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なんか色々問題のある街だなって思うのは俺だけ?


 とある地方に行くと、モンスターの強さが上がる場所があると聞いたことがある。都会と同じモンスターが出ても力強さや素早さ、特殊環境で身につけたとみられる能力があったりと違うらしい。

 どこも似たりよったりだと思っていたが、確かに住む環境で双子や動植物が似た性格性質変化が違っていた。地球ではそれが顕著だったのを覚えている。


 そして、その地域に滞在する冒険者が必然、強い人ばかりかと問われると、当然と首を縦に振る。当たり前のことに街を守るにはモンスターを撃退しなければならない。強いモンスターにはモンスターより強い冒険者をぶつけるしかない。街に強者がいない場合は残念ながらどうなるかは各々に察せられるだろう。

 

 街には領地を守る兵士がいる。大筋人を守りたいと志す兵士なのだから心を奮い立たせて脅威に立ち向かう。

 けれど、脅威はそこに住まう人々のレベルに合わせては来ない。命を落とし、殉職する兵士がいる。だが、生き残れば必然強い兵士が誕生する。しかし、それには限度というものがある。人の命はモンスターに比べポンポン生まれないし、ましてやそこから兵士になる子たちは限られる。

 だから、こととある地方では強い兵士と新兵の二極化している。


 また、兵士がそうだから冒険者にもいえるのかと言えば少し違う。冒険者はある程度自由だ。自由があるのは低ランク冒険者であって一定の高ランクには待遇こそ良くなるがそれなりの義務がついてまわる。

 旅をするのも冒険するが冒険者ギルドの理念なのだから、なんぴとたりとも自由を侵すことはできない。お国のルールを守り義務を全うすればどこで拠点として活動するのも自由なのだ。ある程度は。


 その地方には強い冒険者か質の高い冒険者だけしかいない。よって万年人手不足なのである。しかし、質で量をカバーできる人材がいるというのも人手不足の要因だ。なんせ、一人の傑物が動けば大抵のことは解決するからだ。それをわかっているから国の上層は人を派遣しない。その分、度胸試しでやってくる冒険者が来るので、そこから手頃な原石が転がってくるように強い冒険者がその原石である冒険者を必死こいて磨くのだ。人手はないよりあったほうが断然よろしいことは必死で生き残りをかけた戦いに身を投じている自分たちが実感していることだからだ。


 同じモンスターで強さがだいぶ違ったとしても、素材の質は若干だが上がっているらしいが大筋あまり変わらないようだ。モンスターランクも同じで、都会モンスターランクと地方モンスターランクが同じなように、冒険者ランクも同じだ。都会Bランク冒険者と地方Bランク冒険者では後者の方が圧倒的に強い。

 再三言うが冒険者は自由だ。

 強いモンスターがいる地域に住み着き、どこよりも死との隣り合わせなのに強い冒険者を筆頭に冒険者たちが残り続けるのは、領主を筆頭に街全体が街を守る者を支援しているからだ。定住できるよう取り計らい素材買い取りを積極的に行い、冒険者の待遇をよくしている。

 仕事であっても毎回命懸けでモンスターに有利なフィールドにおもむいて戦うのだから街人はそれの理解を生きながら実感しているため、誠実なものが多い。冒険者も街の人も持ちつ持たれつというわけだ。鼻っ柱が伸びている向上心ある者は先達に早々と折られるため街の人は優しくしている。トップの領主が街を守っている者全てに心を砕いている。それを理解している街の人。

 だから、この地方では生き残るのに長けた人たちが住んでいるのであって、生き残るのに長けたモンスター専門家の冒険者たちがより集うのである。




 そんな地方に関心を持ったナノスはちょうどよく、気になる噂話を耳にした。

市場を練り歩いていると、どこからか気になる話が聞こえてきた。


地方

物価上昇

物資減少

魔物の行動範囲

被害状況


 それらの単語を耳にした。

 しかし、チラリと聞き耳立てる者がいることに気づいた人がもう片方に小声で何かを言うと話をやめた。

 この雑多なる市場でよく物騒な話をあけっぴろげにしていたなとよく見てみれば、話をしていた者たちの傍に目立つ道具が置いてあった。

 ナノスの方を見たきり、紫のオーラが見えなくなったので消したのだろう。周囲の喧騒も普段通り聞こえている。今までがおかしかったのだと分かった。あのような周囲の人が気づきづらい道具なんてものに興味ひかれるが、噂話は妙に具体的過ぎると感じた。

 ところどころに聞こえていた魔物の移動先だの損害がこれだけで済むだの言っていたことからして、男たちは商人で商品の相談をしていたのだろう。商人であるならばそれまでだが、言っていたことを無視できない。

 創造神ラオ様の忠告、デヴォットの勧誘、たびたび耳にする世界情勢がどれもナノスの心に語りかけてくる。


立ち向かえ


 この意に異論はない。

 だが今のナノスでは立ち向かえない。弱すぎて話にならないだろう。

 力をつけねば。今はまだやれない。準備せねば。しかるべき時に備えて、今はスキル、祝福、人脈、資金、物いろいろなことを準備する期間だ。

 今日のところは、ギルドにでも行って依頼を受けよう。

 世界対するナノスの答えはぶれない。世界のことは我が事のように思い、世界をより良くするにはどうするかだけがナノスの思考大半を占めていた。


大言言うなかれ。


 できるから選択肢がある。厳しく険しい苦楽の道だがやってやれないことはない。この世にできないことなんてないんだから。この水知らずの世界であっても救うという使命に価値を見出したのだ。天命だろう。


うぬぼれるな


 どこをどう見たってうぬぼれではなく自分自身への鼓舞だ。現段階で夢はでかいんだ。のちのち夢は小さくなる。うぬぼれはまやかしだ。


手段と目的をごちゃ混ぜにするなよ


 わかっている。今を一所懸命生きろっていうんだろう。命を懸けて今成長しろと。悔やむことなく過去から学べ感謝するのだ。

 わかっている。口すっぱく言うんだ。感謝しかないよ。忠言と嫌味は聞くものだってね。すべてにおいて力に変え感謝する。


やれるな


やれるさ、俺になら



 決意表明のような自問自答。

 するべきことやるべきことしたいこと、それらがナノスをまよわすことなく道を指し示す。


  放浪者


 ここにきてわからなかった職業の用きを感得した。この職業がナノスの行く末を照らす一筋の光となってしめす。この職業は持っているだけでは効力を発揮せず、ナノスが自問自答する形で答えた。深層意識にある無限の可能性というナノスの力を引き出すための力。迷わす全ての思考からナノスの行きたい場所へ手助けしてくれる。頼もしい友だちと共にある。ありがたい。

 職業は俺で、俺は職業。こういうことだろう。



 冒険者ギルドに良さげの依頼を手に取りいつもの受付窓口に向かう。挨拶を交わした受付嬢のレイア。

 いつも通り依頼を受けると、


「重要な話があります」


 言ってきた。


「なんですか?」


 当てがわからず良いことが悪いことかと身構えていると、


「おめでとうございます。ナノスさん、ランクアップです!」

と朗らかに言った。


「ランクアップ?GからFにランクアップってことですか」


 疑問に思うも理解がおよぶとうれしさが込み上げてくる。


「いえっ、それがですねー。ふふっ、なんと二階級昇進なんです!」

「二階級昇進?!俺死んだ!?」


 二階級昇進と言われて真っ先に浮かんだのは軍人が殉職者になられた時のあれだ。

 ナノスに予想外な受け取り方をされたレイアは落ち着かせるように話を進める。


「いえ、そうではなく、GランクからFランクに昇格ですよ。言葉が悪かったですかね?びっくりです。まさかそういった捉え方をされるとは思いませんでした。慣れないことをするものではありませんね」


 今日のテンションは無理していたらしく、少ししょんぼりしていつもの様子に戻っていた。

 慶事だったから陽気に振舞おうとしたレイアの思いを察し、早とちりして心遣いをむげにしたナノスは申し訳なく思った。


「なんか申し訳ないですね。うん、昇格ですか。うれしいですね」

「そう昇格なんです。では仕切り直してご説明しますよっ」


 どこかまだハイテンションが抜けきらないレイア。

 すると、ゴホンと隣の受付から咳払いが聞こえた。

 注意を引く咳払いにナノスとレイアは隣を見ると、ケッと今にも唾を飛ばしそうな冒険者とキラキラした目で見るいつかの新人受付嬢がいた。

 ナノスは謝罪をレイアは顔を赤らめて早口で謝罪を言っていた。返ってきたのは、舌打ちと高まる目の輝き。

 いたたまれなくなったナノスとレイアはいそいそと業務連絡のように事務的にして早めていった。


 

 ランクアップでFランクの依頼を受けれたが、レイアの地道に依頼をこなしていった方が良いという言葉を受けて、受ける予定だった依頼をすることにしたナノスは、西門の衛兵の交番のようなところに明日の朝向かうことにした。




◇◇


 昨日それなりの準備を済ませたナノスは、西門に来ていた。

 衛兵の詰めどころはどこだと周りを見ると、それらしき衛兵が立っているのを見つけ、入り口の横に立っている衛兵に声をかけた。


「こんにちは。冒険者ギルドで依頼を受けたものですが…あの?」

「…」


 反応なし。瞬きひとつしないや。

 微動だにしない衛兵を見つめていると詰めどころの中から声がかかった。

 声がした方を見ると、中から近づいてくる男がいた。瞬きひとつしない衛兵の同僚か。軽装だが、同じ服を着ている。


「どうかしたか?」


 吹き抜けの玄関に止まってナノスを伺う軽装の衛兵。その際も横に立つ衛兵は身じろぎ一つしない。知らなかった。何回か詰めどころの前を通っていてこんなおもしろ衛兵の存在を見逃していたなんてと、ナノスは衝撃を受けるがそれはそれとして、衛兵に冒険者ギルドの依頼を受けて来ましたと言って依頼表とギルドカードを見せた。


「んー?ああ!あれね、はいはい。数ヶ月前に冒険者ギルドに依頼したは良いが誰も来ないやつな。今ちょうど罰としてやっているやつな」


 と、うんうんわかってすっきりした顔を見せる衛兵。

 罰とはなんだ?


「ジョー君ね。この依頼ドブさらいだけど、うちのがやっても終わらないんだ。君もやるの?数ヶ月塩漬けされてたやつだろ。泥臭い仕事やるのか」

「はい、ドブさらいがどれほどのものかはわかりませんが、やるからには一所懸命やらせていただきます」

「そうか。今から行くところだったんだ。ついて来て。今やっている奴がちゃんとやっているか抜き打ちで確かめようと思ってたんでね」


 イタズラする小僧っ子の顔を見せて笑う衛兵は楽しそうだ。

 依頼を受ける人が来るのは期待してなかったようだな。


 上着をとってくると言って奥へ向かう。あっと発したと思ったら衛兵は立ち止まり向き直り言った。


「来てくれてありがとう。通常業務が忙しくなったんでな、助かるよ。俺の名はレオン。レオンと呼んでくれ」


 律儀だ。どこかかっこいい。


 奥へ向かう背にナノスは「ナノス・ジョーです、よろしくお願いします!」と声を掛けると、「おう、よろしく」とチラリと肩越しに目を向けて奥へ去っていった。

 レオンという衛兵が奥へ行ったのを見送り、ナノスは横目で詰めどころの横に立つ衛兵をレオンが出てくるまで飽きずに見ていた。



「待たせたな。じゃあ、行くか。すぐそこたからな。時間はそうかからない。ボグにも頼んだがベン・ザブロック頼むぞ」

 

 と言って、スタスタ返事を待たず歩いて行った。

 ナノスはそれどころではない。

 ベンザブロック?ベンザブロック?!と聞き覚えのある名称が飛び出してびっくりしていた。

 ナノスがついて来ていないのに気づけば「何している、いくぞ」と声がかかる。


「驚いたか?」


 ナノスが横に来たのを見計らってレオンは言った。


「え?」


 ナノスは何のことかわからずまばたきした。考えてもわからず、続きを促すようにレオンを見た。


「ベンの奴動かないだろ?誰に対してもああだ。結構苦情が来る。愛想がないどうにかしろと。そん時は丁寧に接してヘコヘコ善処しますって言って頭下げるんだがな、俺が。俺があいつの上司だから庇うんだが、あいつの役目は有事の際の治安活動だ。腕っぷしは小さい詰めどころにいても腐るほど強いんだ。本来なら近衛とか騎士になっている奴なんだが、無口で無愛想が問題だと言ってここに来てんだ。瞬きしないだろ?怖いらしい。無口だし、大男だし、物怖じしないジョーを見てこいつすげぇなって思ったぞ。俺はちょいビビりって奴な。でな、ベンの役目は治安を守ることに特化している。衛兵の中であいつが一番強い。ここだけの話な。他の門の奴が文句を言ってくる。特に東門の連中はお高く止まってやがるから出会ったら注意しといて損はないぞ」


 ベンは衛兵で一番強い。メモメモ。


「そういうことで、ベンの奴には今日のように挨拶してやってほしい。あれでも初対面の人が怖がらず挨拶してくれたことに喜んでたんだぜ」

 とからっと笑う。


 わからなかった。微動だにしないし、人の形をした作り物かと思った。どのくらい強いのだろう?嫌われてないなら良いんだ。また会った時も挨拶しておこう。

 衛兵のレオン。なんか二つ名がついてそうな人。ちゃんと部下を見てそうな感じかひしひしする。ベンのことを語ってた時はいきいきとしていた。頼れる兄貴的上司のようだ。


 ナノスは気になっていた腕章のような物を巻いているのを聞いた。


「レオンさんの腕章はどういう意味なんですか?」

「これか?これは指揮官が持つ衛兵長の腕章と言ってな、西門で一番の権限を持つものの証だ。有事の際には西地区の治安維持の全権を担うことになっている。責任者は重大だな。ははっ、もちろん現場指揮だけだ。動かせるのは西地区にいる衛兵だ。騎士が来れば騎士が対応するだろう。誰が担っても良い。民の安全を守るのが一番優先だ」


 そう言ったレオンは腕章に触れて誇らしげだった。





 西門から離れたところに来たナノスたち。

 着いた場所は街の中とは思えないほどの汚水泥水が大きな水溜まりのようになっていて、城壁際で山盛りになっている土砂があった。


 建物からの排水。

 坂から流れてくる水。

 古ぼけた石畳の坂から流れる泥水。

 それらが集まり勢いを増して城壁にぶち当たり土と泥を積み上げている。その周りを泥水が溜まっていて、酷いところは水かさが高く建物を侵食している。総合して現場は3K(きつい、汚い、危険)だ。


 そんな3K現場の近くに一人、青年がスコップを脇に置いて座っていた。


「おいスワン、さぼりか?」


 レオンは呆れた口調で言った。しかるのかと思ったが、口元はニヤついている。

 大事にしなさそうなのを見て、ナノスは様子を伺うことにする。


「げっレオン隊長!いや、しっかりやっていますよ。今ちょうど休憩つーかなんつーか」


 ぎくりとしてバレたマズイって表情をしている人が何か言っている。休憩中ならやましいことないのように堂々しているものだが、こんな見え見えのとり繕う様子が面白い。


「サボってんのはバレてんだよ。素直な奴がよ、まったく一人にすればこれかよ、先が思いやられるぜ」

「いや、十分働いていましたよ!ほらあの一角」


 と、指差した方を見てみると、確かに土嚢のような袋がいくつか置かれている。中身は状況見るに土だろう。


「む、そうか一応は働いているか。よし、そんな働き者スワンに朗報だ。助っ人が来たぞ」

「ベンですか?」

「いや違う、ほら前に冒険者ギルドに依頼したろ?その依頼で来た強者だぞ。期待できるな」

「そいつですか?」

「そうだ。ナノス・ジョー君だ。Gランクだが、あの埋もれていた依頼の中から来た強者だ」

「二度言うんすね」

「ああ、大事だからな」 

「…まだガキじゃないっすか」

「むっ失礼過ぎるぞ。外見で判断するなと何度も言っているだろう」


 スワンの助っ人どうの言った時の期待した目がナノスを見て気分下落、レオンの紹介を聞けばジト目で呆れている。コロコロ表情が変わる人だが素直な人。レオンはきっとこのやりとりを気にっているな。


「ナノス・ジョーです。Gランクですが強さはこの依頼に関係ないと思います。汚れ仕事は得意ですのでどうかご指導のほどよろしくお願いします」


 とナノスが頭を下げれば、はんっと鼻で笑う声がした。

 頭を上げれば、そっぽを向いているスワンとそんなスワンに睨みを効かせているレオン。頭下げている間何があったのかわからないが、あまり効果がなかったようだ。


「すまんな。ジョー君。スワンは今日担当区域から外されて拗ねているんだ」

「レオン隊長!」

「…悪い奴じゃないんだ。ああいう風なのは育て親がいないから」

「レオン隊長!!」

「今の悪かった。兄弟がいるんでああ見えて面倒みがいい。頼ってやってくれなんだかんだ言いながら答えてくれる。スワン!お前はジョー君を任すぞ。どうすればいいか色々教えてやってくれ。できるな?」


 と声を大きくしてスワンに呼び掛ければ起立して返事をした。

 それを見たレオンは満足そうにして頷いた。


「ではジョー君。力仕事大変だろうが頑張ってくれ。何かあればスワンに言ってくれ。俺でもいい。詰めどころの方で仕事しているから何かあったら報告してくれ。終えたら俺のところに来てくれ。サインする」


 そう言って去っていくレオンを見送る。

 姿が見えなくなるとスワンは気をつけを解いてだらけた。


「あーだる」


 ダメそうな大人の見本だ。いや、スワンにとって休憩中の出来事だったからしてまだ休憩しているのだろう。


「スワンさん、俺は何をしたら良いでしょう。指示をいただけますか?」

「…仕方ねぇな。教えてやる。よく聞けよ?」


 と言って座って指差した。

 指す方をたどれば泥の山。


「あの泥を袋に入れる以上。泥んところ、泥水が広がっているところは思った以上に深い。気をつけろ。ほら見ろ、膝まで使っているだろ」


 とスワンは自分のズボンをバッサバッサと掴み弾くようにして見せた。

 ビチャビチャと音がして水滴は水溜まりに落ちて波紋を広げていく。


 ナノスはそれを見て思った。服装整えないと寒くなるだろう。ここは日がささない場所だ。


「冷たくないんですか?」

「あ?」

「ズボンびしょびしょですよ、冷たいのでは?」

「何言ってんだ。こんなんすぐ乾く。それに俺は軟弱じゃねぇ」


 お前と一緒にするなと睨め付けられた。

 そういう問題ではないんだが。健康なのはとてもいいことだ。だが、風邪を引けば休まなければならず兵士に空きが出るだろう。杜撰な自己管理は問題ではないかと思ったが、これも学びかとこれ以上考えることをやめた。

 そうは言ってもナノスは濡れて気分を下げたくないし、昨日準備していたものが役立ちそうなのを感じて、少し時間をもらって装備を整えてこようと思う。


「準備してきた装備を取りに行きたいので少し出かけます。なるべく時間かけないので!」


 ナノスはスワンに言って買いに出かける。後ろから呼びかける声があったが走る速度を上げて振り切った。




 ナノスが去りだいぶ時間が経った。スワンの我慢が限界に近づいていた。


「はあ、なんで俺一人。あいつどこまでどこ行ってんだよ。まさかバックれたか?依頼失敗にしてやろう、当然だな」

となにやらブツブツ言っている様子。



「お待たせしました」


 とスワンの後ろから声がかかる。聞き覚えのある声にやっと帰ってきたかと振り向けば、何やら奇抜な格好をして立っているナノスがいた。

 厳しく言おうと思っていた言葉が出てこず、代わりに服装を酷評する。


「なんだ?その格好。似合わねぇよ」


 上下が一続きになった格好で全身を保護し、動きやすさを追求した機能的な服装。

 つなぎ服。


「そうですか?変ですか。便利な服ですよ」


 ふーん、でかわされた。


「てか、おっせーよ。どこまで行っていたんだ」

「近くの行きつけの店なんですけど、ごめんなさい。店員さんに捕まってたんです。急ぎ対応をしてもらったんですけど、なかなか離されず。今からやるので、あとは任せてください」


 そう言ってナノスはジャバジャバと豪快に音を立てて汚れ気にせず泥水の中を進んでいく。


「うん、良い感じ。撥水性のある素材にしてもらってよかった。あ、スワンさんスコップ借りますよ」


 スコップを手に取り泥をすくい袋に入れていく。


「…」


 スワンはそんなナノスを無言で見ている。驚いて声も出ないか。

 泥水が服にかかっているのだがお構いなしに泥を袋に入れていく。ひざ下まで泥水で浸かっていても不快感がなさそうだ。動きやすそうで快適みたいだ。現にナノスの顔が嬉々として笑っている。


「おーい。ちょっとナノスくん、ちょっとこっちにこようか」

「?はい、なんでしょう」


 振り返り、手招きしているスワンの元へバシャバシャと豪快に歩いていく。こっちまで水しぶきが飛んできそうな感じがして両足揃えて向きを変えた。流石に徐々に歩幅を落としていたからかからなかった。


「どうしました?」

「いや、お前がどうした。その服どうした?」


 ナノスの疑問に思うことに焦れたように服装について聞いた。


「これですか?急ぎで作ってもらったツナギ服っていうんですけど、中に水が入らない動きやすい防水性ある服ですね。ある程度汚い、きついところでの作業に向いてますね。ほら、濡れてないです」


 サスペンダーのような肩紐を解いて服や靴を脱いで見せた。

 確かに濡れていない。湿気っているが汗とかだろう。

 スワンは真面目な顔でたずねた。


「これどこで売ってる?」

「え?これですか?えーと、売り物ではないですね。まだ」

「まだ?」




 実はですねーーー、とナノスは先ほどあった出来事を語る。


「こんにちは、いらっしゃいませ。ナノスさん、先日は母のお茶会にお付き合いくださりありがとうございました」

「バリエルさん、こんにちは。いいえ、こちらこそ楽しませていただきました」


 直行したのはいつものお店。入ればすぐにナノスに気づいた店員、いや商会長のバリエルが接近して来た。


「とても喜んでいて、母は少し前から元気がなかったんですが大層嬉しそうで、屋敷も活き活きして驚きましたよ…と、何やら急ぎのご様子。何をお探しですか?」


 ナノスが急いでいるのを察したのか、切り上げた。

相手の機敏を察するのはすごいなと思ったが、挨拶もそこそこに要件を伝える。


「これからドブさらいの仕事をするのですが、こうね、水が入らず体が濡れない作業着はありますか?下半身が濡れないものなんですけど」


 身振り手振りをして、なんとかつなぎ服の形を想像しながら伝える。


「水、ドフさらい、作業着、体、下半身が濡れない構造の服ですか…申し訳ありません。当店ではそのような作業着なるものはお取り扱いしておりません。見たことも聞いたことも。よろしければナノスさんの想像されているその作業着をもっと詳しく教えていただけますか?お願いします」


 後半の言葉に熱が入っていたのは気のせいだろうか。心なしか目もギラついている気がする。店員さん、いや商会長の目がするどい。琴線に触れたか。

確かにつなぎ服は主に水場で作業するものにとって重宝されてたもの。いつぞやのTVで池の水を抜く特番やレンコン農家の収穫の際に見たことがある。そういったことをドブさらいや汚物のようなところと伝わるものに例えて説明した。

 そしたら、聞き終わるやこちらでお待ちください。すぐ、人を連れてくるのでと言って個室に案内されたのでしばらく待つことに。


 言った通りすぐ戻ってきた。

 バリエルが若い青年を引きづって。以外な一面を見た。穏やかで優しい人だと思っていたが、人を引っ張る強引なところがあるようだ。親しい仲なのか。違う一面を見てもナノスにとっては良い人という印象は変わらない。人は違う一面を持っている。多角面を無数に合わせ持つので一面を見てふーんそうなんかと思い観察するだけに終わらせ、引き続き一捉え方に縛られることなく、人の良いところ悪いところ見聞きしたのなら自身の癖を直す機会だと気づき改善しなければならない。


「お待たせしました。この子は息子のハーレイです。ハーレイは服飾師です。つい最近弟子から服飾師になったばかりですが、基礎はあるでしょう」

「ハーレイです。よろしくお願いします」


 ナノスも挨拶をし、二人は席に着く。

 こうして見ると目元が父親に似ている。


「不勉強で申し訳ありません。服飾師とはどういったことをされていらっしゃるのですか?」


 今から型を作るのだろうか。もし時間かかりそうなので後日にして欲しいのだが。


「そうですね、簡単に言えば魔法で服を再現することのできる人です。先ほどの話を詳しくお願いします。ハーレイに作ってもらった方が良さそうなので」

「わかりました。ではーーー撥水性が高いです。以上です」


 つなぎ服の利便性、構造、用途、素材、絵を描いて親子に伝える。


「どうだ、できそうか?」

「やってみる」


 ナノスが描いた絵をハーレイが型紙に落とし込み、素材を選んでいく。

 これがいいかあれがいいかと頭を突き合わせてものを、これから形にするようだ。

 魔法で服を作るとはどういう風するのかワクワクして待った。

 魔法は願い。こう作りたい、こうしたいという願望が形となって現れる。思い始めて形作れる。その実態を目の当たりする。


「はじめます」


 ハーレイの手が発光した。目に優しい光。柔らかな波動がハーレイの体から現れ波動はハーレイの手に集中していき、手のひらをかざす机の上に形作った。

 ハーレイは深く息を吐いた。

 目の前にあるのはつなぎ服。


「できたか、どれどれ…どうでしょうナノスさん。これで合ってますか?」


 バリエルは率先して光から現れたつなぎ服を手に取った。裏表ひっくり返し見ると、ナノスに手渡す。

 折ったり引っ張ったり出来栄えを眺める。魔法は素晴らしい。素材と魔法、知識で作られた服を見て感動だ。いそいそとつなぎ服を着るナノスにバリエルが聞く。


「つなぎ服と言いましたか。これは素晴らしいですよ。実用性の塊。水場、漁師などは大変助かると思います。あとは撥水性を確かめて、もしナノスがよければ商品にできればいいと思います。どうですか?」


 バリエルはいたくつなぎ服を褒めて実用化したいようだ。そんな父を見るとハーレイは席を立った。

利に聡い商人。

 ナノスからすればどうぞご自由にだ。つなぎ服は地球にあった物、それを伝えただけだから誇れることではない。なかったから生んだだけ。むしろ生んでくれてありがとうございます。だから言ってやった。


「どうぞご自由に。このつなぎ服一着あればいいので、好きにしてくださって構いませんよ。この服のアイデアは俺だけのものではないので」


 ナノスが考えついたものではないし、このつなぎ服の権利をどうのこうの主張するなどおこがましく恥ずかしい。それに面倒というか商売とかわからない。このつなぎ服を知っている人からすれば自分の手柄じゃないのに恥ずかしいやつだろう。もしくは権利を主張する子どもだねうんうんと親目線で見られかねん。

 というのも、世に出ている物は全て個人が思いついて形にしても自分だけのものじゃないと思うんだ。発信する役目をその個人が選び取ったのであって、人から発想をもらっている。過去未来こうしたものがあったらいいなという思いで形作るのは本当にら自分だけで作ったと言えるだろうか。成功している人たちが周囲のおかげといのもそういうことだろう。誰かしら繋がりあっているし、今回のつなぎ服だって異世界の発想だ。これから発展して形が変わっていくだろう。どこからどこまで権利を主張するのか、皆んなのものとして共有するのか。課題は多い。より良い世界を作るに、すべての人が好きを追求できる世界が素晴らしいだろう。


 ナノスがそう思っているうちにハーレイが帰ってきた。桶とタオルを持っている。桶の中身は水か。


「ナノスさん。そうは言ってもですね」

「特に必要ありません。必要な方に譲ってください。俺は必要な分のお金があればいいんです」


 キッパリと権利を拒否した。

 それを見たバリエルはナノスがお金に執着があるのを感じ取った。お金を悪きもののような偏見。お金に偏った思いを持つ人に何を言ってもよく思われない。かえって逆効果。難問だ。だが、自分は商人、理を諭すのはお手のもの。


「ではこうしましょう。私がナノスさんに相場通りのお金をお支払いします。そこから先はナノスさんの自由です。お金を捨てるも寄付するもパーっと使うのも。私は世間に公平だと伝えたいのです。私がアイデアをもらい対価を渡す。これはいいですね?この国の法でそうなってますから。ここにナノスさんの背景は関係ありません。他人から得た発想でもやったもん勝ちなんです。選ばれるには選ばれるだけの理由があるんです。ナノスが選ばれたのは理由があるはずなんです。真っ当な権利を受け取る人が受け取らないと報われません。私はナノスさんに報われて欲しいのです。受け取ってください」


 そう真摯に言われたナノスは胸を打たれた。

 お金対する偏見があったのは認める。好き勝手振る舞う権力者にはうんざりだし、無意味なことに散財するお金持ちには馬鹿にした態度があった。

 だが言われて、バリエルのことを尊敬しているなら真っ当な金持ちがいるというのも事実。コラーデン家は裕福でも万民のためという雰囲気があった。

 偏見を手放す時だなと悟る。そう思えば、清々しい気持ちだ。心が軽くなった気がする。これから少しずつ偏見は無くなっていくだろう。

 その流れでナノスはバリエルが支払う金額を了承し、あれこれつなぎ服の確認をした。




ーー最後部分を抜いて話終わる。

「ふーん、商品になるまで結構時間かかりそうだな」


と言いスワンは立ち上がる。


「ええっですからっ今待ちの状態ですかねっとふっーー…ん?あれ?これ言ってもよかったんでしたっけ?」


 スコップで泥をすくい袋に入れて、ふうっと息を吐いてつぶやいた。


「さあなっ明言されていない話だっどうとでも言えるだろっと商品にならなければ嘘吐きになっちまうけどなっ」


 ナノスのつぶやきが聞こえたのか、へっとスワンはナノスと同じ作業をしながら続ける。


「それ本当に水弾いてんのな」


 スコップの持ち手に肘を置いてなのを見やる。

 スワンよりも勢いよく動きが軽やか。泥水を跳ねさせ下半身にかかっているが撥水性抜群のようだ。

 他人の物を羨ましく思ってしまったスワンは首を振って作業に戻る。


 いくつも袋を積み上げしばらく無言で作業した。

 黙々とする作業中、ふと気になったことができた。


「スワンさんひとつ聞いていいですか」

「…なんだ」

「今回の依頼なんですが、数ヶ月前から出してますよね?この地域はずっとこんな状態なんですか?」


 辺りを見る。今も晴れの日にも関わらず坂から水が流れてくる。


 「ああ、この辺は雨が降るといつも溜まる。街の中央から城壁側になだらかな坂になっているだろ?少し上の坂でいくつかの道が合流してここに溜まってくる。排水が悪いのかどうかわからねぇが、キリがねぇな」

「そうなんですね」

「隊長が上に掛け合っているがダメらしい。お偉いさんは現場をしらねぇからな。知ろうともしねぇけど。のらりくらりとかわして、うちの経費でやれとか、予算カツカツなのをわかって言ってんだ。それにそんな時間ねぇよ。仕事溜まってんのによぉ」


 それはそうだろう。衛兵の仕事は治安維持だ。常習化している問題は国をあげて取り扱うべき案件。でなければ税金は湯水の如く消えていく。問題を持ち越し長期化すれば、ずるずると問題が膨れ上がりその問題に肉付けされるように難問になって対処しきれないことになり起きてからではすでに遅い。すでに現場で起きていることだから、なぜ言わなかったと言われても誰もが困るもの。それに煽られ辞職や環境が変わるのは仕方なきこと。

 それがわかっているし、どうにかしたいと訴えているのだが芳しくないようだ。


 そうこうしているうちに成果が。泥の終わりが見えてきた。


「うっし、これで終わり」


 立派な土嚢壁が完成している。人がしゃがみ込んで身を隠せるほどの高さと長さになった。


「ご苦労さん、スワンにナノス」


 後ろから声がして振り返れば衛兵のレオンがいた。


「うっす。隊長、いつからそこに?」

「ついさっきだ。感心したぞ。スワンがちゃんと仕事してる偉いぞ」

「…うっす」

 

 褒められて照れている。


「ナノスもお疲れさん。これ以上なくやってくれた。サインいるだろう?依頼はこれで終わりだからサインするぞ」


 そう言われたナノスは依頼書を差し出す。

 

「よし、これで依頼終了。ありがとうな」

「ありがとうございました」

 

 なかなかの肉体労働をした。明日は少し筋肉痛になるかもしれん。気の巡りを強化する訓練を密かにやっていたためにそこまで痛みが出ないと思うが、帰ったらマッサージでもやるか。

 一つ気になったことを報告した。レオンには上に掛け合ってみるがダメだろうなとか言っていたから難しいだろうな。地盤沈下は結構な問題だろうに。まあ、上には報告するって言っていたし、レオンたちも怒られることはないだろう。対応しなかったのは上の責任ってことで。

 

 

 西通りを歩くナノス。

 この日はぶらぶらと市場を練り歩く日。天気も人の陽気も快調。店売りを流し見しながら行き交う人の間を抜けて、裏通りに入る。

 先日、裏通りのマニアックな道具屋が面白いかったんで道具屋さんに向かうのだが、道端に袋が落ちていた。

 なぜだか目についた袋。なにもなさそうな袋に見える。道端に何かしら落ちているのはまれにあるので珍しいことではないのだが、どうも近づくとこの袋、ぞわぞわする。

 見た目ただの袋のはずなのに、得体の知れない袋に見える。触ったらもっとぞわぞわすることだろう。

 とはいえ見つけた以上、落とし物は交番に届けるのが地球だったが、ここは異世界。詰めどころに行くか。冒険者ギルドに行って預けるか。こっからだと冒険者ギルドが近いから、落とし物を拾った場合のことをレイアにたずねるついでに袋を渡すことにしよう。

 うひゃ〜。触ると黒板を引っ掻いた時のぞわぞわがきた。早く渡そう。


 



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