19.美しい魂には美しく物事が見える
敷地内に入ってすぐのところで花の香りがした。赤バラピンクばらが咲いている、丸い花壇が入ってすぐのところ、中央にあった。
すごく良い気分だ。歓迎されている気がする。こういう露骨ではない歓迎の仕方は感性あると感じた。自然に沿っている感じは侘び寂びにちかいのではないだろうか。
案内されながら周囲を堪能してみる。
西洋の館が奥にあり、庭園の緑が至る所に存在していて生き生きとしているのを感じる。奥の館に続く道の中央には、ナノスの腰あたりに整えられた草木が丸みを帯びて周囲の雰囲気を柔らかく演出している。
屋敷の内壁には立派な木々が立ち並び、近くの木を見ると葉と葉の隙間を差し込むようにして地を輝かせる。
さぁ〜と吹く風につられて視線を流すと暖かそうな木漏れ日を見つけた。ぽっかりと空いている場所。あそこで日向ぼっこをして寝転べば、さぞ気持ちいいだろうなとナノスは思った。
そんなナノスの内心が表情に出ていたのだろう。ナノスの視線の先を見て執事は言う。
「あそこは若旦那様のお気に入りの空間ですね。小さい頃からずっとあの場所で遊んでいらしゃいました。周りの木々の方が若い方ですね。だから、あそこだけ空いています。今では若旦那様は忙しくしていらっしゃいますから庭師の手入れのみとなっております。」
なるほどとナノスは得心がいった。
人に歴史あり、歴史に人ありと言ったところか。
執事のエンハンスの後に館の中へ入り、質の良いとみられるものを横目に見つつ、中庭に出たところで人がいる場所に促され、そこへ歩いていく。
白塗りの丸い東屋の周りには美しい花が咲き誇り、白のテーブルクロス、その上にティーセット。椅子に腰を下ろしてお庭を見ている薄青のドレスを着たご婦人が座っており、その人のそばに白黒の服を着た女性が控えていた。
整えられた美しい庭園を眺めているご婦人のそばに案内をしているエンハンスと共にナノスは立ち止まる。
「ミラディア様、冒険者ギルドに依頼していた件の受けてくださいます方をお連れいたしました。ナノス・ジョー様です。」
ミラディアと呼ばれた婦人はゆっくりとした所作でナノスを見る。穏やかそうな顔立ちで挨拶をする。
「ようこそ、ご機嫌よう。お日柄も良くよい天気ですね。」
「はい、時も天候も恵まれております。このような縁にまたとない、出逢いの祝福でしょう。」
何言ってんだと思わなくもなかったが、このような言葉はこの場の状況に感じるままに言っているだけ。おかげもなにも場に沿った形だった。
だが、ナノスの返しを聴いたご婦人は目の前の冒険者に目をぱちくりさせ、コロコロと笑い出した。
笑う姿はとっても可愛らしさを感じさせる。
楽しくいたいナノスは内心で自分を褒めていた。つかみは良し。しかし、清々しいくらいに笑う。それも嫌味がない優雅な感じで。
爆笑と言わないまでもツボに入っていたらしく、ナノスは照れ草さに若干の居心地の悪さを感じていると、よくやく治ってきたらしい。
「ごめんなさいね。不快にさせてしまったかしら。思ってもみなかった返しをしてくれたからびっくりしちゃって。これも失礼ね。申し訳ないわ」
明るかった雰囲気がしょんぼりとしたものに変わった。
ナノスはどうしたものかと思ったが、ここも流れに任せようと思ったことを言うことにする。
「いえ、笑顔の素敵なご婦人だと思いましたよ。冒険者らしくないことを言ってびっくりさせてしまいました。」
このようなことをでしたら無難な対応に改めますがと言い、どうしますかと続けようとしたが、ナノスの言葉にかぶせるように、
「とんでもないわ!貴方のような冒険者が居ても良いと思うのよ」
元に戻ったことにほっとした。
おかけになってと言われたナノスは、向かいの席に座った。
「おかげでいい1日になると確信したわ。私はミラディア・コラーデンというの。貴方のお名前は?」
「ナノス・ジョーと申します。新米のGランク冒険者でありますが、よろしくお願いします。私の力を持ってお茶会にあたらせていただきます」
と、スチャと礼する。
スラスラとものを言い、キザったらしくもキビキビとした動作で合わせてくる冒険者。変わった風のもの珍しさに笑うご婦人。
「ふふふ。ええ、改めてよろしくね。ナノス・ジョーさん。ナノスさんと呼んでもいいかしら?」
控えている侍女の方々が何やら驚いている様子。爆笑していたあたりから驚いていたがどうかしたのだろうか。
それもそのはず。表情豊かに笑っている夫人を見るのは久しぶりだったのだ。コラーデン家を盛り立てた先代カダ主人が亡くなり、日に日に元気がなくなっていくミラディアを見るのは辛いものがあったが、今日来た初対面の冒険者に心開いているのを見て、一同はしっかり対応しなければと、歓喜に浸り気合いを入れていた。
後ろの方が気にはなったが、目の前の人と話ているのだと揺れる気をしっかり保ち、ナノスはミラディアの名前呼びを許した。
目を細め懐かしむようにミラディアは言う。
「私はもう少し若かったら、貴方に恋していることでしょうね。きっと」
その言葉にきょとんとするナノス。"きっと"の言葉は自分に向けられた言葉ではないと感じたが、思ったことを口にしていただけなのに、ものすごく好印象で困惑する。
だから、無難に返事をした。
「はぁ、恐縮です」
…少しいいだろうか。さきほどからさっきから控えている方々のざわめきが気になってしまう。動いていないのに澄まし顔で動揺を伝えてくるのだ。
とりあえず、ミラディアの話を聞かねばならないので、屋敷の人たちは感情豊かなんだなと納得することにする。
「では、少しお茶会をしながら任せたい依頼の話をしましょう」
ミラディア夫人の言葉を皮切りに控えていた方々がテキパキとあっという間にお茶会の様相に変えた。
「さあ、いただきましょう」
ミラディア夫人に促されてテーブルに用意されたティーカップを見る。
…驚いた。本物の給仕にはティーカップの中から湯気が出ないようだ。
何にがなんだかわからない器具を使って紅茶であろう茶葉を適当にお湯を潜らせてしばらく置いてたようだが、意味があったのだなと新しい発見をした。
ティーカップを手に取り口元に持っていく。
ほのかな茶葉の香りが鼻腔をくすぐる。甘くて香りだ。それに、茶色、オレンジ色…いい色なのではないかなと感じた。紅茶に詳しくないからなんて言う茶葉かわからないがな。ソーサーを出されたとき、何茶葉でございますって言ってたが、よくわからない名称だった。自身の認識範囲外は翻訳能力が緩いことが判明した。
香りも色も十分楽しいと感じたが、さて味だ。
…ここまで十数秒。よく味わっていたと思う。まだ、口にしていないが。
ナノスはチラッと向かいに座るミラディア夫人を見た。
ニコニコ顔だ。
紅茶を飲んで落ち着いているようす。
わかっている。飲めと言うのだろう。…いただきます。
「おいしい」
身体がほぐれた。自覚なく緊張していたらしい。
「よかったわ。お口に合って」
にっこりと微笑むミラディア夫人。
今まで好んで紅茶を飲んでこなかったナノスにも、この紅茶はふつうにおいしいと感じた。渋みがないのが良い。
「ささ、お菓子も食べて」
促されたナノスは、ティーセットお菓子が載せられた大皿から取り分けられた、ケーキのような見た目をしている洋菓子に目を向けた。
(ケーキ…マーマレード?)
美味しそうな見た目。断面が綺麗。
「…いただきます」
マーマレードケーキのような洋菓子をフォークで刺して口に運ぶ。
「…おいしい」
高級菓子のようなおいしさ。しっとりふんわりフォークで刺した時の弾力と噛む時の弾力、外側内側うまい具合に合わさって口溶けが良い。外面に少しカリッとしているところ、これがなかなかおいしい。果物の香り、これはマーマレードですね。おいしいです。スポンジからでしょうか、酒でマーマレードを押し出した感じ、良いですね。あと、ジャムを混ぜ込んであるのだと思いますが、果実の粒味と果汁が噛むことで味覚を満たしてきます。とても美味です。ここまで味わってようやく見覚えある菓子を掘り起こしました、これはパウンドのケーキですね。
これと先ほどの紅茶…なるほどベストマッチングです。ここに幾多の和合を感嘆した。
つまり、とてもおいしい。
結果、この世のお菓子はおいしくてお茶も素敵。こんな世界があったのかと少しそこら辺の組み合わせカフェに行けば良かったとほんのちょっぴり期待して後悔した。
しかし、それは一瞬のこと。
ナノスはその後、図々しく行ってお菓子とお茶を所望してパクパクゴクゴクと飲食した。稀に、会話を挟みながら。
十分に堪能したナノス。まだまだ腹に入れられるが本題に触れていない。
紅茶を飲みながら、依頼はこれで良いのか。そう思うていると、ミラディア夫人はナノスを見て切り出した。
「ナノスさんに来て頂いたのは楽しくお茶会するのと他に、探し物をして欲しいからなの。詳しく伝えていないことにはわけがありますわ。ごめんなさいね。ちょこっと目をつけられるのも困るから探し物を小物と付け加えただけなのよ。」
この先は冒険者ギルドは把握していない話。いくらでも憶測は立てられるが、立てられるからこそ周囲が嗅ぎ回ってしまうか。
ここは平和的に、巻き込みたくないから情報最小限にして知らせなかったとそう解釈しておこう。
「ええ、ギルドからはそのようにお茶会と"探し物"と伝えられております。」
「指名した貴方が誠実な方でよかったわ。ギルドもね。知らせたいのだけども、身内の探し物なだけに、無用な疑いをかけられて噂を誇張されるのはうれしくないことなのよ。」
困る顔、疲れがみえた。
「そうですね。皆がうれしいことに身を任せていただけると救われますね。」
噂を立てて困るのは噂を流したひとや噂をよくよく吟味せず上の物言いを信じてしまうこと。…うれしいことを想像してほしい。
例えば、祝い事があったから贈り物を探しているとか、大切なものを探しているとか。そういったことならばポジティブな心理の方を向いて祝うことを願うし、他のために何かしてあげたくなる。
逆に、他の粗探しばかりしていると妬み僻みが大きくなってきれいから遠くなっていく。ネガティブな気に落ちていく。愛されたいでは妬み僻みを得ます。それでも良いのだけれども。本人の選択の連続だし。
愛したいから続くんです。あれもこれも欲しいでは枯渇します。すでに愛されています。これが一つです。そうでしょう?
親友、家族、ペット、知人、その他のことにたのしい想像をする。
子が生まれてくれた、相手がいなければその思いを味わうことができなかったし、相手がいなければ子に出会うことができず、今ある共にいられる幸せを分かち合うことができない。
相手に対してああしろこうしろと伝えても変わらない。それはむしろ、新しい因縁を生む。
ではどうすれば良いか、そういう人なのだと受け入れてその考えを味わいきったら手放すこと。そして、たのしいことうれしいことを想像しようではありませんか。たのしいことうれしいことに目を向けましょう。
ネガティブな親?だったら変わろうとするのが遅い人でありましょう。友人の親を推しにすれば良い。いいな、なんで私はとか妬み僻みでなく、かっこいいね、料理上手とか褒めてあげること。あなた方は推しに対する愛情をもっているのです。あとは広げるだけでしょう。
そうしていつかはそういった思いは感謝になっていきます。
感謝は、いつでもどこでもどこにいてもどのような環境状況であっても誰もが持つ力。感謝は尊い、愛すること力を与えてくれます。
思うことは自由。
悪く思えば悪く起こる。
善く思えば善く起こる。
そう言われて私もやろう真似を。よろしい。しかし、注意点。
私の道と貴方の道は違います。道理ですね。
では貴方の道の最善も違いますね。私は書いていますが苦ではありません。楽です。では、あなたは?貴方の好きは何?そこだけは私に聞かれても答えられない。貴方が後生大事しまっていたもの。鍵は貴方が持っています。聴いてみてください自分に。私の最善は何と。応えてくれます。何かしらで。嘘は申し上げておりません。わかりますか?
では、後少々続きです。善いこと、和を意識して行動すれば善いことが来る。善いことに移ればさらに善いことに移る。感謝を伝えれば聞いていただけたことに感謝します。他がいたことに感謝します。歌えば気分が良くなるように、その歌に感謝している。その歌がなければその気持ちを知ることも気分が良くなることができなかったであろうことは間違いないのだから、より一層感謝感謝に至る。その歌にも人生?はある。生みの親。生みの親の人生やその歌の過去や未来も。波状に影響を受けている。歌とは感謝そのものかもしれない。
閑話休題
「そうなのよ。皆がいい人ではあるのだけど、同時に悪い人でもあるのよね。合う人合わない人がいるもの。それを多角的に物事を見れる人はいるのよね。そういう人は成長が早いわ。気づいてくれてありがとう。
で、本題の探し物なのだけど、孫娘のペンダントなの。代々受け継がれてきた家宝かしら。めずらしいクリスタルでね、一般どころか王族も所有していないものなの。」
王城の廊下で見た調度品よりも価値がある継承家宝ということか。…それ無くしたら大事ではないのとナノスは思った。
「ああそうそう、本当の家名はクリスタルコラーデン。ミラディア・クリスタルコラーデンね。略してあるの。理由は察してね。クリスタルはそのペンダントからきているらしいわ。そう聞いてる。」
理由は言わずともわかるだろう。合わない人が引き寄せられるからだ。秘密にしておけということ。
「受け継ぐものには印というか、感覚があるみたいでね。これは私が管理しておかなければならないっていうの孫娘は。夫もそう言っていたからそうなんでしょうね。私は持ったことはないわ。他所から嫁いできた人だもの。それで、継承されてきた代物だからある程度予想つくかしら。持っていると繁栄を約束されているの」
真剣な目でミラディア夫人はそう言った。
効果はどこまでかはわからないがナノスはそのペンダントを早く見つけねばならないと感じてしまう。
おそらく、効果はあれだろうから。
匂い、音、ひと、ヒト、天候、自然、星、宇宙、想い色んなこととつながりうれしいたのしい因果をつなぐ。善くも悪くも変わりゆく渦の中、今今である。




