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鍛冶屋 小さい人

 鍛冶屋の奥薄暗く、ゆらゆら揺れる明るい色が壁に写り、一時も休むことなく影と光の変化をつけている。

 壁にはさまざまな道具が吊るされていて、アームキャッチャーのような鉄道具、トンカチなどかけてある。

 野晒しにさらされた地面は、踏み固められ幾重にも通り過ぎていったことだろう。岩のように硬い。そこ地面にキラキラと粒が反射している。


 静かさの中、燃え盛る火が明るい場所から見える。

 冷所涼しく感じていれば、時折波のように温風がナノスの肌をなで通っていく。


 ちらりと汗をかくナノスは鍛冶場で人と対面していた。

 ナノスの目の前にいる人は、ナノスの胸あたりの身長の人。小さな人は、自身の背丈ほどあるカナヅチを肩に置いて、言い放った。


 「なっでぇい、ラビっ子のやつが言ってたやつか。帰れと普段なら言うが、やつの紹介だ。作ってやる」

 と呆れながらジト目でガンづける小さい人。


 「ありがとうございます」

 「おうよ。感謝しろ。で、どんなものがほしいんじゃ?」



 王都に戻り、ギルドで薬草を納品して市場をぶらぶら。昼ごはんを食べて「ラビの紹介だ」と言ったら、これだった。

 小さい人の声は大きい。普段からそうなのだろう。不機嫌そうな顔をして待っているが、ラビが紹介する人だ、これがデフォルトで癖になっているのだろう。

 

 武器をどんなのにするか一応これと決めてきたものがある。

 「じゃあ、素材はミスリルで。腕くらいの長さの刃物を。解体もいける刃物が良いですね。できますか?」

 とナノスはこれくらいはいけるかなという。

 すると、ぷるぷる震える小さな人。髭もじゃの小さな人がぷるぷる身体を震わせる。

 そんなに感情を揺さぶる何かがあったのかとナノスは心配になった。


 「あの・・・大丈夫ですか?具合が悪いんですか?」

 とナノスは小さな人の顔をうかがおうと、俯いている小さな人のそばで屈んで見ようとする。

 だが、次の瞬間ガバっと勢いよく顔を上げたかと思うと、言い放った。


 「おめぇ舐めてんのか!!?ミスリルで解体刃物兼用の武器だと?できるに決まってるだろうがよ!」


 ナノスはきーーんという音と共に軽い立ちくらみに襲われた。

 大きな声がちょうどナノスの耳あたりで叫ばれたために起こったこと。最初の部分できーーんがこだましたから聞こえなかった。

 この人にナノスはいらっときた。


 「だいたいなんじゃ。解体と兼用の武器じゃて?どんだけものぐさなんじゃ。じゃが、それが身を守るのに支障がなければ有用よな。荷が減る。もちろん、ちょくちょく手入れしなければすぐに使い物にならなくなるぞ」

 小さな人は平静な声で言う。それでも大きい声だ。

 いまだにきーーんという音がするナノス。

 とにかく何か言わなきゃと思えば、思いを口にする。


 「ミスリルじゃなくてもいいんです。折れず曲がらず錆びずできれば斬れ味を特化できれば、俺の方で撫で切るので。俺の戦い方は基本カウンターです。一撃離脱を繰り返す、一撃一撃重い一撃というより、軽い風、かまいたちのような斬撃を刻むことを想定してます。スパッと切れればいいんですけど、得物がついてこれないのもなぁ」

 と最後はゴニョゴニョと濁してしまう。

 ナノスの想像している武器は刀。その中でも小刀という脇差しとは違い、太刀の短い方が小太刀。腕はどの長さの物が理想なのだが、これで解体もとなると無理じゃないかと今更ながら知る。

 阿呆極まれりだが、冒険者の武器は合わないように感じたために、最悪解体用は別にするかとナノスは思案する。


 冒険者を見るも直剣が多い。叩いて斬る感じが合ってない。そんなに筋力ないよ。

 そんな考えていた矢先に、全身が震え上がるかのような錯覚をした。


 「ケンカ売ってんのか己は!わしにできん物はありはせんのじゃ。ミスリルでも黒曜石でもやったらぁ!」

 

 まったく大きな声だ。

 身がすくんでいたのをほぐすナノスは、なぜだかやる気が満ちている背中をわけもわからず見送る。


 とりあえず作ってくれることはわかった。

 ナノスはお礼を言い、いくらするのかと奥へ向かう小さな背中に問いかける。


 「小金一枚でいい。できるまで三日かかる」

 「わかりました。ここに置いておきます」

 

 台の上に金を置いて、ナノスはその場を後にした。


 小さい人、ガハナンスは金を手に取りじっと見つめた。


 「わしでええんじゃな」


 誰に言おうと自分しかいない場所で自分に言い聞かせているようであった。


 


◇ガハナンスとラビの回想


「ガハナンス?いる?」


 勝手知ったる我が家並みにラビは鍛冶場へ入っていく。

 

 「なんじゃ?ラビ、見ての通り忙しい。出ていくがいい」


 ガハナンスはチラリと横目でラビが来たことを視認すると、炉に石炭を投げ入れた。


 そんなガハナンスをジト目で見て、

 「あら、いいのかしら。そんな態度をとって。あなた、私に借りがあること忘れたんじゃないでしょうね」

 と言う。

 借り。

 その言葉にピクリとスコップで取ろうとした石炭がすくえなかった。しかし、ガハナンスはガシュと音を立てて石炭をすくう。

 

 「わしがやらなければならないものなのか」


 ラビにはピンときた。なぜそんな疑問を問いかけるのかを。

 本来ならガハナンスはガハハと笑いながら依頼を引き受ける。

 いつからか思うように腕を振るうことができず、すっかり参ってしまっている。

 鍛治についてはわからない。

 だが、職人の立ちはだかる壁が存在する。いつも通りやればいいが通用しなくなる時がある。小細工やちょっとの工夫では越えられない。そんなちょろこい壁ではない。

 壁は成長した自分自身なのだ。

 必ず今持てる全てを持って向き合えばその壁は自分自身になる。

 

 人脈、技術、身体能力色々な要素全てが力だ。


 人には他者を助けたい欲がある。よろこびとでもいうのか。一所懸命、もがいて一本一本鉄に命を吹き込む友人の背を見てきた。

 この人が報われて欲しい。手助けをしたい。

 そう思った人は、きっかけに過ぎない。本人が繋いだ要素だ。

 その手を取るかどうかを選択、決めるのはいつだって本人なのだ。


 「あなたに頼みたいことがあるの。冒険者の初心者なんだけど、その人の武器を作ってくれないかしら?」

 と友人の武器を頼んだ。


 目の前にいる友人を立ち直らせたい。

 ナノス、立ち直らせる口実にしてしまうことを許して欲しい。

 そのかわりに、ガハナンスならばできる最高傑作を作り上げてくれると信じている。だから良い武器を期待しててとつぶやいていた。



 そんなこともあってガハナンスはナノスの武器依頼を引き受けた。ラビが焚き付けて売り言葉に買い言葉で見え透いた挑発にのってしまった。約束を無かったことにするのはガハナンスにはあり得ない。腕がないですと言っているようなもの。だから、要望は叶えなければならない。

 しかし、予想外にナノスの挑戦的な要望に感が刺激された。

 今猛烈に鉄を打ちたい衝動に駆られている。


 早く奥にこもり鉄を打たねばと湧き立つ気力に燃料を投下するように石炭を炉に投げ入れる。


 ラビには少し感謝せねばならんな。

 ラビには口で買った試しがないのでいつも通りむしゃくしゃしてついナノスに当たってしまった。

 次は優しくしようと思う。

 それに、ラビには良い武器を作って驚かしてみせると息巻く。


 そうガハナンスは思っているがラビは貸しとか興味がない。ナノスの武器とガハナンスの復調ができれば一石二鳥。そんな感覚なので、ラビの手のひらで転がされているガハナンスは武器を作るためにいそしんでいる。

 誰かが不幸になるどころか、誰もが幸せであれるように尽くすことを陰ながら誰がやっているのかも知れない。

 


 




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