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23.空にいる私が書くのだ友と共にな

 

 朝日の光を浴びて目が覚めた。

 爽やかな朝だ。一番寒い早朝を過ぎた時間帯だが、少し湿気っていて空気がひんやりとしている。

 

 「おはよう」


 窓辺に立ち窓を開けて朝日を拝む。

 息を吸って吐いて、とても空気がおいしい。

 日当たりの良い部屋でよかった。割り当てられた部屋に風が通るのを感じつつ、感謝が心に満たされていくのを感じる。


 今日は何をしようか。

 薬草採取、憎たらしいヴォーバルバニーに再戦か、武器屋で新調するか。悩むな。

 うーん。

 朝食で決めるか。それが良い。

 知ってる料理だったら薬草採取、知らない料理だったら武器を先に回ることにしよう。


 「ごはんごはん」


 ドアを開け、階段を下りる。

 朝早いがすでに良い匂いを漂わせて女将家族は働いている。ありがたいことだ。

 

 「おはようございます。朝食いいですか?」


 「ナノスさんおはようございます。えーと…主食がまだできてないようです。あと少ししたらできるみたいなので、今しばらくお待ちいただいてもいいですか」


 女将は厨房を覗き見ていくつか言葉を交わすと、ナノスに振り返りそう言った。

 

 「もちろんです。いつもおいしい料理と宿をありがとうございます」


 「いーえ、こちらこそいつもおいしく食べてくださりありがとうございますね。お好きな場所で待っていてください」

 

 と微笑みながら言って、パタパタと厨房内へ入って行った。

 

 女将を見送り、ナノスはいつもの場所に座る。

 初めて泊まった時に食事した場所を気に入って今では定位置になっている。

 日当たりよく、風が時折吹いて気持ちいい風が流れる場所だから気に入っている。あと、外の景色を観ながら食べるごはんは最高に美味い。

 店内に花や植物を植えた植木鉢が置いてあるのもいい。自然や緑はゆったりした空間を演出してくれる。

 裏側に行けば、運良く旅人などの馬がいたり、芝生の上に何か動物がいたりするからとてもこの宿は居心地がいい。家を持ったら、こんな家がいいなとかこんな所をマネしたいなどと想像することができてとてもワクワクする。

 

 ウキウキであれがいいこれもいいと妄想で家を形作っていると、良い匂いが現実に呼び戻す。

 小一時間、妄想に費やしていたようで、外も人通りが増え、食事処に宿泊客が思い思いの席に座っている。

 もうそろそろできるだろう。はぁ〜楽しみだ。とても良い匂いがナノスのお腹を刺激してきて、ついに腹の虫が鳴った。


 ぐぅ〜〜


 空きっ腹に良い匂いは効くゼェと言わんばかりにお腹がなった。一度鳴ったら二度三度鳴ってまさに腹の虫が治らなくなってしまう。

 誰だって空腹を感じている時好きな料理の匂いを嗅げば腹が鳴るさ。そこに老若男女問わず。関係ないぞと念じて今腹鳴りの君は同志よと、ナノスは他の誰かに語りかけるように思ってみる。

 

 目をつぶってムンムン念じていると、良い匂いが風に揺られて運ばれてきた。来た!料理が来たぞ!

 今日の気分も絶好調だ。


 ようやっとここで目を開けるナノス。ここまで全てが妄想だった。


 「お待たせしました。今日の具沢山虎汁朝食セット笑お持ちしました。熱いので気つけてお召し上がりください。では、ごゆっくりどうぞー」


 女将が配膳してくれたらしい。次に行く女将の背にありがとうございますと感謝の言葉を届けて、今日の朝食を見る。

 運ばれてきた具沢山虎汁朝食セットがこちら。


 パン、サラダ、デデデの肉、知ってる匂いの汁物。



 匂いは豚汁に似てる。ホカホカ酵母パン、てんこ盛り色とりどりサラダ、肉の生姜焼き。

 とても美味しそうですと菩薩のような表情と雰囲気で言祝ぐ。

 

 「いただきます…ずずっ…(豚汁だー)」


 ほっこり心が満たされる感覚は懐かしさを覚える。

 豚汁だ。具沢山の野菜の出汁が五臓六腑に沁み渡り、昆布とカツオ海の沖で獲れた出汁にトロなんとかの肉肉しい存在感。完璧な調和がここにあった。あと、味噌があるのを初めて知った。

 美味い、美味いぞぉーー!!


 「あっナノスさん、虎汁はおかわり自由ですので沢山食べて英気を養ってくださいねー」


 そう言って、通り過ぎる女将を二度見してしまう。

 うはーうんおかわりするー。

……もぐもぐ

ゴックン

パクパク

シャキシャキ

ズズー

パクパク

ガブリもぐもぐ……ーーハッ?!



 ・・・なにか操られていたような。自分が自分じゃなかった気がすると我振り返り気づく。まるで幼子が乗り移っていたかのように食べていた気が。食べ方は自分なんだけども食べていたのが自分じゃないみたいな感じだ。気がとか感じたとか曖昧表現だが物的証拠が何故か減っているごはんだけだと、お前が食べてたと言われたらそれまでなので証拠にならず、よくわからない。美味かったのは覚えているはず。とても幸せであること確か。

 ・・・でもまーいっかと思うんだ。体に異常はないし、豚汁が食べられるなんて思わなかったからな。


 「女将さん。おかわりお願いします」


 「はい。よく食べますねー。はい、()()()です」


 え


 どういうこと


 ??二杯目の間違いでは?


 「二杯目ですよね」


 「いーえ。()()()ですよ。二杯目はナノスさんのテンションよりもずっと高かったですけど、元に戻りましたね」

 

 その様はちっちゃい子が好物に目がないほど騒ぎようで面白かったという。

 

 元に戻った?二杯目の間違いではなく、三杯目なのか。

 怖…くないか。全部自分のことだものな。未だ自分のことを理解し切れていなかったんだな。荒ぶる魂が自分にもあったんだなと畏れ慄くナノス。

 この世には精霊がいるって言うし、精霊のしわざなんてのもあるかもな。

 記憶が定かでなくなるほど、衝撃的な虎汁との出会いだったってわけ。

 

 女将から頂いた三杯目の虎汁を食べ始める。


 美味しい美味しいと思いながら、朝食を交互に食べ進める。今度はご飯をお供に食べたいな。此度以上に美味しくなるであろうと思いながら、美味しいパンを食べる。

 親父さんの作るごはんは美味いな。毎日日替わり飽きずにおいしく食べられる。新鮮食材に栄養バランスもよく考えられた献立だ。

 他の宿にも興味はあるがやすらぎ亭からはなれがたい。

 何度目かわからないほど褒めてきたやすらぎ亭を敬いばかりに感謝して頂いた。

 

 「ごちそうさまでした」


 よっしゃあ!今日は薬草採取雪辱を晴らすぞー!

 

 一応、皆んなわかっていると思うが虎汁は豚汁だったぞ。豚さんのような虎さんだ。マグヌエル図鑑に載ってた。

 知っている料理が出てきたときは薬草採取、知らない料理だったら鍛冶屋だって2択を部屋していた。

 そんなわけで薬草採取!本日の業務は決定しました。



 いくぞと席を立ち、女将に

「おいしい朝食でした。ありがとうございます。行ってきます」

 と声をかけ、ナノスは出入り口へと向かう。その背に感謝の言葉と無事を祈る言葉をかけられて勇気百倍、朝日を拝む。

 今日も始まったばかりだ。いくぞー。





 意気込んで森へ来た。森は西と北東方面にある。

 北の山脈は奥へ行くほど険しくなり魔物が強くなっていく。浅いうちはいいのだが、どんどん進むと迷ってしまい出てこれなくなる。山勘ある者や強者が進む北の山脈は未知の領域だ。

 ちなみに、王都から伸びる東西南の街道があり、それぞれの方面によって特徴があるので是非とも行ってみたい。

 これらの情報はマグヌエルシリーズのカルバーン王国周辺に載っていた。比較的新しい本だ。



 意気揚々森に来たわけだが、現在地は森と草原の境にいる。

 森は入る前に薬草を採取できたところから帰還できたところを思い浮かべている。途中訓練訓練と称してヴォーバルバニーがチラついたがすぐに打ち消して薬草採取できていた。フラグが立った気がしなくもないがおそらく大丈夫だろう。



 森は入り、探してポポタン見つけて、歩いてしばらくしたら違う薬草見つけてポポタン見つけた。

 

 「おっハチミツみっけ」


 幸い思い、いそいそハチに警戒されないように大玉の巣の下をナイフで切りつけて蜂の巣のかけらを頂戴する。甘い匂いがクマ的な魔物を誘き寄せることを警戒したナノスは、袋に満杯になった所で終わろうとした。


 ドガーーン

 

 

 ド派手な爆音と響きが伝わって来た。

 なんだなんだと目をキョロキョロさせる。身を低くすることを忘れずに。

 目を凝らし、感覚を鋭くさせる。

 そうやって周囲を確認すると、どうやら草原の方角で何かがあったようだった。今でも、

 

 ドガーーン


 と、響いている。

 急いで森の浅瀬まで走る。

 森の中から身を隠して草原を見渡してみる。

 あった。

 砂ぼこりをあげて、奇声を挙げながら何かしている人影がいた。

 

 「危ないやつだ」


 何の相手しているのかこっからじゃわからないが遠目から見て危ないやつだ。近づいても良い思いはないだろう。

 目を凝らして観ていると、大声をだして長物を振り回し草原の一部を刈り取っている。

 ド派手に暴れている奴の特徴は、白マントに背に黒十字の模様。着ている服も派手だ。相当な自信家か。また、大声というか奇声に近い叫び声。途切れ途切れに聞こえてくるのはギャハハと笑っている声。


 現時点で周囲にあれ以外に異常は特になし。おかしな奴がいるからなにもないのか。強者の気配がする危ないやつだ。

 近い者で言うと、バーグマンのような強者の気を纏った危ないやつに思えた。ずっと見ていれば気取られるだろうと、そっと視線を外し森の中を移動する。


 しばらく移動した後、意図的に息を吐く。

 汗が額から出てくるのを感じる。緊張して息を殺していたようだ。

 身体の強張りを体を動かしてほぐしていく。

 精神的疲労も強い。強い気に当てられて身も心も疲労している。


 「何だったんだあの人は」とナノスはごちる。

 

 氣が削がれて森に入る前の明るい氣が減っているのを感じた。

 こういう時は、楽しいことを想像してあの光景を忘れ去るに限る。周囲を見渡し、目視できる範囲で危険なものはないかを確認する。

 何もないのを確認すると、ナノスはその場で腰を下ろした。ちょうど苔が茂っている木の根元のそばに座る。座り心地が良い。苔を触るとポンポンと手が弾かれる。わさわさすると水気が手に付いた。

 心癒される。

 苔は何も言わないが生きているだけですげぇよと思われた気がする。

 少しの時間その苔と戯れた。


 

 苔と戯れて元気を取り戻したナノスは立ち上がり、薬草を探すことにした。

 一つ見つかればとんとん拍子で見つかる。最高にいいなとウキウキし出すナノス。

 時々薬草ならぬ毒草を見つけては慎重に袋詰めし、キノコもついでに採取。

 万能薬草ポポタンを規定十本一束に達し、ここらで切り上げる。

 心身共に万全ではない今余裕を持って帰ることにする。疲れている理由は先の例の危ない人に当てられたため。そうして森を出る。


 サーサーと揺れる穂先が全部繋がって生きているかのように草原は立体感があった。少し産毛似てなくもないなとナノスの頭をよぎった。

 きれいな光景の中歩く。


 しかしきれいな草原でも危険な魔物は存在する。

 そのため街道を歩いたほうが良いだろうと街道を探す。

 すぐそばにあった街道に一歩踏み出すその時、近くの茂みから不自然なガサガサッと音が鳴った。


 何か来ると、ナイフを出し構えた。


 出て来たのはラビットだった。


 「ジュヂュ!」


 好戦的な目だ。御し易いと思われたか。

 いや、縄張りに入ってしまっていたか。

 ラビットは戦うことを辞さない言わんばかりの眼差し。威嚇を鳴らしている。

 ちんまい頭部に生えている一角を見せつけるように睨めつけている。

 

 ナノスは戦いはできれば避けたい派である。できれば生涯自らが殺生関わることなく無殺といきたいが、そうはならないだろう。そんなものはまやかしだしあやま知なのだ。なんの得にもならない。

 身につけた技や知恵は大切なものを守るために使う。

 幸い目の前に立ち塞がるラビットを脅威には感じない。

 つぶさに観察する余裕さえある。決して慢心の類ではなく心根は真ん中にいるから気持ちにブレはない。

 ヴォーバルバニーとの死闘のお陰かどうかはわからないが、スキルである氣を保っていられる。


 そう言った諸々の流れる思考からナノスは無殺を選び、ラビットの縄張りを出るべく横に間合いをずらす。決してラビットから目を離さず刺激せずだ。


 ナノスの動きを見てラビットは反応を示すも動かず、ナノスが渦巻き状に離れていくのがわかる。

 徐々に輪が広がるように足をうごかす。


 順調。

 

 そう思った束の間、


 遠くの方で爆音がした。びくっと止まるナノス。

 その音でラビットが動いた。

 強襲だった。

 ラビットの一角頭突きがナノスを襲う。

 

 「…」 


 ザシュ、ドサッ


 戦闘は長かったが、結着がついたのは一瞬。

 結果はラビットの死。



 「・・・フーッ」


 ヴォーバルバニーほど強くない。強さも鋭さも素早さも。だから見て避けて胴体に一撃を入れることができた。

 ままならない。

 爆音さえ無ければ戦うことはなかったと思いはするが、それだけ。

 なぜか脳裏に奇声を上げて暴れていた人のことを思い浮かんだが気のせいだろう。

 見える!見えるぞ!と茶化せればよかったが、後味悪すぎる。やはり無殺だなナノスは実感と共に学んだのであった。

 心も身も疲れがあったにも関わらず打ち勝てたこともそう。前に進めている。この世界を生き抜くに、戦える技は必須だろうから。

 

 心も身も疲れがある時体育会系のように九回裏球早も落ちて球が走らない。始まる前にそんな状況を心配して野球なんてしないだろう。したら想像以上に疲労させるだろう。

 なんせ自分が望んでこんなことは起きない。ナノスはあれはあれでよかったと感じた。

 ラビットとの戦闘は不可抗力だが、打ち勝ち生き残れている。

 作為的なモノを感じざる負えないがまたも他の何かに感謝する。


 「俺は生き残り王都は帰還する」



 危険と隣り合わせでなく、平和な世界。

 それがナノスの目指す冒険譚である。





 


 

 


 


 

感謝は主語を人に、指摘する時は主語をコト神にすると、良い感じにまとまる。すごいねぇ、この発見は。教えてくれた人ありがとうございますね。

言葉は無数の響きが入っていますから美しいことでございますね。

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