人間と魔力持ちとの圧倒的な数の差を考えれば、そうするより他に道はなかった。
けれど、この10年ほどでその均衡は破れた。
突然に、魔法の使い手の中に『黒の魔法の使い手』が現れたのだ。
その表出は突然だった。人間も魔法の使い手も想像し得なかった強大な負のエネルギーの暴走に、たくさんの人間が死ぬ事件が起きた。
それからだった。人間の安全と安心のために魔力持ちは黒と白にはっきりと線引きされるようになった。
それから、黒は恐れられ蔑まれるようになった。反対に白は畏怖の念を抱かれながらも、黒を管理するものとして、そしてそれまでの快適な人間生活にはもう欠かせない存在として、異常なまでに持ち上げられた。
人間か否か。
白の魔法の使い手か、否か。
わたしたちの価値は、その生まれ持ったもので決まってしまうのだ。
息がしづらい。と思った。
そしてわたしは今日も、わたしの中の漆黒をひた隠し、偽りの白として生きるのだ。